悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、職場の合わない同僚に悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「どうしても合わない同僚がいて、苦痛で仕方がありません……」(39歳女性/専門サービス関連)


誰にでも、「合わない人」はいるもの。

かつて会社勤めをしていたころ、僕の身近にも「好き嫌い以前に、価値観が違いすぎる」と感じずにはいられない人がいました。

そのため、なるべく距離を置くようにしていたのですけれど、仕事である以上はそうもいかない場合だってあります。人間関係とはそういうもので、だから今回のようなお悩みが生まれることになってしまうのでしょう。

しかし、とはいえ合わないものは合わないのです。だとしたら、抱え込みすぎないほうがいいのではないかと僕は思います。どのみち合わないのであれば、「そういうものだ」と割り切ってやりすごした方が気分的に楽ですからね。

「それではなんの解決にもならない」と思われるかもしれませんが、残念ながら解決の糸口がない場合もあるのです。ならば、少しでも楽になれる方法を考えるべき。少なくとも僕は苦手な相手と、そのように向き合ってきました。

すごく単純な考え方ですが、合わない人のために嫌な気持ちになるなんて損じゃないですか。損得勘定ではないけれども、そのくらいに考えていれば多少は過ごしやすくなるのではないかと思うわけです。

相手ではなく「自分の心理」にフォーカス

人間関係のもつれやトラブルをプラス思考でとらえられる人はまずいません。でも、マイナス思考で対処すると、たいていは泥沼にはまっていってしまいます。(「はじめに」より)

精神科専門医である『もし世の中から面倒な人がひとりもいなくなったとしたら 面倒な人・苦手な人のトリセツ』(メンタルドクターSidow 著、アスコム)の著者も、このように述べています。人間関係の悩みを解決させるための効果的な方法を伝えるために、本書を執筆したのだとも。

  • 『もし世の中から面倒な人がひとりもいなくなったとしたら 面倒な人・苦手な人のトリセツ』(メンタルドクターSidow 著、アスコム)

面倒な人だからといって、簡単に関係を絶つわけにはいかないケースも多いのです。そこで著者は、「できれば良好な関係をキープしたい」「こじれた関係を修復したい」と望んでいる人に向け、それを実現するためのメソッドを紹介しているわけです。

最大の特徴は、「面倒な人」をキャラ分けしてそれぞれについての対処法を明治している点。つまり本書はそういう意味で実用性が高いのですが、まずそれ以前に注目しておきたいのが、「相手に自分の"面倒くさいスイッチ"を押させない」という項目です。

人がなぜ「面倒くさい」という感情を抱くのか、そのメカニズムを知っておけば、自分で自分をコントロールできるようになるというのです。

嫌悪や焦燥といったマイナスの感情が生まれてしまうのは、相手がこちらの"面倒くさいスイッチ"を押してくるから。ならば、そのスイッチを押させない対策や、押されたときに感情をセーブする対策をあらかじめ講じておけばいいという考え方です。

相手の性格、考え方、行動パターンを変えることはなかなかできません。
でも、自分を変えることならできます。しっかり対策を立てることができていれば、同じ行為をされたとしても、許すことができたり、認めることもできたり、場合によっては相手の長所に気づくことさえもできます。
これを目指しましょう。
こちらの気持ちの持ち方次第で、状況は大きく変わっていきます。理由がわかれば少しは納得できるところが出てくるかもしれないし、それに対処するための道筋も見えてくる、というわけです。(27〜28ページより)

相手との関係がうまくいかない場合は、とかく自分の視点で問題を捉えてしまいがち。それは当然のことでもあるのですが、あえて相手の心理にフォーカスせず、その相手を面倒くさいと思っている自分の心理にフォーカスする。

まずはそれこそが、問題解決に向けたファーストステップになるということです。

相手のことに興味・関心を持ち、大切にする

『「職場のやっかいな人間関係」に負けない法』(飯塚健二 著、三笠書房)の著者は、企業の人事組織領域を中心としたコンサルティングや研修・ワークショップなどを通じ、さまざまな業界や企業の支援をしてきたという人物。

  • 『「職場のやっかいな人間関係」に負けない法』(飯塚健二 著、三笠書房)

そんななかで多くの人が、人間関係にストレスを感じながら仕事をしている光景を目の当たりにしてきたそうです。そればかりか自身にも、人間関係に悩んできた経験は幾度となくあるのだとか。人間不信に陥ることもあったといいますが、そんな時期に本書で紹介している「iWAM(アイワム)」に出会ったことが、暗闇から抜け出すきっかけになったのだといいます。

