悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、成績が振るわないという営業職の方へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「新卒から営業職ですがずっと成績が振るわず……向いていないのかもしれません」(35歳男性/営業関連)


営業に向いていないのは僕も同じで、だからこそ文章を書く仕事をしているともいえるわけです。したがって、「営業の真髄とはこういうもんだぜ!」などと偉そうに語れるはずもありません。

が、今回のご相談に関しては、ひとつだけピンときた部分があったんですよね。

新卒から35歳の現在まで、ずっと営業を続けていらっしゃるという事実がそれ。成績が振るわないのかもしれませんが、それでも続けられているのであれば、少なくとも「向いていない」とはいい切れないように思うのです。

ですから、「多少なりとも向いている部分があるからこそ、続けてこられた」と考えるほうが建設的なのではないでしょうか? 少なくとも、せっかく10数年続けてこられたのですから、いまここで諦めてしまったのではあまりにもったいない。

だからこそ、「少しでも状況を改善させるためには、ここからどう進んでいけばいいのか」を考えていくべきだと思うのです。

営業で使える"ショートカット"を知る

"ツラい"と思いながら営業活動をしていれば、"苦しい毎日が続き、契約を取れた一瞬だけ楽になる"といったストレスまみれになってしまいます。これは地獄でしかありません。
その一方、お客様から感謝されながらどんどん成績を上げ、人の何倍も給料を稼ぐ人が存在しているのも事実です。彼らは輝いており、何より毎日が楽しそうです。
毎日苦しみながら営業活動をしている人もいれば、感謝されながら楽しく稼ぐ人もいます。なぜ、こんな不公平が起こるのでしょうか?
その答えはズバリ"営業・セールスの攻略法"を知っているか、知らないかの差です。(「はじめに」より)

つまり攻略法さえ知ってしまえば、驚くほどあっさりと結果が出てしまうものだということ。それが、『思考・行動・結果が劇的に変わる 営業力の基本』(菊原智明 著、 総合法令出版)の著者の考え方です。

  • 『思考・行動・結果が劇的に変わる 営業力の基本』(菊原智明 著、 総合法令出版)

ハウスメーカーに勤めていた7年間は、ずっと成績を上げられない営業スタッフだったのだとか。しかし"営業レター"を通じて多くのお客様とつながりを持った結果、トップクラスの営業成績を残すことができるようになったそう。

つまり本書では、そのときの経験のなかから発見した、営業で使える"ショートカット"をさまざまな角度から解説しているのです。

たとえば営業を左右するものに、「コミュニケーション能力」の有無があります。"コミュニケーション能力がすごい"と思わせる人は営業においても成果を出すことができますが、そうでない人はなかなか結果につながらなかったりするわけです。しかし実際のところ、コミュニケーション能力の高さは持って生まれた才能だとは限らないのだと著者はいいます。

その証拠にここでは、コミュニケーション能力の高い人が、"コミュニケーション能力を高めるトレーニング"をしていたことが明かされています。ここで登場するAさんは、日常的に次のようなことを意識し、トレーニングしていたというのです。

・初めて行く会合などには1人で参加する
・すでに出来上がっているグループに入っていく
・苦手ジャンルの人たちとも交流する
(25ページより)

とにかく、自分の知らない世界へ物おじせずに飛び込んでいくべきだということ。このAさんも最初からそうできたわけではなく、もともとは引っ込み思案で、新しいことには尻込みしてしまうタイプだったそう。

しかし、それではいけないと思い、新しい世界に入っていくトレーニングを繰り返したため、"高いコミュニケーション能力"を身につけることができたというのです。

初対面の人と話すとき、Aさんは最初のいくつかの会話で相手の全体像を把握します。"どれくらいの知識があるのか?""どういう性格か?""グループ内の立ち位置は?"といったようなことを把握します。そして、相手が嫌がらないところまで入っていきます。(25ページより)

コミュニケーション能力を高めるために、こういった“コミュトレ”を積極的に行うことが大切だというわけです。とはいえ難しいことをする必要はなく、“別部署の人に挨拶する”というような、できることから始めてみればいいようです。そうやって小さなことを積み重ねていけば、それが基盤となって、徐々に営業力が上がっていくということです。

