学校のeスポーツ部では、既存の校内ネットワークを利用することで、ゲームへのアクセスが制限されたり、通信の混雑によってプレイに支障が生じたりするケースがある。こうした課題を解決するため、NTTe-SportsはNTT東日本と連携し、学生eスポーツ団体に最大10Gbpsの光インターネット環境の整備を無償で支援する「光10G 学生eスポーツ応援プロジェクト」を開始した。

今回、NTTe-Sports マーケティング部 チーフの薄木将人氏に、学校eスポーツが抱える課題や、ネットワーク環境の整備を支援する狙い、その先に見据えるデジタル人材育成の可能性について聞いた。

  • NTTe-Sports マーケティング部 チーフの薄木将人氏

    NTTe-Sports マーケティング部 チーフの薄木将人氏

学校eスポーツが抱える4つの課題

初めに、薄木氏は学生eスポーツが抱える課題として、次の4点を挙げた。

  1. 活動環境の整備:ゲーミングPCや周辺機器、通信環境、活動場所の確保
  2. 指導者の不足:eスポーツに詳しい教員や指導者の確保
  3. 練習相手の不足:学校同士のつながりが少なく、練習試合を組みにくい
  4. 成果を発揮する場の不足:日頃の練習成果を披露する大会などの機会が少ない

まず、活動環境の整備については、部活動を行う場所に加え、ゲーミングPCや周辺機器、通信環境などを用意する必要がある。また、eスポーツは比較的新しい分野であることから、競技を指導できる教員や指導者も不足しているという。薄木氏は、生徒のほうがゲームに詳しく、教員が十分に指導できないケースもあると指摘する。

練習相手の確保も課題だ。オンラインでの対戦自体は可能だが、同じ高校生同士で学校対抗の練習試合を行おうとすると、学校間のつながりが少なく、相手を見つけにくいという。さらに、野球の甲子園大会のように、日頃の練習成果を発揮する大会などの機会も限られている。

こうした課題のうち、指導者や練習相手、成果を発揮する場の不足については、すでにさまざまな取り組みが進められている。一方、薄木氏が「少し難しい部分がある」と指摘するのが、活動環境の整備だ。

ゲーミングPCや周辺機器は提供できても、ネットワークの整備は容易ではない。学校にはすでにネットワークが用意されているものの、これをeスポーツに利用するにはさまざまな問題があるという。こうした通信環境の課題を解決するために立ち上げられたのが、「光10G 学生eスポーツ応援プロジェクト」だ。

なぜ学校のネットワークではeスポーツに支障が出るのか

薄木氏によると、現在、多くの学校では、既存の校内ネットワークをeスポーツの部活動でも共用しているという。しかし、学校のネットワークは、機密情報や個人情報を扱うため、厳格なセキュリティ対策が求められる。

そのため、校内ネットワークを利用する場合、ゲームタイトルやアップデータのダウンロードが制限されたり、ゲームへのアクセス自体がブロックされたりすることがある。こうした問題が発生するたびに、アクセス先をホワイトリストに登録するなどの対応が必要となり、運用面での負担が生じる。また、ゲームに必要な外部通信を許可することで、新たなセキュリティリスクが生じる可能性もあるという。

通信の混雑も課題の一つだ。ゲームのアップデートによって大量のデータがダウンロードされると、授業で使用するネットワークに影響が及ぶ可能性がある。反対に、多くの生徒が校内ネットワークを利用する時間帯とeスポーツの大会が重なれば、通信が不安定になり、対戦に支障が生じることも考えられる。

特にeスポーツでは、通信の速度だけでなく、遅延や安定性も重要になる。薄木氏は、通信環境によっては、日頃の練習の成果を十分に発揮できない可能性があると指摘する。

こうした課題への対策として、今回の「光10G 学生eスポーツ応援プロジェクト」では、学校の既存ネットワークと分けて、eスポーツに適したネットワーク環境の整備を支援する。

薄木氏が強調するのは、「10Gbpsという速度そのもの以上に、学校の既存ネットワークと分けて、eスポーツ部のネットワーク環境を整えられる」という点だ。ネットワークを分離することで、校内ネットワークのセキュリティ運用への影響や通信の混雑を抑え、授業などに支障を与えることなく、eスポーツに取り組める環境を整えられるという。

10Gbpsの高速回線、ゲーム以外にも広がる活用

さらに、10Gbpsの回線であることの意義については、実際、eスポーツ部のネットワーク環境を既存の校内ネットワークと分けて整備するだけであれば、最低限使える速度でも問題ないかもしれない。しかし、「この施策のゴールは、eスポーツを一生懸命頑張っていただくだけではない」という薄木氏は、「その先にあるのは、高速回線を使ったデジタル学習など、課外活動で学べる範囲を広げていただくこと」であると続ける。

