悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、仕事へのモチベーションに悩む人のためのビジネス書です。
■今回のお悩み
「毎日同じ仕事でモチベーションが落ちるときがあります。どうしてますか」(56歳女性/事務・企画・経営関連)
少し前、知人から仕事に関する相談を受けたことがありました。今回のご相談ととても似ているのですが、30代の独身女性であるその人は、仕事について悩み、自分を過度に追い込んでいたのです。
「仕事自体がつらいわけではないのに、仕事のなかから喜びを見出すことができない。同じことを繰り返すことしかできない自分は、人間的に欠けているのかもしれない」
正直なところ、「極端だなぁ」と感じました。もともと真面目な人なので、そうやって過度に重たく考えすぎるのです。そこで僕は、思ったことをストレートに伝えました。
「気持ちはわかるけど、考えすぎだと思うな。人間なんだから、同じ仕事が続けばそりゃ飽きるよ。つまり、飽きて当然。だから、『人間はそういうものだ』ということを認識したうえで、『じゃあ、モチベーションを上げるためにはどうしたらいいか』を考えて、ひとつひとつ試してみればいいんじゃない?」
そう、同じことを繰り返していれば、飽きてきたり新鮮味がなくなってきたりして当然なのです。現実問題として、「毎日同じことの繰り返しで新鮮味がない」「だからモチベーションが下がる」と困っている人が少なくないことがその証拠。
ですから「つまらない」「だめだ」と落ち込むのではなく、ほんの少し視点を変え、それを実行に移すことがなにより大切なのではないでしょうか。
それは、決して難しいことではないはず。やる気やモチベーションの高め方について書かれた書籍も多いので、それらを参考にしつつ、共感できたことを試してみれば、少しずつでも状況は改善されると思います。
無気力の原因は外的要因
『「やる気が出ない」が一瞬で消える方法』(大嶋信頼著、幻冬舎新書)の著者は、心理カウンセラーとして7万件を超える臨床を行ってきたという人物。カウンセリングには、自分の意に反して「気力が湧かない」「動けなくなっている」と感じているような人もたくさん訪れるのだそうです。
そうした人に共通するのは、「怠け癖があるから」「意志が弱いから」「つい先送りにしてしまう性格のせいで」など、自分の性格やメンタルの弱さのせいでそうした状態に陥っていると思い込んでいること。つまり、先ほど話題に出した女性と同じなのです。
しかし著者によれば、「無気力」の原因は外的要因であることが大半。いわば、それを客観的に認識すること(外在化)ができないため、無意識のうちに自分を責め、さらに動けなくなるという悪循環が起きているということ。
「動けなくなる」という状態は、たとえるとしたらみなさんの心の中で「バグ」が起きているようなものです。バグというのはパソコン用語で、「プログラムの中にある誤り」を指します。このバグがあることで、システム全体に狂いが生じ、システムダウンを引き起こすこともあります。
たった1つのバグが原因でパソコンが起動できなくなるように、心の中に1つのバグがあるだけで、その人自身が起動しなくなり、生活に支障をきたし、思わぬ健康被害をこうむることさえあります。しかもバグが生じる原因は、その人が普段意識しないところに隠れていることが多いため、自分ではバグの原因に気づけないことがほとんどです。(「はじめに 『バグ』の原因は気づきにくい」より)
バグは、どこで起きているのかを見つけることができれば修正可能。そして本書を読めばバグの原因に思い当たり、自分の変化を実感でき、自信を取り戻せると著者は断言しています。
そして本書では「基本事項」を筆頭に、無気力(バグ)をつくる大きな要因である「万能感」「嫉妬」「脳のネットワーク内のトラブル」について解説したあと、具体的な「バグの撃退法」が紹介されていきます。
具体例も数多く盛り込まれているので、バグを撃退するために必要な知識とスキルを無理なく身につけることができるでしょう。
やる気と集中力の高め方
スポーツにうまい下手があるように、勉強や仕事にも向き不向きはあるもの。しかし、ある程度のレベルであれば誰でも到達できるものでもあり、それを加速させるための武器が「やる気」と「集中力」。
この2つは人間が本来持っているものなので、方法さえわかれば誰にでも引き出すことができる。
