仕事にミスはつきものだ。ささいなミスならまだしも、非常にインパクトの大きい過ちを犯してしまった場合、上司や取引先に対してどのように迅速かつ誠実に謝罪するかがビジネスパーソンにとって重要となることは、自明の理と言えよう。

自らの非を詫びる謝罪にはネガティブなイメージがつきまとい、多くの人が嫌がることの一つと言える。だが、マイクロソフトで執行役員を務めたキャリアを持つクロスリバー代表の越川慎司氏は、謝罪を新たなビジネスの契機へとすることに成功してきた。いわば、マイナスをプラスに転じてきたわけだが、そこにはどのような秘密があったのだろうか。

本連載では、これまでに約600件もの謝罪をしてきた「謝罪のプロ」の謝罪におけるマナーや極意を紹介していく。今回のテーマは「謝罪当日の振る舞い方」だ。

  • クロスリバーの代表取締役社長の越川慎司氏

謝罪当日は直前まで情報収集と共有を

――事前準備がしっかりとできて、いざ謝罪を迎えるとなった当日はどのようなことに注意すればよいでしょうか

謝罪当日は、まず最低でも30分前、だいたい1時間ほど前には謝罪に伺うメンバーが集合するようにします。集合場所も取引先のオフィスの前ではなく、すこし離れた場所のファミレスなどですね。謝罪の日は先方のエントランスでお客様が待たれているケースも少なくありませんし、近くのカフェなどは、取引先の関係者がいる可能性もあります。取引先の方たちの通勤経路を避けて、最寄り駅の逆側にあるレストランなど、ビジネスパーソンがあまり立ち寄らなさそうなお店をチョイスするといいですね。

――集合してからは、どのようなことをされていましたか

事前打ち合わせとして、できる限りの情報収集と共有ですね。謝罪文の説明の仕方、役割分担などをしっかりと確認します。いわゆるリハーサルですね。あとは服装チェックです。謝罪に来た人間の髪の毛がボサボサだと、「この人はトラブルの事態にもこの髪のように雑な対応をしそうだな」などと不信感を抱かれてしまいかねません。自分をコントロールできる人と思われないといけないので、あまりにも似つかわしくない服装のメンバーがいる場合は、その人の参加をやめるよう促すという判断をするケースもあります。

――服装については、どのようなものがベターでしょうか

スーツでしたら、色はダークグレーとネイビーですね。ネイビーは青っぽい紺ではなく、黒っぽい紺、いわゆる濃紺です。黒だとお葬式っぽくなったり、威圧感を与えてしまったりするので避けています。女性はアクセサリーやメークなども控えめに。スカーフを巻かれている方が過去に何人かいらっしゃいましたが、集合時に外してもらいました。

――服装を整えておく重要性はどのような場面で感じられましたか

なぜこれだけ服装に気を遣うかと言いますと、取引先は謝罪に来た側と会った瞬間が最も感情がコントロールできない状況下にあるんです。五感が敏感になっているんですね。謝罪側の言葉に対しても一字一句に突っ込まれるといった具合に、感情の炎が燃え上がっている状態です。

その火をいきなり消すことは難しいですが、油を注いで大炎上させないようにすることはできるはずなんですね。そのためにも、「油」となりうるような言葉遣いや遅刻などのリスクを排除することが大切。取引先が謝罪に来た人たちを見たときに、寸分も不快にならないようにすべきなんですね。

――なるほど。そのほかに気をつけるべきポイントはあるのでしょうか

身だしなみの観点で言えば、腕時計も絶対にNGですね。高級腕時計はもってのほか。また、時間を気にするのもNGです。ただ、日によっては謝罪先が複数あるでしょうから、次の謝罪に遅れてしまうことは許されませんし、時間を気にする必要は確かにあります。そのような場合、時計を謝罪メンバー全員が外したうえで、役割分担を決めて時間を確認できるようにしておくとよいでしょう。

