悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「リモートワークの環境が整っていない」と悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「リモートワークの環境が整っていない」(38歳女性/営業関連)


相変わらず、新型コロナウイルスが猛威を奮っています。

これから先の予測がつかないだけに、仕事に関してもリモートワークを受け入れざるを得ないという方が多いのではないでしょうか。

というよりも、ここにきてワークスタイルが大きく変容したと考えるべきなのかもしれません。なぜなら新型コロナは、「会社に行かなくても仕事ができる」という事実を明確化することになったのですから。

事実、オフィスを縮小する会社も増えている様子。もはやオフィスの何割かは“なくても差し支えない場所”になったので、当然といえば当然の話です。

ただし、オフィスを縮小したからといって、リモートワークの環境が整ったとはいえないでしょう。今回のご相談のように、「リモートワーク環境の不備」に不満を感じ、仕事がしづらいと思わずにいられない人はまだまだ多いからです。

したがって今後は、「コロナ後にオフィスに戻る」ことよりも、「コロナ後のリモートワーク環境をいかに整えるか」に焦点が当たることは間違いなさそうです。端的にいえば、時代の転換期。そう考えてみても、より快適に働くために乗り越えるべきハードルは、まだまだ残されていそうですね。

リモートのワークスペースを確保する

いわば、そのための解決策が求められているわけで、『テレワーク歴15年の達人が教える うまくやる人のリモートワーク術』(山内貴弘 著、すばる舎)も、そうしたニーズに応えるものとなっています。

  • 『テレワーク歴15年の達人が教える うまくやる人のリモートワーク術』(山内貴弘 著、すばる舎)

著者はIBMを経て、株式会社クレスコという東証1部上場企業で前者のエンジニアをリードする役職に就く人物。海外とのやりとりも多いため、通常のリモートワークよりもさらにハードルが高い、グローバルなリモートワーク体制で、長らく働いてきたそうです。

つまり本書のバックグラウンドには、そうした経験の裏づけがあるのです。

在宅でリモートワークを行う際のいちばんの難題は、スペースが制限された日本の住宅事情ということになるのではないでしょうか。

机と椅子、メモや筆記用具、パソコン(業務内容によっては大型のタブレットやスマホなど)、インターネット接続環境(望ましいのは、無線で接続できるWi-Fi環境)などが必須となるわけですが、むしろ問題は別のところにあるのかもしれません。

「音声でのコミュニケーションが安心して行える環境を用意できない」というケースが決して少なくないということ。

ビデオ会議も同居者の視線を気にしながら行わなければならず、機密保持などの観点から問題視されることもあるでしょう。

子どもが乱入するという可能性も否定できませんし、家族が四六時中一緒にいることになれば、どれだけ仲がよかったとしても、お互いのちょっとした言動にストレスを募らせる機会も増える可能性があります。

とはいえ各家庭にそれぞれの事情があり、問題の内容もさまざま。家庭によって異なるワーキングスペースの問題を、すべて解決してくれるような方法はないと考えたほうがよさそうです。

そのため家族でよく話し合い、役割分担やスケジュールの調整をして、自分たちに合った仕事の仕方を試行錯誤していくしかないわけです。

家族がいるならばワーキングスタイルについてしっかり話し合って、協力を求めるところは求め、自分も妥協すべきところは妥協し、ワークライフバランスに配慮しながら、どんな対応がよいのか試行錯誤していくことが大切です。(70ページより)

段ボールなどでパーテーションを自作して、生活空間のなかに業務用スペースを無理やりつくり出すという方法もあります。あるいは、どうしても自宅内での業務が難しいなら、最寄りのシェアオフィスを活用するのもいいかもしれません。

家族の了解をとったうえで、ビジネスホテルやウィークリーマンション、地方の滞在型施設を利用するという手も。

そうした施設の費用を経費として認めてくれる会社も増えているので、上司や経理担当者に相談すれば改善できることが見えてくるかもしれません。

つまり、やり方はいくらでもあるのです。

室温やインテリアの色に注目する

ところでリモートワーク環境を整えるにあたって、意外と忘れてしまいがちなことのひとつに「換気」の問題があります。新型コロナの感染防止対策として換気の重要性が叫ばれていますが、リモートワーク環境をなんとかしなければということに意識が向いてしまうと、換気のことが二の次になる可能性があるわけです。

