編集部との話の中で、「直近の航空業界ニュースの中からテーマを絞り、筆者の視点で面白い話題や独自の切り口を展開するような連載ができないか」との話があった。航空業界トピックスを「ななめ読み」した上で、筆者の感覚にひっかったものを「深読み」しようという勝手な企画だが、読者の方々のニュースを読む視点の複眼化に少しでもつながればと思う。

国土交通省、27空港を訪日誘客支援空港に認定
国土交通省航空局は7月4日、地方空港の国際航空ネットワーク充実とインバウンド増加に向けて取り組むとして、全国27の空港を「訪日誘客支援空港」と認定したことを発表。自治体等が誘客・就航促進の取組を行う地方空港を訪日誘客支援空港と認定した上で、総合的な支援措置を行っていくとしている。

全国27の空港を「訪日誘客支援空港」と認定した

空港はコスト面のメリット以外の魅力を打ち出す必要あり

「明日の日本を支える観光ビジョン」が掲げた、2020年度訪日外国人4,000万人、2030年度6,000万人という誘客目標を実現すべく、政府が設定した「訪日誘客支援空港」がこのほど認定された。ただ、「27空港(北海道6空港は一括民営化予定のためひとつとカウント)」と聞いて、「え、そんなに? 」と感じた人は多かったのではないだろうか。

国交省によると、認定を判断する懇談会での空港評価の平均点が80点以上の空港を「拡大支援型」(19空港)、それ以下の空港を「継続支援型」「育成支援型」と区分して認定しているが、関係者に確認したところ「認定に落ちた空港はない」ということだった。"落選"では空港・自治体のメンツが立たず、これからの誘致運動もできないという事情があったであろう。

とは言え、国の予算を振り向けて誘客支援をするための認定なので、着陸料の割引(国管理空港)・補助(地方・民間管理空港)、カウンターなどの空港施設やグランドハンドリング関係費用への補助などの具体的な歳出を伴うものは、拡大支援型の19空港のみしか該当しない。認定基準(配点表)を見てみると、100点の空港要件以外に、コンセッションへの移行と広域連携への対応がそれぞれ20点ずつの加点をもらえることになっており、これらへの取り組みが先行していた空港が高い評価につながったであろうことは想像に難くない。

今後を考えると、空港におけるコスト面のメリット提供だけでは、LCCを始め外国エアラインが就航してくれるわけではない。各国の旅行者が行きたくなるだけの、旅行素材の提供と旅程の快適性を確保するための、市中や観光地のインフラ整備も重要になる。

まずは認定された各空港や自治体から、どれだけ実効性ある施策や意外性あるアイデアが出てくるのかを注目したいが、これらは役所の机上であれこれ論議しても出てくるものではない。各国から訪日する側の気持ち(ツボ)をどれだけ正確にくみ取りながら対策を打ち出すかが、本当の勝負になる。何しろ、中国本土からのリピーター客ですら、「同胞中国人であふれているようなところには行きたくない」と思っているのが現状だからだ。

オーストリア航空、2018年5月15日に成田=ウイーン線を再開
オーストリア航空は7月6日、ウィーン発2018年5月15日(成田発2018年5月16日)から、成田とウィーンを結ぶ直行便を週5便運航することを発表。成田=ウィーン線ではボーイング777-200型機を使用する予定となっている。「日本における景気停滞と円安を受けて収益性が低下したことを踏まえ、当社は2016年9月に成田線の運航を一時停止しました。しかし、市場および業績はここ数カ月間で大きく改善し、再びポテンシャルを感じています。本路線には確固たる需要があります」(オーストリア航空/アンドレアス・オットーCCO)。

2018年5月15日に成田=ウィーン線を再開する

ルフトハンザの業績悪化が一服したこともひとつの理由

「運航停止から8カ月で市場がそんなに大きく変わるのか」というのが、読者が抱く率直な疑問だろう。2016年秋の運航停止当時は、パリ、イスタンブール、ブリュッセルなど主要な観光都市でテロ事件が続き、日本人の欧州旅行が大きく落ち込んだ。その後もドイツ、英国、北欧各地でテロ事件が続いており、日本人アウトバウンドの欧州旅行が短期間で大きく改善したというにはやや無理があるに思われる。

