ワニブックスは、このほど『めんどくさがりの自分を予定通りに動かす科学的方法』(1,650円/竹内康二著)を発売した。本書は、85年間の研究成果から導き出された「行動の技術」で、「後回し」「手に付かない」「気が乗らない」を解決する一冊。
著者は、明星大学心理学部心理学科・教授の竹内康二氏。学校や企業において、一般的な対応では改善が難しい行動上の問題に対して、応用行動分析学に基づいた方法で解決を試みている。
今回は同書の中から、始め出せない自分を「強制始動」させる方法を紹介していこう。
■打率は低いが安打が多い選手が最強!
作業を始めることができればそれなりに行動できるけど、始めることが難しいという人はきっとたくさんいるでしょう。
これは、行動の始発に関する問題です。「作業を始めることはできるけど、集中が続かずにすぐにやめてしまう」という問題を持つ人もいますが、行動の始発で悩んでいる人のほうが圧倒的に多いのです。作業が始発できなければ、何も進捗しないわけです。
・重要な仕事があるのに始められない
・期限が迫っている試験があるのに勉強に取りかかれない
・ジョギングをすると決めたのに、いざやろうとするとできない
・美しい体をつくりたいのに、筋トレが習慣化しない
始発できるけど途中でやめてしまうことよりも、始発できない問題のほうが悩みが深いのは明らかです。集中時間が短いとしても、何度も繰り返し始発できれば作業は進みます。「集中できない問題」の解決も、始発の頻度を増やすことで解決が可能です。
応用行動分析学には、行動連鎖という概念があります。日常における行動というのは、小さな行動がドミノ倒しのように連続的に生じることで成立しているという考え方です。たとえば、「アメをなめる」行動を考えてみましょう。
「たくさんのアメが入っている袋を開ける」 → 「袋からアメをひとつ取り出す」 → 「アメを個別に包んでいる包装を開ける」 → 「中のアメを取り出す」 → 「アメを口の中に入れる」 → 「舌を使ってアメを口の中で転がす」
という一連の行動が滞りなく連鎖することによって、ようやくアメの味を楽しむことができます。
私たちが日常の中で行なう行動の多くが、行動連鎖によって成り立ちます。行動連鎖は、最初の行動が始まらなければその後の行動が生じないことになります。逆に言えば、最初の行動さえ起こせれば、その後の行動連鎖は流れのままに生じてくれます。肝心なのは、行動の始発です。行動の始発が問題なら、その行動を細分化して行動連鎖の最初の行動を標的とするのが一番の手です。
たとえば、パソコンを使った作業の場合は、パソコンを立ち上げることが最初の行動、つまり標的行動です。ノートパソコンを使うのであれば、ノートパソコンをカバンから取り出して開くことが標的行動になります。
つまり、いつも先延ばししている作業がある場合、その作業をやるかどうかはともかく、パソコンを立ち上げることを標的にして、「立ち上げることができれば良しとして問題ない!」と私は言いたいのです。
パソコンを立ち上げても、作業しないなら意味がないと思われるかもしれません。しかし、パソコンを立ち上げたうちの3回に1回でも作業に取り掛かれたなら十分な成果です。3回のうち2回は作業をしないわけですが、野球では打率3割のバッターはとても優秀とされます。先延ばしの多い人なら、4回に1回の割合で作業できたらすごいことです。
打率が低くても、打席に立つ回数を増やせば安打の数は増えます。パソコンを開く回数を上げれば、作業に取り組む時間も長くなります。単純な話です。
●「作業など完了させなくてもいい!」くらいの気持ちで!
「行動を始発したからには、最後まで行動を完了させなければならない」という完璧主義な発想をしてしまうと、時間に余裕があって体調が良いときくらいしか行動を始発できなくなってしまいます。
途中までしか行動できないことに嫌悪を感じるため、行動の阻止が生じるからです。中途半端な作業になることが弱化子となり、その弱化子が出現することを阻止するために、行動を始発しない(随伴性)ということになります。
そのため、行動を完了できる状況で作業をしたいと思うわけですが、時間に余裕があって体調が良いときなど、そう簡単に訪れるわけではありません。今は余裕がないとか、体調が万全ではない、という理由を見つけては、先延ばしをしてしまうのです。
「時間に余裕がなくても、可能な範囲で少しでも作業ができれば良い」
「体調が悪くても、少しぐらいならできる作業があるかもしれない」
そういった思考を持って、最後まで作業を完了できないとしても、行動を始発させるのが先延ばしを防ぐテクニックです。つまり、行動の完了を標的行動にするのではなく、行動の始発を標的行動にするということです。
書籍『めんどくさがりの自分を予定通りに動かす科学的方法』(1,650円/ワニブックス刊)
同書では、本稿で紹介した以外にも「すぐやる人」「後回ししない人」に変われるヒントを行動分析学に基づいて解説。気になる方はチェックしてみてはいかがだろうか。