悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、部下の教育に悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「部下の教育と思っていてもパワハラと言われそうで不安」(50歳男性/その他技術職(医薬・食品・化学・素材他))


通常、上司が部下を叱る場合、その背後には教育的な意図があるものです。「社会人として成長してほしい」とか、「しっかり力をつけてほしい」とか。つまり期待感を前提としているということですが、残念ながらそんな思いが伝わらないケースがあるのも事実。

今回のご相談にあるように、「教育のつもりだったのにパワハラ扱いされた」というような話は決して珍しいものではないわけです。

上司だって、当然のことながら叱って気持ちがいいはずはありません。しかし部下のためだと考えれば、教育の一環として叱らなければならない局面もある。だから、(本当は気が進まなかったとしても)よかれと思ってそうする。なのに正反対の取られ方をされる可能性があるなら、それは残念な話ですよね。

でも、そうはいっても「上司対部下」という現実は目の前にあるのです。だとすれば円滑なコミュニケーションを実現するためにも、上司として大人の余裕を示すべきなのではないでしょうか。

もちろん、それはいうほど簡単なことではないでしょう。とはいえ上司である以上、それも仕事と割り切る必要べき。そのほうが、精神的にもいくぶん楽でしょうしね。

批判ばかりの部下への対処法

『困った部下を戦力化する45の即効スキル』(西村克己 著、梧桐書院)の著者は、「人の批判ばかりする部下はいるものだ」と指摘しています。ただし、そういう部下に限って、行動力は口ほどでもないのだとも。

  • 『困った部下を戦力化する45の即効スキル』(西村克己 著、梧桐書院)

また、自分ではなにもアイデアを出さないのに、人のアイデアに対して評論家的な発言をする部下もいることでしょう。ですからときには怒鳴りたくもなるわけですが、批判的な部下、評論家的な部下にはどのように対処すればいいのでしょうか?

この問いに対し、著者は次のように答えています。

批判や文句、言いわけを言う時間があるなら代替案を出すという習慣をつけさせましょう。 仕事では、現状打破のためのアイデアを出すことが不可欠です。アイデア出しのときに大切なのが、批判厳禁です。「批判する時間があるならもっといい代替案を出せ」というルールを、メンバー全員に確認してからアイデア出しをすることをおすすめします。(36ページより)

たしかに、なんらかのルールをつくることには意味があるのではないかと思います。必要なことをルールとして策定しておけば、少なからず解決につながるはずなのですから。

批判は偉そうに聞こえます。しかし、批判者は偉い人ではありません。むしろ卑怯者です。批判する人が偉いと勘違いしている部下がいたら、それが間違いであることを気づかせてあげましょう。(37ページより)

「それができれば苦労はしない」といわれそうですが、しかしそれは上司の役割。もしも「上司が役割を果たせないから部下が調子に乗る」という構図があるのであれば、それはなんとかしなければならないでしょう。

部下が他人の意見を批判したら、その部下にこう問いかけてください。「では、それを解決するために、君はどうしたらいいと思う? どう考える?」と。部下が「わかりません」と答えたら、「批判するのはだれでもできるよ。代替案がない批判は、ないものねだりじゃないかな」と言ってあげましょう。そういうことを積み重ねてもルールかできます。(37ページより)

つまり、(1)上司としての堂々とした態度をとる、(2)ルールをつくる、この2点が重要だということ。たしかにそれは、とても重要なことだと感じます。

部下に反発されたときの手順

経営コンサルタントである『困った部下の指導法が面白いほどわかる本』(菊池一志 著、中経出版)の著者は、部下が反発した場合、それを冷静に受け止め、その主張を認めるようにすべきだと主張しています。

  • 『困った部下の指導法が面白いほどわかる本』(菊池一志 著、中経出版)

(1)部下の言い分に反論しないで耳を傾け、冷静に対応する姿勢を示す。
(2)部下が反対することを認めてあげたうえで、一緒に協力してほしいと要請する。
(3)上司は組織のなかでの立場上、それなりにきびしいことを言う場合があることを理解させる。
(152ページより)