例えば、学校が全国大会に出場した際、学校で大会の配信を観戦する。いわば、パブリックビューイングのようなことをするためには、配信に適した高速回線が必要となる。イベントを開催して、多くのパソコンを同時に使用する場合でも回線速度は重要。また将来的に、自分たちのプレイをYouTubeやTwitchなどで配信することも考えると、「eスポーツをプレイするだけにとどまらず、課外活動の幅を広げていくための土壌を整えるうえで、10Gbpsという回線速度は非常に大きな要素になる」との考えを示す。

そして、この施策が、NTTe-Sportsが推進する「デジタル人材の育成」に繋がることも期待されている。「eスポーツ部は、もちろんeスポーツが中心となりますが、学校によってはデジタル教育と一緒に取り組んでいるところもある。単にエンタテインメントというだけではなく、競い合いやチームワークなど、eスポーツには、ほかの部活動とあまり変わらない要素も多い」。こうしたeスポーツの教育的な側面も踏まえ、10Gbpsの回線は「eスポーツ部だけではなく、学校側でデジタル教育用の回線として使っていただいても構わない」と話す。

最大20校を支援、学校ごとの通信環境の課題を調査

今回のプロジェクトでは、最大20校を対象に、最大10Gbpsの光インターネット回線を活用したネットワーク環境の整備を無償で支援するほか、運用支援やヒアリング、アンケートなどを通じて、学校のeスポーツ活動における通信環境の課題を調査する。

薄木氏によると、学校によって通信環境は大きく異なり、500Mbps程度の共有回線を使用している学校もあれば、eスポーツ部などの活動用に高速回線を導入している学校もあるという。また、eスポーツ部の活動人数や接続する端末の数、プレイするゲームタイトルなども学校ごとに異なる。

こうした違いを踏まえ、各学校が抱える課題や通信環境の改善方法を把握し、今後、ほかの学校がeスポーツの環境を整備する際にも参考となる知見を蓄積していく。

一方、薄木氏は「必ずしも、20校を調べれば、全国の課題がすべてわかるということにはならない」と説明する。今回の取り組みは、学校ごとの具体的な事例を収集し、通信環境の整備に必要な知見を蓄積する第一歩と位置付けている。

ゲームから動画編集、生成AIへ - eスポーツが育むデジタル人材育成

薄木氏は、eスポーツ部の意義について、競技力の向上だけでなく、デジタル技術に触れる機会を生み出せることも重要だと説明する。

eスポーツ部では、日常的にパソコンやネットワークを利用するほか、試合の配信や動画編集などに取り組む機会もある。さらに、UnityやUnreal Engineといったゲーム開発エンジンに触れるなど、活動の幅を広げることもできるという。

薄木氏は、「eスポーツ部には高性能なパソコンがあるからこそ実現できることがありますし、そこからさらに技術を伸ばしていくことに意義がある」と話す。

NTTe-Sportsが運営する「NTTe-Sports高等学院」でも、こうした考え方を取り入れている。同校では、eスポーツを起点に、ゲームプレイだけでなく、配信や3Dモデリング、生成AIなどのデジタル技術を学ぶ機会を提供している。

また、薄木氏によると、学生eスポーツを取り巻く環境も変化しているという。2020年にNTTe-Sportsが活動を開始した当時と比べ、eスポーツに取り組む学生が増え、eスポーツ部として活動する学校も500校近くに達しているという。

学校にとっては、eスポーツ部の設置が生徒の入学動機につながるケースもある。薄木氏は、ある自治体で、定員割れしていた学校がeスポーツ部を新設し、その後、応募者が増加した事例を紹介した。

通信環境の整備から学校間交流へ、今後の展開

今回のプロジェクトでは、NTTe-SportsとNTT東日本に加え、協賛企業や連携パートナーも募集している。ネットワーク環境の整備に加え、ゲーミングPCの周辺機器などについても、企業との連携を通じて学校への支援を広げていく考えだ。

「eスポーツをプレイするためには、周辺機器などのサポートも必須です。通信回線に加え、周辺機器などを支援するパートナーとも連携し、学校が抱える通信以外の課題にも取り組んでいきたい」と薄木氏は話す。

また、NTTe-Sportsが展開する「PLAYWEB」を通じて、学校同士のマッチングも支援する。学校間の交流を促進することで、「学校同士の交流を生み出し、練習機会や大会出場につなげていきたい」と薄木氏。

さらに、今回の最大20校への支援を通じて、学校ごとに異なる通信環境の課題や改善方法に関する知見を蓄積し、今後の環境整備に生かしていく。

今回の取り組みは、通信環境の整備を通じて新たな知見を蓄積し、学生がeスポーツ活動を続けながら成長できる環境を作るための第一歩でもある。薄木氏は、「学校同士が交流することによって、新たな課題が見つかるかもしれないし、デジタル教育を進めるうえでの大きなきっかけになるかもしれない」と期待を高める。

「今後、デジタル教育がもっと当たり前になれば、eスポーツ部だけでなく、学校教育全般に高速回線が生かされることになるでしょう。その中で、様々なところで課題となっている『デジタル人材の育成』につながっていけば良いと考えています」と、eスポーツを起点としたデジタル教育の広がりにあらためて期待を寄せた。