そう主張するのは、『東大ドクターが教える、やる気と集中力の高め方』(森田敏宏著、クロスメディア・パブリッシング)の著者。地方の新設校から最難関の東京大学理科三類に合格するなど、自身が「やる気」と「集中力」によって苦難を乗り越えてきたという実績の持ち主です。
そんな著者が本書で紹介しているのは、身体と脳のメカニズムを知ることによって実現可能な「ワンステップ・メソッド」。キーワードは、「目標を設定すること」「目の前の一歩」「時間」だそうです。
遠くの目標を設定し、そして常に見失わないようにします。そして、その目標に向けて「目の前の一歩」に集中します。その集中力を高めるために「時間」を活用します。(「はじめに」より)
どんなことを成し遂げるにしても、避けて通れないのは、とにかくまず「目の前の一歩」を踏み出すこと。しかし、それができない、踏み出す方向が間違っている、あるいはその歩みが遅すぎるため、うまくいかない人が多いのも事実だと著者は指摘しています。
そこで本書では、ワンステップ・メソッドを活用した仕事術が紹介されているわけです。たとえばそのなかには、「8割の仕事は捨てなさい」という大胆な主張も登場します。
あなたの仕事の8割は捨ててもいいのです。(中略)部下に任せられる仕事、自動化できる仕事などなど、選り分けていったら、最後に残るのは全体の2割くらいになるのです。(中略)最後に残った2割はとても重要な仕事になります。これこそが、あなたにしかできない仕事です。(「はじめに」より)
たしかにそう考えれば、やる気やモチベーションもおのずと上がってくるのではないでしょうか。
小さな行動の効果
さて、最後は、ちょっと違った角度からこの問題を捉えてみることにしましょう。そのためのテキストは、『人生を大きく変える小さな行動習慣』(S・J・スコット著、 和田美樹訳、日本実業出版社)。
著者は、健康、運動、仕事、人間関係、お金など、さまざまなカテゴリーでの「行動習慣」を提案しているアメリカの「効率化マニア」。本書においては、そのベースとなる「小さな行動」の重要性を説いています。
実際に成功を収めた人の話をよく聞いてみると、成功はプロセスだとわかります。同じ日課を毎日繰り返し、来る日も来る日も地道にコツコツ、一進一退。そんながんばりが、長年かかって実を結ぶケースが大半です。(11ページより)
いいかえれば、毎日同じ仕事を繰り返すことは、決して無駄ではないということ。
・目標達成につながる最も重要な行動(習慣)を見きわめる
・その行動を毎日繰り返す
(11ページより)
人生で成功した人は「小さな行動」の効果を理解しており、そのうえで上記2点をきちんとこなしているというわけです。
しかし「小さな行動」は、後回しにされやすいものでもあります。そこで著者が勧めているのが、複数の小さな行動をセットにする「習慣(ハビット)スタッキング」という考え方。
1.自分にとって重要な「小さな行動」を見つける
2.同じくらい重要な行動をセットにまとめる
3.毎日決まった時間にそれらを実行する
4.トリガーを使って、自分にスタックの実行を促す
5.面倒に感じないようひたすら簡単にする
(14ページより)
つまり本書では、これらをどう実践するか、その方法を紹介しているわけです。「小さな行動」は、「毎日の同じ仕事」と解釈することもできます。そう考えてみれば、本書の有効性がわかるのではないでしょうか。
さて、冒頭でご紹介した女性のその後について触れておきましょう。相談を受けたのはちょうど1年ほど前のことだったのですが、数カ月前に連絡してみたところ、とても充実した毎日を送っているようでした。
「なかなか連絡できなくてすみません! でも、おかげさまで忙しく充実した毎日を送っています。おっしゃるとおり、視点を変えてみるといろんなことがわかりますね」
僕のアドバイスが役に立ったのかどうかはわかりませんが、考え方を変えてみることによって、彼女がなにかをつかんだことは間違いないようです。そんなことからもわかるとおり、ちょっと思考の角度を変えてみれば、いろんなことが改善できるのかもしれません。
著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)
作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。