他方、欧州から日本行きのマーケットが急速に改善しているのは事実のようだ。テロ懸念が常態化する中での安全な行き先としての日本の認知向上、円安といった環境変化に加え、政府が推進するビジットジャパンキャンペーンが着実に効果を生んでいるという見方も多い。

また今回の決定には、親会社であるルフトハンザドイツ航空の判断が大きく作用している。以前のルフトハンザCCOとの対談にも書いたように、ルフトハンザの業績悪化が一服し、エアベルリン、ユーロウィングスに加え、オーストリア航空、スイスインタナショナルという傘下のエアラインの事業拡大にも目が向く余裕ができてきたという見方もできよう。

アライアンスパートナーであるANAにとっては、もともとウイーンはルフトハンザの域内フィーダー網のひとつであったわけで、路線戦略上の大きな変化はないと思われる。日米欧各社大手が主要単区間のO&D(オリジネーション&ディストリビューション)需要をどんどん羽田に集約しようとしている中で、成田がこのような需要規模での中堅都市との間で欧州とのパイプ拡充を行うことは大変重要であり、これからも各空港の誘致担当によって丹念に欧米の需要発掘が行われることを期待したい。

スカイマークがB737追加発注、ワイドボディ機導入も視野に
スカイマーク(SKY/BC)は、ボーイング737-800型機を3機追加発注した。また、「遠い将来は双通路(ワイドボディー)機もあるかもしれない」と市江社長は述べた。(7月8日: Aviation Wireより)。

スカイマークは2017年4月1日現在、26機のB737-800を運用している

国内線の幹線大型化という選択も可能か

今回のB737の発注は既存機材の置き換えとのことで、事業計画上大きな変動要素ではないが、今後の航空業界の力学に大きな影響を与えるのがスカイマークの中型機再導入と言える。そもそもスカイマークの破綻の原因のひとつとなったのが、A330の導入による資金繰りと事業採算の悪化である。ではなぜここにきて、A330(もしくはB787)の再導入の話が出てきたのか。それは、この判断が今後のスカイマークの事業の成長を考える上で合理的であり、経営リスクも大きくないと考えられるからだ。

スカイマークの今後の事業拡大施策は、「国際線への進出」「B737増機による国内路線の拡大」が頭に浮かぶが、国際線市場と言っても当初はアジアを中心とする短・中距離に限定され、そこは国内外のLCC(ローコストキャリア)、FSC(フルサービスキャリア)との熾烈な競争が待ち受けている。何がしかの提携戦略を目指すにしても、相手を選ぶには時間も能力も必要だし、そうなったとしても国際線での黒字化を実現するのは容易でない。もし市江社長が長距離国際線を念頭にこの発言をしたのであれば、心配のタネは続く。

他方、国内路線を増強するにしても、羽田にはスロットがない(オリンピック増枠もほぼ国際線に配分されるだろう)。また、地方路線の拡大には、ピーチやジェットスター・ジャパンとの競争に向かうかというニッチ市場の開拓をしなくてはならず、現在のスカイマークが持つ羽田をハブとする安定した事業モデルを維持することはできない。

そうなると、残るは羽田路線の大型化しかない。かつての失敗は全座席をグリーンシートと称するプレミアムエコノミー席としたものの、座席に見合う高価格で販売できなかったため、急速に採算性が悪化したことによる。これを20席程度のプレエコ席を含むエコノミー仕様の2クラスにすれば、330~350席が確保でき、羽田からの主要幹線(札幌、福岡線)の供給量を倍増できる。ビジネス客の多い時間帯は十分に採算性を確保でき、確実な増収につながるだろう。

これまでスカイマークの低価格路線に対して、JALやANAがあえて価格対抗をしてこなかったのは、スカイマークの幹線利用率が80%前後で、今後の伸びしろが少ないからだ。それなら、自社の価格を高位安定させてイールドを維持した方が、プラスになると考えたからだろう。もしスカイマークの幹線座席供給量が大型化によって大幅に増加した場合、かなりの旅客流出が懸念される。大手両社にとっては「一番やってほしくない打ち手」だと言えるのではないか。

中型機の導入は2020年以降ということだが、新機材の導入準備期間や機材の確保を考えると、遅くとも2018年には機材の選定を考える必要がある。次の意思決定を待ちたい。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。