悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「おひとりさま」であることが不安な人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「おひとりさまで何もかも不安」(38歳女性/営業関連(営業・MR・人材・コールセンター他))


ひとりでの暮らしは、やはり寂しいものです。誰かと話をしたくても相手が近くにいないわけですし、日常のなかで起こる困ったことも、自分でなんとかしなくてはならないのですから。

ただでさえそうなのに、コロナ禍のご時世では、さらに不安が募ったとしても不思議ではありません。

ですから、お気持ちはなんとなくわかります……といっても家族と暮らしている自分には、偉そうなことをいう資格なんかないのですけれど。

しかしそれでも、ひとつだけ強調しておきたいのです。

不安になるのは仕方がないとしても、そんな気持ちをため込んだり、自分ひとりだけで抱え込んだりしすぎないほうがいいということ。もちろん、それは簡単なことではないと思います。けれど、気持ちの持ち方、あるいは近くにいる人との接し方を少し変えてみるだけでも、不安感は小さくなっていくはずなのです。

だからこそ、まず大切なのは「不安感はなくならない」と割り切ること。そしてそのうえで、少しでも楽になる方法を見つけるべきではないでしょうか? 別のいいかたをするなら、不安感とよりよく共生していくことを考え、実践していくわけです。

さらにいえば、この問題に関する書籍を参考にしてみることも無駄にはならないと思います。

臨床心理士による対「不安」テクニック

『敏感すぎるあなたへ 緊張、不安、パニックは自分で断ち切れる』(クラウス・ベルンハルト 著、平野卿子 訳、CCCメディアハウス)の著者は臨床心理士。不安症やパニック発作の専門家として、ドイツ・ベルリンでカウンセリングルームを運営しているのだそうです。まず印象的なのは、本書の冒頭でアインシュタインのことばを引用している点。

  • 『敏感すぎるあなたへ 緊張、不安、パニックは自分で断ち切れる』(クラウス・ベルンハルト 著、平野卿子 訳、CCCメディアハウス)

何もかも元のままにしておきながら、何かが変わると期待することほど、愚かなことはない。(「はじめに」より)

これは、今日の不安症の患者さんたちが置かれた状態にぴったりと当てはまるというのです。それは、十年一日のごとく同じ治療法が繰り返されているから。この20年で脳科学は驚くほど進歩しているにもかかわらず、です。だからこそ、著者の豊富な経験に基づく本書には意味があるわけです。

本書に記したテクニックはみな、何年もの間わたしたちのカウンセリングルームで試み、繰り返し改良してきたものです。信じられないかもしれませんが、この数年間で7割以上の患者さんが、多い人でも6回のカウンセリングでパニック発作から解放されました。(「はじめに」より)

著者によれば、私たちの脳の本当の主(あるじ)は常に「無意識」であり、無意識は心の声を使って私たちに話しかけてくるのだそうです。心の声は直感とか本能ということばに置き換えることができますが、あることをしようか、それともやめようかと、意識があれこれ考えている一方で、無意識のほうはとっくに結論を出しているということ。

たとえば、「理由はわからないけれどやめといたほうがいい」とか、「やってごらん」というように。

無意識は有能なので、あらゆるデータをとっくに手に入れており、それらの私たちのこれまでのデータや経験とをはかりにかけ、そこから適切な答えを導き出しているということ。

優しいお母さんがサッカーをしている4歳の息子を見ています。まだ経験も浅く、社会に対する視野も狭いこの子を「意識」だと思ってください。一方、豊かな人生経験があり、身体も大きく、先を見通す力のあるお母さんは「無意識」です。サッカーに夢中になって、ボールを追いかけて繰り返し蹴っているうちに交通量の多い通りに向かって突進していることに、この子はまったく気づきません。
注意深いお母さん、つまり無意識は、もちろんこれに気づいて叫びます。「止まるのよ! そこで」。彼女は一度二度と叫び、三度目にはおそらく大声を出すでしょう。それでも聞こうとしないと、お母さんはその子を追ってあわやという瞬間に通りから無理やり連れ戻すに違いありません。その子はものすごくショックを受け、どうしてお母さんがそんなに興奮して乱暴に自分を引きずったのかわからないことでしょう。(41ページより)