なるほど、どれも欠かすことのできないポイント。とりわけパワハラ扱いされないようにするためには、③がとても重要であるように思えます。部下のいうことにいちいち反論せず、冷静に聞くようにする。また、日ごろから部下の力を認めていること、大いに期待していることを伝え、一緒に協力してほしいという姿勢を示す。そして、ときには厳しいことをいう場合もあるんだよと理解してもらうべきだということです。

[手順1]部下の反発を冷静に受け止める
部下の反発に対し、感情を抑えながら冷静に聞くようにします。
部下の目を見つめ、うなずきながら、一生懸命聞いている姿勢を見せます。
[手順2]部下の意見を受け入れる
部下が反対していることを認めてあげて、そのうえで、具体的にどうしたらいいか逆に意見を求めます。
自分の主張を部下が受け入れてくれると、部下は「反発することで自分の存在をアピールする」という目的がなくなり、反対する勢いも弱くなります。
[手順3]上司の立場を説明して協力を求める
上司は組織上の役割であり、立場上きびしいことを部下に言わなければならないことがあると理解させます。
そのうえで、部下に協力を求め、一緒に職場を盛り上げていくことを要請します。(154ページより)

つまり、組織のなかで同じ目的に向かって尽力しているという共通点があることを理解してもらうことが大切なのでしょう。

部下との信頼関係をどう築くか

エグゼクティブコーチである『部下は動かすな。』(大平信孝 著、すばる舎)の著者も研修の席などで、「信頼関係は、すべての土台となる大切な要素」だと伝えているのだそうです。

  • 『部下は動かすな。』(大平信孝 著、すばる舎)

でも、どうすれば信頼関係は築けるのでしょうか? 著者によれば、そのためのポイントは次の3つ。

1:「相手の興味関心」に関心を持つ
2:共通点を見つける
3:できていることを「承認」する
(152ページより)

まずは1ですが、つまり相手自身ではなく、「相手が話す世界観、相手の興味関心」に意識を向けると、相手も安心して楽しく話してくれる頻度が高まるということ。

具体的には、相手の興味や関心があることを見つけたら、その話を徹底的に聞くことです。すると、相手は「受け入れてもらえた」ことで安心して心を開き、話を聞いてくれた相手を信頼し始めるのです。(154ページより)

もちろん、あまりにも価値観が違いすぎたり、リアクションがなかったりして気が滅入ることもあるかもしれません。そんなときには、まず「挨拶」から。相手が話しかけてきたときに「名前を添えてリアクション」をし、理解できないなりにも相手を「人として尊重する」。こういう基本的なところから始めてみればいいわけです。

次は2について。自分と相手との間に共通点を見つけることは、部下との信頼関係を築くもっとも強力な方法のひとつだということです。なぜなら好きなことや趣味などの共通点が見つかると、部下との距離が一気に縮まるから。

人は自分と似たところがある相手に対して親しみを覚え、安心感・信頼感を持つからです。
初対面にもかかわらず、「出身地」「共通の知人がいる」「趣味」など共通点があると、相手に急に親近感を覚えたという経験はあるのではないでしょうか?
今、距離を感じている相手や、これからプロジェクトをともにするメンバーでいまいちつかめていない相手などには、意識的に「好きの共通点」を見つける努力をしていきましょう。(157ページより)

趣味、好きな旅先、スポーツ、お酒、よく行くお気に入りの場所、好きな温泉など、共通点はなんでもOK。どんな小さなことでもいいので、お互いの共通点を見つけ、そのテーマで楽しく雑談できれば、信頼関係はおのずと深まるわけです。

3の「承認」に関しては、「ほめるのは苦手」「なにをほめたらいいかわからない」「部下の話に賛同できないのに、それを承認していたらストレスになる」など、いろいろな思いがあるはずです。

しかし、「承認=褒める」ではなく、承認と賛同もまったくの別もの。

承認は、無理に感情を込めたり、おだてたり、称賛する必要もありません。
部下をよく観察して「できているところ」を見つけてシンプルに「これはできているよ」と「事実を指摘」するだけです。(160ページより)

承認されれば、部下のなかには「この上司は、ちゃんと見てくれている。わかってくれている」という安心感が生まれ、それが信頼関係につながっていくのです。

人は自分のことを知ってくれている人に、自然とついていきたくなるもの。だからこそ、パワハラだと思われることを恐れるより先に、まずはこうした信頼関係を構築すべきなのではないでしょうか。