例えば、チームの1人が「社内からの連絡や緊急対応のためにスマートフォンを用意させてください」などと相手に断って、スマホを見える位置に出しておくとかですね。そして「10分前になったら左耳を触る」といった具合に「サイン」決めておき、そのサインを目安にするとよいでしょう。また、冒頭で相手に「今日は60分のお時間をいただいております。ありがとうございます」と時間を宣言してしまうのも有効です。そういう役割分担や先方への宣言をしておくことですね。そのひと言がものすごく重要だと思います。

謝罪の目標は何なのか

――謝罪に行くことで、目標とすべきところは何になるのでしょうか

第一に「再発防止策を受け入れてもらうこと」ですね。再発防止策は「次にお会いするまでにやっておくべき約束」なんです。その約束を果たせたことをご報告しなければ、信頼回復はできません。トラブルを時系列で説明して、原因が人為的なものか否かを説明し、それに対する解決策を提示したうえで、それを「いつまでに」「誰がやるのか」をお伝えする。

もちろん、文句を言われてしまう場合もあると思いますが、取引先から「ちゃんとできるのか確かめてやろう」といった趣旨の言葉をいただける段階まで来たら、謝罪の出来栄えとしては50点。「では2週間後に報告させてください」など次のアポイントを取るところまでできれば100点です。

――謝罪や再発防止策をお伝えするときに気をつける点はありますか

再発防止策をご理解いただくには、ロジカルな思考を要します。ただ、最初は取引先も感情的になられていますので、まず前半は感情的な炎の火柱が収まるのを待つしかありません。どんどん火が大きくなってしまうと、後半になっても再発防止策のお話ができません。前半はいかに取引先に不快にさせないよう、誠意を見せて落ち着いていただくかに腐心し、そうやって聞いていただく素地を作ってから再発防止策などをお伝えすることだと思います。

――取引先に話を聞いていただく姿勢になってもらうためのコツはありますか

各種メディアに映し出されている昨今の謝罪会見でも皆さんが感じていることかもしれませんが、「誰に対して」「何を謝っているのか」を明確にして、見誤らないことだと思います。そこを確実に納得できる形にしなければなりません。トラブルによって、誰にどのような被害が出てしまったのか、取引先もそれを理解してほしいという一次感情があるんですね。それを理解したうえで、二次感情で怒りを抑えていただけるし、そこがズレていると怒りは収まらないでしょう。

「謝罪をしている相手が違う」というのが一番ダメなので、謝罪の最初の45秒、100文字に「誰に対して」「何を謝っているのか」がしっかりと表現できているかが大事になります。そしてその中に、謝罪に加えて「今後安全に使っていただくために、再発防止策をご説明させていただきたいのです」というような、謝罪の目的を説明することが必要になるでしょう。

――謝罪となると、お詫びの品として菓子折などをイメージされる方も多いと思いますが、これらの品は持っていった方がよいのでしょうか?

まず、取引先が見極めたいのは「今後この相手と付き合いを続けていいのかどうか」という点です。菓子折などを初回の謝罪で渡してしまうと、取引先に「これで勘弁してください」というような印象を持たれてしまうのでNGでしょう。

「謝罪によい」とされる饅頭や和菓子などが巷にはありますが、安易に持っていこうものなら「これで許せってことか!」と火に油を注いでしまう結果になりかねません。菓子折りなどは、3回目の謝罪で相手に即した、相手を労うようなものを贈るのがベター。謝意を「伝える」のではなく、「伝わる」ように、細かく心を配ることが当日の振る舞いとして大切だと思います。

越川慎司

国内大手通信、外資系通信に勤務、ITベンチャーを経て、2005年にマイクロソフト米国本社に入社。のちに日本マイクロソフトで業務執行役員を務め、2017年にクロスリバーを設立。528社の働き方改革を支援し、現在は週休3日で16万人の働き方をスイッチしている。

新刊『謝罪の極意』

マイクロソフトという大企業で品質担当の業務執行役員を務めた経験を持つ筆者が、過去の自身の経験を元に、より実践的かつ戦略的な謝罪術をわかりやすく解説。新入社員から幹部社員まで、本当に役立つ謝罪の極意を指南する実用書。小学館より上梓されており、価格は税別1,300円。