パニック発作とは、まさにこういう状況。心の声を無視していると、無意識はパニック発作を起こし、私たちが抱えている問題についてよく考えてみるように仕向けるわけです。

この「パニック発作」を「不安」に置き換えることもできるでしょうが、つまりは力の及ぶ限り私たちを守ろうとすることが、無意識のきわめて重要な使命のひとつ。

いわばパニック発作(や不安)は、病気というよりも、私たちに無意識の厚意の表れなのでしょう。神経伝達物質を使って激しい身体反応を引き起こし、あることをやめるか、あるいはせめてそれについてじっくり考えるように迫るわけです。たしかにそう考えれば、不安感やパニック反応とも共存していくことができるのではないでしょうか?

神経内科医が説く「発想の転換」方法

ところで不安感をなくすためには、気分をすっきりとリフレッシュさせることも必要。そこで参考にしたいのが、『脳をリセットする55の習慣 不安・悩み・モヤモヤがスーッと消える』(米山公啓 著、CCCメディアハウス)。

  • 『脳をリセットする55の習慣 不安・悩み・モヤモヤがスーッと消える』(米山公啓 著、CCCメディアハウス)

神経内科医である著者はここで、脳を休ませたりリセットしたりすることによって、脳の働きをよくしようと提案しているのです。

たとえば著者は、「前向き思考」の重要性を説いています。マイナスな考え方をしてしまっているとしたら、それをプラスのことばに置き換える習慣をつける。そうすれば発想の転換ができるという考え方。

おひとりさまで不安だという現実に執着してしまうと、どんどん不安感から抜け出せなくなってしまいます。でも、あえて「ひとりだから誰にも束縛されずに動くことができる」と前向きに考えてみれば、(多少の強引さは否定できないとしても)少なからず気持ちは楽になるかもしれません。

同じ状況にありながら、発想を変えることで、状況まで変えてしまうのですから、よくよく考えてみれば、すごいことです。これは前頭葉の機能なのです。(164ページより)

前向きな言葉に言い換えることで、自分の危機的状況は変わっていきます。
言葉で置き換えることは、思考方法を帰ることとイコールです。それは前頭前野で行われる人間のもっとも高度な能力でもあるのです。(165ページより)

追い詰められていると、「発想を変えたくらいでどうなるものではない」と否定的に考えたくなるもの。しかし、そんなときだからこそ、気持ちを切り替えることが必要なのだとも考えられるわけです。

韓国発、話題の"感性エッセイ"

さて、最後にちょっと毛色の違った一冊をご紹介しましょう。『君に伝えたいこと。』(キム・スミン 著、丸木しゅう 訳、フォレスト出版)がそれ。日本でも大人気のK-POPアイドルであるSEVENTEENや2PMが愛読して話題となった"感性エッセイ"です。

  • 『君に伝えたいこと。』(キム・スミン 著、丸木しゅう 訳、フォレスト出版)

作者は、ピアニストになりたいという夢を抱いてピアノを専攻していたものの、結果的には夢破れ、また、つらい恋愛や友人関係にも悩んできた人物。そうした体験についての文章をSNSにアップしていき、フォロワーからの悩みに答えたりもしているうちに話題に。そして書籍化されるや、韓国で50万部を突破するベストセラーになったというのです。

起きてもいないことを心配するのはやめましょう。
意味のない、無駄な習慣です。
年を取るにつれて自信がなくなり、恐怖心が募るのは
起きてもいないことがむやみに怖くなり
心配になるからです。
(中略)
今あなたが心配しているのは
過去や未来のことばかりです。
過去や未来ではなく、今に気持ちを向けてください。
過去は過ぎ去り、未来は予測できません。
だから気になけないで。
(110ページより)

このように、著者のメッセージはきわめてシンプル。しかしシンプルであるからこそ、本質を突いているとも解釈できるはず。少なくとも、疲れているときや焦っているときに読んでみれば、気持ちをリフレッシュさせることができるかもしれません。