あなたは文系? 理系? 高校時代に選ぶ方が多いこの二択。しかし文系だけれど社会に出てからIT業界に携わる「文系IT社員」という働き方もある。文系とIT、一見相反するように見えるが、顧客とエンジニアの橋渡しをしながら課題を解決する彼らの仕事とは……?

この連載では、AIと金融工学を活用したWebプラットフォームを開発・運営するMILIZEに所属する著者による、実体験をベースにした「文系IT社員の日常」を紹介する。

文系大学を卒業後、銀行の営業マンとして10年務め、IT企業に転職した主人公「三浦悟」は、データを活用して顧客の課題にどう応えていくのだろうか。


文系か理系か。高校時代に多くの人が直面する進路の二択だが、その後の人生においても大きな影響を与えることに気づくのはほとんどの場合大人になってからである……。

私の名前は「三浦悟」33歳、独身。W大学商学部を卒業して、某都市銀行に新卒で入行した。銀行に入行したのは今までの勉強が活かせると思ったからである。

好きな言葉は「猪突猛進」。一般的にこの言葉は良い意味ではあまり使われないが、猛烈な勢いで進む感じが自分に合っている気がしているので好んで使っている。この言葉通り、銀行ではがむしゃらに10年間営業に従事してきた。決してトップセールスマンというわけではないが、時々社長賞を受賞したり支店で表彰されたりとかして充実した銀行員生活を過ごしてきた。

そんな私だが、ふと見たテレビ番組がきっかけで「これからの時代はITだ」と思い、一念発起してIT企業「mirai diagram」に転職した。

「思い立ったが吉日」。これも私が好きな言葉である。IT企業に転職すると言った時に周りは皆、晴天の霹靂といった感じでびっくりしていたのは記憶に新しい。社会人になってから初めての転職だったが、将来に対する期待が大きかった分、不安はあまり感じなかった。

そんなこんなでmirai diagramに転職して早5ヶ月。銀行とは何もかも違う毎日に少しずつ慣れて来たものの、まだまだIT知識はおぼつかない。やはり文系の人間がいきなりIT企業で働くのは敷居が高い。入社したばかりの頃はエンジニアの会話が外国語のように聞こえた。「AWS」(※メモ1)、「機械学習」(※メモ2)など聞いたことがない言葉のオンパレード。最近はようやくエンジニアとの会話もまともにできるようになってきた、と思う……。

文系IT社員メモ

■メモ1「AWS」とは?
アマゾン ウェブ サービスを意味する。世界で最も包括的で広く採用されているクラウドプラットフォームである。

■メモ2「機械学習」とは?
経験からの学習により自動で改善するコンピューターアルゴリズムもしくはその研究領域で、人工知能の一種であるとみなされている。「訓練データ」もしくは「学習データ」と呼ばれるデータを使って学習し、学習結果を使って何らかのタスクをこなす。例えば過去のスパムメールを訓練データとして用いて学習し、スパムフィルタリングというタスクをこなす、といった事が可能となる。

さて、今日は新しい案件が舞い込んできた。

都内で23店舗展しているスーパー「フレッシュネス」の役員である早坂氏からの相談で、"肉の需要予測をAIで行うことはできないか"、という内容である。このご時世なのでオンラインでの相談であるが、早坂氏の表情からモニター越しにも真剣さが伝わってくる。

早坂「弊社フレッシュネスでは、3日後の肉の売り上げ予測を各店舗の責任者が行って、その予測を元に工場で肉をカットして各店舗に納品しています。ただし各店舗毎に精度が異なり、精度が低い店舗ではフードロスが多く発生しています。そこでAIを使った肉の売り上げ予測を行うことで予測精度を全体的に高め、フードロスを減らしていこうかと思っています」

三浦「上手くいけばフードロスも減らせますし、各店舗の責任者の方の売り上げ予測にかける時間が短縮できて一石二鳥な案件ですね。ちなみに各店舗の責任者はどういうロジックで売り上げ予測を行っているんですか?」

早坂「過去のデータを元にはしていますが、各店舗の責任者の裁量に任せています。長年の経験や勘に基づく予測が多いと思います」

三浦「経験や勘と一口に言っても色々考え方のベースはあるので、そこは気になりますね。ちなみに肉に関する売り上げデータは過去何年分位ストックはありますか?」

早坂「そうですね。最低でも10年分位はあったはずです」

三浦「それ位あるのでしたら十分です。予測を行う際には、弊社では最低でも2〜3年分の過去データがあることを前提にしていました。最近になってデータの重要性に気づいて慌ててデータをストックし始めている企業も結構多いんですよ」

早坂「なるほど、データをストックしておいて良かったです。これも立派な財産ですよね」

三浦「そうですね。これからの時代はいかにデータを有効活用するかで企業の明暗は分かれてくると思います。弊社でもオルタナティブデータと呼ばれるデータ、例えばSNSのデータ、マーケットのデータや、GPSデータ等の様々なデータを集めています。そのデータを企業様の情報と掛け合わせることで新しいデータを生み出しているんです」

早坂「なるほど。それは色々役に立ちそうですね」

三浦「ぜひ今回の肉の売り上げ予測にも、弊社のオルタナティブデータが活用できればと思っています。今後の流れとしては、NDA(秘密保持契約書)(※メモ3)を両社で締結した上で、過去の肉データを頂き検証させて頂きたいのですがいかがでしょうか?まずは弊社のエンジニアがデータを確認し、売上げ予測がそもそも可能なのか確認したいと考えています。いかがでしょうか?」

早坂「はい。分かりました。担当部署にも共有しておきます」

文系IT社員メモ

■メモ3「秘密保持契約(NDA)」とは?
自社が持つ秘密の情報を他の企業に提供する際に他社に漏らしたり不正に利用されたりすることを防止するために結ぶ契約を指す。

三浦「かしこまりました。よろしくお願い致します。ではNDAの準備ができましたらメールにてご連絡します」

早坂「分かりました。メールをお待ちしていますね」

こうして早坂氏との1回目の商談は終わった。早速NDAの準備に取り掛かりたいと思う。

次回に続く