皆様こんにちは、マネックス証券の益嶋です。「目指せ黒帯! 益嶋裕の日本株道場」第16回をお届けいたします。本コラムでは、「これから投資を始めたい」「投資を始めてみたけれどなかなかうまくいかない」といった方向けに、投資家としてレベルアップするためのいろいろな知識をお伝えしていきます。今月もまずは最近のマーケット動向を簡単にご紹介します。

ついに日経平均が2万円割れ……

前回のコラムが掲載された11月27日時点で、日経平均は2万1,952円でした。その後2万2,500円程度まで上昇しましたが、再び大きく下落して日経平均は一時2万円割れというところまできてしまいました。中国の経済指標が悪化するなど、米中の貿易戦争が世界経済の減速につながるとの不安が現実味を帯びてきており、さらなる株価調整に警戒しておきたい状況です。

  • 日経平均の推移 (出典:マネックス証券ウェブサイト)

    日経平均の推移 (出典:マネックス証券ウェブサイト)

覚えておきたい「景気敏感」と「ディフェンシブ」

それでは、今月も本題に入っていきましょう。

株式投資をすでにされている方であれば「景気敏感株」という言葉をお聞きになったことがあるかもしれません。その名の通り景気に敏感に反応する株式のことを指しており、「景気がよくなるぞ」というときに株価が上昇します。

例えば、鉄鋼や機械などが代表的な「景気敏感株」として知られています。なぜこれらが景気敏感かというと、景気が良くなるときにはたくさんのモノが売れるため、当然企業はたくさんのモノを作ろうとします。たくさんのモノを作ろうとするときには、モノを作るための機械やその材料となる金属の需要が高まります。そうすると、動きの早い投資家は「これから機械や鉄鋼の会社の業績は良くなるはずだ! 今のうちに株を買っておこう! 」となり、株価が上昇していくというわけです。

では、景気がこれから悪くなるというときはどうでしょうか。モノを作ってもあまり売れない状況が来るわけですから、モノを作るための機械や材料となる鉄鋼の需要は減っていくことになります。そうすると投資家は「業績が悪くなる前に早く株を売ろう!」となって、「景気敏感株」の株価は下落していきます。

逆に言うと、「景気敏感株」の株価が上がっているということはこれから景気が良くなると投資家が考えており、「景気敏感株」の株価が下がっているということはこれから景気が悪くなると投資家が考えている、とも判断できます。「景気敏感株」はどうしても業績が景気に左右されてしまうため、業績の浮き沈みや株価の変動が激しいことが特徴です。

「景気敏感株」の反対の意味で捉えられることが多いのが「ディフェンシブ銘柄」です。ディフェンシブとは「守備的」という意味ですが、これは業績の浮き沈みが少なく株価も比較的安定的に推移しやすいことを表しています。

「ディフェンシブ銘柄」の代表としては、例えば食品や通信、医薬品などが知られています。私たちは景気が悪くなったとしても食事をしないと生きられませんし、逆に景気が良くなったとしても今までの5倍ご飯を食べるということはありませんよね。そのため、食品関連の企業の業績は景気が良くても悪くても比較的安定しており、結果株価も安定度が高いということになるのです。

もしかすると、これまでの説明をお読みいただいて「それならいつでもディフェンシブ銘柄を選べばいいのでは? 」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

もちろん、ご自身が投資で得たい儲けの目標や投資スタンスによってそうすることもできますが、「これから景気が良くなる! 」というときには一般に「景気敏感株」が大きく上昇するのに対し、「ディフェンシブ銘柄」はあまり大きくは上がらないことが多いのです。そのため「ディフェンシブ銘柄」ばかり持っていると、景気が良くなるときにも結果的にあまり株価上昇の恩恵を受けられなかった、ということになりかねません。

今年のマーケットで見てみましょう

これまでご紹介してきた「景気敏感株」と「ディフェンシブ銘柄」で本当に株価に大きな差が出るのか、今年のマーケットを例にご覧ください。

冒頭でも触れたように、現在のマーケットは米中の貿易戦争悪化に伴い、これから世界的に景気が悪くなることを警戒しています。もし私が説明した通りであれば「景気敏感株」の株価は下落し、「ディフェンシブ銘柄」の株価は比較的安定しているはずですよね。

以下は、東証33業種と呼ばれる業種別の株価指数の2018年における騰落率を表にしたものです。東証33業種とは、東証に上場する銘柄が分類されている33種類の業種のことで、例えば東京ガス(9531)は「電気・ガス業」に、三菱UFJ(8306)は「銀行業」に分類されています。

  • 2018年の業種別騰落率(2017年末と2018年12月21日の数値を比較) 出典:QUICKデータよりマネックス証券作成

    2018年の業種別騰落率 (出典:QUICKデータよりマネックス証券作成、2017年末と2018年12月21日の数値を比較)

表の左半分が「TOPIX」という市場の平均のパフォーマンスを上回っている業種で、右側が下回っている業種です。左側を見ていただくと、良いほう(上側)から「電気・ガス業」「水産・農林業」「医薬品」といった業種が並んでいます。景気が悪くなっても私たちは「電気やガス」を使いますし、「魚や農産物」を食べますし、具合が悪くなったら「薬」を飲みますよね。これらの業種は一般的に「ディフェンシブ銘柄」とされており、実際に今年のマーケットでは比較的調子が良いのです。

一方で、右側を見ていただくと、悪いほう(下側)から「海運業」「非鉄金属」「金属製品」「鉄鋼」「鉱業」が並んでいますが、これらはまさに「景気敏感」と呼ばれている業種です。TOPIXに比べて2倍程度下落しています。

パフォーマンスが良いほうに「精密機器」が入っているなどちょっとした例外もあるのですが、概ね「景気敏感」と「ディフェンシブ」で大きく株価動向が分かれていることがご確認いただけたのではないでしょうか。

これから景気が良くなると思われるときには「景気敏感株」に、悪くなると思われるときには「ディフェンシブ銘柄」に投資することで、投資パフォーマンス上昇につなげることができます。実際は、これから景気が良くなるのか悪くなるのか判断することはとても難しいのですが、「景気敏感」と「ディフェンシブ」の存在は知っておいていただいて損はありません!

ぜひ銘柄や業種ごとの特性を把握し、皆様の投資パフォーマンス向上に活かしていただければ幸いです。

今月も最後までお読みいただきありがとうございました。ではまた次回!

執筆者プロフィール : 益嶋 裕

マネックス証券 マーケット・アナリスト兼インベストメント・アドバイザー

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。2008年4月にマネックス証券に入社。2013年からアナリスト業務に従事。2017年8月より現職。現在は「日本株銘柄フォーカス」レポートや日々の国内市況の執筆、各種ウェブコンテンツの作成に携わりながら、オンラインセミナーにも出演中。日本証券アナリスト協会検定会員。
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