感覚ではなく、理論的に考える

一方、『売り込む前に売れる! 即決営業の超準備』(堀口龍介 著、秀和システム)の著者は、トップ営業になる人たちは、「俺は絶対にトップに立つ」という強い執念を持っているものだと主張しています。そこで本書では、執念を結果につなげるための考え方や方法論を明らかにいているのです。

  • 『売り込む前に売れる! 即決営業の超準備』(堀口龍介 著、秀和システム)

興味深いのは、「営業がツラいのは売れないからではない」という著者の考え方。売れないからでも、お客さんに断られるからでも、ノルマを達成できないからでも、上司に叱られるからでもなく、「どうすれば売れるのかがわからない」ことこそが、営業がツラい本当の理由だということです。

では、どうすればいいのでしょうか? 大切なのは、やるべきことを見つけ、成功した自分をはっきりイメージすること。それさえできれば、ネガティブ感情に引っ張られなくなるというのです。

ここで重要なのは、感覚ではなく、理論的に考えること。そこで、以下の「売上方程式」を使うことを勧めています。

(1)売上=平均単価×成約数
(2)成約数=アポ数×成約率
(3)アポ数=アプローチ数×設定率
(44ページより)

たとえば「アポ数」が少ないという壁にぶつかったら、(3)にあてはまるわけです。

他の営業マンとくらべて「アプローチ数」は多いのに「アポ数」が不足しているなら、「設定率」が低いとわかります。すると、問題解決のためには、アポトークを磨くことが大切だということが明確になります。

そのためには、まず自分のアポトークを録音する。アポ数が多い仲間のトークをいくつか録音させてもらって(もしくはトップセールスのアポ動画などを参考にして)、自分のトークスクリプトや話し方と比較する。新しいトークが自然に口から出るようになるまでロープレで練習する。ロープレの録音で完成度をチェックする。OKなら本番でトライする……と、この繰り返しです。(45ページより)

営業には「売る」という目的があるため、とにかく実践あるのみ。才能がある人よりも、こういった準備を怠らない人こそが勝ち残るという考え方なのです。

新しい売り方「NEW SALES」を知る

ところでご存じのように、現代においては「モノの売り方」が大きく変わりつつあります。そこで『NEW SALES 新時代の営業に必要な7つの原則』(麻野耕司、ダイヤモンド社)の著者は、これまでの古い売り方を「OLD SALES」、これからの新しい売り方を「NEW SALES」と定義しています。

  • 『NEW SALES 新時代の営業に必要な7つの原則』(麻野耕司、ダイヤモンド社)

「OLD SALES」のまま脱皮できない企業と人は、取り残されてしまうということ。そこで本書では「NEW SALES」のあり方を解説しているわけですが、注目点のひとつは、「『自分のキャラクター』ではなく『相手のキャラクター』に合わせる」べきだと説いている点です。旧来の営業においては自分のキャラクターがものをいったわけですが、まったく考え方が異なっているのです。

これまでの営業は、商談や接待を通じて、じっくりと顧客一人ひとりの状況や心情を理解することができました。
しかし新しい時代の営業には、そうした十分な時間がありません。即座に一人ひとりの状況や心情を捉え、的確に対応できなければ、顧客を逃してしまうのです。(110ページより)

購買に至るまでの関係者全員の感情を読み取り、信頼を勝ち得ていくことこそが求められるということ。本書ではそんな新しい時代の営業スタイルを「シンパシー営業」と呼んでいます。

シンパシーとは、「共感」の意。雑談や接待が減っているこれからの営業においては、限られた情報のなかから相手の心情や感情を読み取り、共感力を高めていくスキルが欠かせないということです。

顧客一人ひとりの置かれている状況や心情を適格に捉えて対応する「シンパシー営業」。
心をつかむ営業担当者は、ちょっとした顧客の発言や行動から、その裏側にある状況や心情を読み取ることに長けています。
これを実践するのは、顧客のパターンかが欠かせません。表層の発言や行動から真相の状況や心情を読み取るには、「勘のよさ」などの素養以上に、「こういう場合にはこういう心情や状況が裏側にある」というパターンを理解しておくことが必要です。(110ページより)

その方法をここですべて公開するわけにはいかないので、詳細については実際に本書で確認することをお勧めします。しかし、上記のような考え方を頭に入れておくだけでも、旧来的な営業スタイルからの脱却を図ることはできそうです。