「iWAM(inventory for Work Attitude and Motivation)とは、ベルギーで開発された、認知科学をベースとした考え方です。職場で使っている「言葉」に着目し、その人がどのように考え、感じているかを分析し、体系化したものです。いま現在、20の言語、35か国以上で展開されています。(「はじめに」より)

人間関係の問題は複雑で難しいからこそ、その戦略としての「iWAM」が役に立つというのです。

著者は、いい人間関係とは「わかりあえる関係」であり、そのためには「自分に見えていないことがある」という前提に立って、相手のことに興味・関心を持ち、大切にするという気持ちで対等にコミュニケーションをとるべきだと主張しています。

たとえば、作成した報告書を上司に提出しに行くとしましょう。

あなた「先日ご指示のありました資料ができました」
上司A「ああ、そこに置いといて……」

あなた「先日ご指示のありました資料ができました」
上司B「ありがとう。そこに置いといて……」

上司Aと上司Bの違いは、「ありがとう」というひとことがあるかどうかだけ。しかし部下の立場からしてみれば、受ける印象や感じ方はまったく変わります。そのときの態度や表情も関係するものの、「ありがとう」があることで印象はぐっとよくなるわけです。

このように、ことばには大きな威力があるもの。だからこそ、ことばに敏感になるということが、コミュニケーションをうまくとるためには必要であり、それが本書における最重要ポイントでもあるということです。

「嫌いなヤツを消す」テクニック

『嫌いなヤツを消す心理術』(神岡真司 著、清流出版)とはドキッとするタイトルですが、もちろん物理的に「消す」という意味ではありません。嫌いな人に対し、密かに心理技法を施すことで、その人の心にも変化を起こそうということ。

  • 『嫌いなヤツを消す心理術』(神岡真司 著、清流出版)

つまり、相手にも「こちらを嫌う人」という「敵の領域」からの脱出を図ってもらおうという考え方のようです。

一般的に、「嫌いな人」にはなるべく近寄らないようにするべきだと考えられがち。事実、それは無難で簡単な対処法だといえそうです。ところが相手に気づかれた場合、それが一転して"危険な対処法"にもなってしまう可能性もあります。

職場、取引先、近隣、家庭といった逃れられない環境のなかでは、物理的にも限界があり、「感情の返報性」も働きやすいからなのだそうです。

「感情の返報性」とは、こちらが相手を嫌っていると、それが相手にも敏感に伝わり、相手もこちらを嫌ってくることーーを言います。すると、こちらに脅威を感じた相手のほうが、攻撃を仕掛けてこないとも限らないでしょう。
そのため、「イヤなヤツだな」と感じたら、できるだけ相手に気づかれないうちに、「嫌いな人」の存在を、心の中から決しておくほうが賢明なのです。(「プロローグ 『嫌いな人』を消すと人生が爽やかになる!」より)

たとえばそのための手段のひとつとして、著者は「嫌いな人がス〜ッと消える呼吸法」を紹介しています。嫌いな人に気持ちを遮られたときは、瞬時に頭を切り替えることが必要。そうすれば無駄なエネルギーの浪費が避けられ、心の安定が得られるというのです。

嫌いな人のことが浮かんだら、まず肩を落とし、全身の力を抜くようにしてください。
そしてゆっくり呼吸しながら、リラックス、リラックスと念じます、
それから、肺活量検査の時のように、息を大きく吸って一度お腹に溜めてください。ほんの1秒、2秒だけでよいのです。
そして、一気に「ふううーーっ」と全部を吐き切ってみましょう。
日頃、自分の呼吸のことを意識することはありませんが、これを行う時には、否応なく呼吸に意識が集中します。
息を吐き切る時には、苦しくて特にそうなるでしょう。
これを1〜2回行います。
すると、「嫌いな人」のことが頭に浮かんでいたのが、ほとんど気にならなくなっているはずです。
このあと、ゆっくり深呼吸しながら、好きなことを思い浮かべます。(中略)「快の気分」に浸り、それをゆっくり味わいます。
リラックスした気分でこの状態を、しばらくぼんやり続けましょう。(75ページより)

すると「嫌いな人」のことが、一切遮断されてしまうというわけです。万が一、また「嫌いな人」のことが数多に浮かんだとしても、上記の手段を繰り返せば気持ちをリセットできるそう。

こういうちょっとしたアイデアを活用するだけでも、気持ちを切り替えることは可能かもしれません。