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我々の遺伝子、すなわちDNAには膨大な情報が刻まれている。広義では、人間になるか否かなどが、狭義では顔の形や特徴などが遺伝子によって決定されていると言われている。生まれながらにしてあらゆることが遺伝子によって定められているといっても過言ではないが、このほど、ロンドンの研究チームが世界で初めて特定した“幸福の遺伝子”が話題となっている。

2,500人以上の「セロトニン」を運ぶ遺伝子を調査

研究は、「ロンドンスクール・オブ・エコノミクスアンドポリティカルサイエンス」(LSE)の行動経済学者・Jan-Emmanuel氏らを中心に行われた。このほど、海外のニュースサイトを取り扱う「family health guide」に論文の概略が掲載された。また、論文自体は「Journal of Human Genetics」に掲載されているという。以下その内容を紹介する。

研究チームは2,500人以上の参加者の遺伝子データを調査し、特にその中でも「5-HTT遺伝子」に着目した。同遺伝子は、ニューロンの細胞壁において「セロトニン」と呼ばれる脳内物質を運ぶための役割を持つ。

この「5-HTT遺伝子」は長い、もしくは短い遺伝対立遺伝子を持っており、両親からの遺伝によって、遺伝子の型が「long-long」か「short-short」、もしくはlongとshortを持つ「combination」のいずれかになるという。ちなみに、長い遺伝対立遺伝子を持つ方が、効果的にセロトニンを運べるという。

「long-long」タイプの人は7割が人生に「満足」

研究チームは、参加者への「どれぐらい人生に満足していますか」という質問に対する回答と、回答者の遺伝子の型の関係を調査した。回答は「非常に満足している」「満足している」「不満である」「非常に不満である」「どれでもない」の5種類からの選択式だった。

その結果、「long-long」タイプの回答者は、「非常に満足している」(35%)と「満足している」(34%)を合わせ、約7割が人生に満足していると回答した。また、「不満である」と回答したのは20%だった。一方で、「short-short」タイプの回答者で「非常に満足している」と「満足している」と回答したのは、共に19%にとどまり、「不満である」と回答したのは26%だった。今回の研究によると、1つの長い遺伝対立遺伝子を持つ「5-HTT遺伝子」があれば、人生における満足度が8.5%増える見込みがあるという。

Jan氏は「この『5-HTT遺伝子』は、個々人の幸福レベルを形成するために役立っている。私たちの幸福は、この一つの遺伝子によって決定されているわけではなく、他の遺伝子や特に人生の過程における体験が、個人の幸福を決定付けている。ただ、この発見はなぜ幾らかの人々は、自然と他の人々よりも幸せなのかを説明するのに役立つだろう」と話している。

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セロトニンを増やして、幸福を感じやすい体質へ

今回の研究で、セロトニンを効果的に運ぶ「5-HTT遺伝子」と人生における満足感の相関関係が明らかになったことから、セロトニンが我々の「幸福」と関係ありそうだと言える。

セロトニンは、一般的に「太陽の光を浴びる」「ウオーキングや自転車こぎなどのリズミカルな運動をする」などで増加するとされている。また、セロトニンのもととなる「トリプトファン」を含む豆製品や乳製品、ナッツ類、バナナ、肉類、魚類を食べることも有効とされている。

遺伝子に抗(あらが)うことはできない。もし「5-HTT遺伝子」のみによって我々の幸福という感情が決定付けられていたとしたら、それは悲劇だろう。だが、我々は自分自身の行動を変容することはできる。たとえ、「5-HTT遺伝子」がセロトニンを運びづらいタイプだったとしても、日々の運動や食生活を改善することで、幸福を感じやすい体質に変わることも可能なのかもしれない。