そこで、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(笹井恵里子 著、光文社新書)を参考にしてみてはいかがでしょうか? 医療や健康を中心テーマとして取材を続けているジャーナリストが、「健康を守る家」「健康寿命をのばす家」についての考えを明らかにした新書。

  • 『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(笹井恵里子 著、光文社新書)

当然ながら、リモートワークに関する記述もあります(本書では"テレワーク"と表記しています)。

いざテレワークを始め、自宅で仕事をしようとすると、意外と"暑さ"や"寒さ"を感じるのではないでしょうか。それでは仕事の効率が落ちてしまいます。まずは仕事部屋の窓に数万円程度で内窓をつけ、断熱性能を高めましょう。内窓をつけることは、オンライン会議の遮音対策にもなります。(179ページより)

これは、なかなか気づきにくい点だと思います。また、同じように注目すべきは"色"についての興味深い指摘。色彩専門家・南涼子氏の、次のような指摘が紹介されてているのです。

「テレワークに最適な色は、作業の種類によって異なります。白が多すぎると、退屈で無機質に見える可能性があります。純粋な白が多すぎる場合、仕事上でのエラーが生じやすいので、柔らかくて暖かいオフホワイトを選択することをお勧めします」(192ページより)

また、緑色も「生産性」と「集中力」を向上させるのだそうです。緑色には自然に目のポイントが合うので、見るのに余分な力を必要とせず、目の疲れを抑えられるというのです。そのため、デスクトップの背景にも最適だとか。

「植物やオフィスチェアなど、デスクのまわりに緑のアクセントをつけると、リフレッシュして仕事の準備ができます。創造的な仕事の前に緑を見つめると、よりよいパフォーマンスを示したという報告もあります。デスクまわりの壁紙、ブラインドやカーテンに適しているでしょう」(193ページより)

リモートワークの快適性について考える場合、デスクまわりやパソコンなどのツールにばかり意識が傾きがちですが、室温や色なども大きな意味を持つことになるのでしょう。

「不安や恐怖」に打ち勝つ方法を知る

また同じように、リモートワークを日常的に進めていくためには、気持ちを落ち着かせることも重要。ただでさえ「コロナ疲れ」に悩まされるなか、慣れないリモートワークのために神経をすり減らしてしまうのでは、穏やかな気持ちになれなくて当然だからです。

というわけで最後にご紹介したいのが、『それでも、幸せになれる 「価値大転換時代」の乗りこえ方』(鎌田 實 著、清流出版)。長年にわたって医療現場に身を置き、人間の生と死を見つめてきた著者が、新しい時代の新しい生き方について説いた書籍です。

  • 『それでも、幸せになれる 「価値大転換時代」の乗りこえ方』(鎌田 實 著、清流出版)

本書において著者は現代を「価値観が大転換する時代の始まり」と位置づけており、それは「なりたい自分」に変わるためにチャンスでもあると主張しています。しかし、そんな状況だからこそ重要なのは、「不安や恐怖」に打ち勝つこと。

新型コロナウイルスという"見えない敵"に対する不安や恐怖が蔓延しています。だから以前にも増して、ちょっとしたことで怒りが爆発してしまうのです。見えないウイルスに対する不安や恐怖に負けないためには、セルフコントロールが必要です。(96ページより)

では、どうすればいいのでしょうか?

怒りや不安を感じた時は、脳内に「ノルアドレナリン」というホルモンが分泌されるそうです。しかしその分泌のピークは、6秒経過すると終わるのだとか。そこで著者は、「腹が立っても6秒我慢しろ」と自分に言い聞かせてきたのだといいます。

そうすれば落ち着いて」相手の話を聞くことができ、冷静に自分の気持ちも披露できるわけです。

怒りの電話をかけそうになったとき、あるいは自粛警察気味の批判をツイッターに投稿しようと文章を書いたとき、アップする前に、とりあえず6秒待つことです、これをみんながやれば、世の中が少し穏やかになると思います。(97ページより)

なかなか慣れないリモートワークにも、イライラはつきもの。だからこそ、穏やかさが失われてきたなと感じたら、とりあえず6秒耐えてみるーー。それだけのことが、リモートワークを快適なものにしてくれるかもしれません。