「NTTe-Sports高等学院」を運営するNTTe-Sportsは、NTT東日本の「地域循環型社会の共創」というパーパスに準じ、「eスポーツで地域を盛り上げたい、eスポーツを地域活性化につなげたいという思いで活動しています」と話すのは、NTTe-Sports 取締役 事業開発部 部長で、NTTe-Sports高等学院の学院統括部長を務める井上裕晶氏だ。
2020年の創業当初は地域活性化を目的としたイベント事業の展開などが計画されていたが、コロナ禍の影響で方針を転換。スクール教育や部活動の活性化など“若者”をフォーカスした事業を大きな柱として据えている。
「現在は、若者向けの事業が中心ですが、地域活性化という目的も重視しています」という井上氏。地域に若者が集まるコミュニティや拠点を構築すれば、大学や就職で東京や都心部に出ていった若者も、いずれはUターンなどで戻って来る可能性がある。「人は循環するという考え方から、若者向けであることは、将来的な地域活性化にもつながる。結局、ゴールは同じということです」と、同氏は力を込める。
eスポーツを入口にデジタルスキルに触れる
NTTe-Sports高等学院は、eスポーツを入口にデジタル人材を育成することを目標に掲げている。井上氏は、入口としてeスポーツを選んだ理由について、「若者に圧倒的な人気があるからです」と説明する。
背景にあるのは、「好きなこと」を学びの入口にするという考え方だ。「『好き』を『進路』に。」を掲げているように、好きなものを入口にすれば学びやすくなるだけでなく、本来の力を発揮でき、真の力が身につくと考えています」と、同氏は語る。
その上で、「ドローンなど若者に人気のあるツールを入口にすることも可能ですが、eスポーツはわれわれが考えている以上にZ世代、α世代に浸透しているのです」と、同氏はeスポーツを選択した理由を改めて説明した。
eスポーツを入口にする最大の利点は、生徒が「学んでいる」という意識を持たずに取り組めることだという。
「カリキュラムはすべてeスポーツを入口にしています。好きなものを楽しみながら、自然とスキルが身についていくことが理想です」と同氏。その過程で、eスポーツ以外の分野にも興味を広げ、デジタルを身近な存在として捉えてほしいと考えている。
また、eスポーツを通じてパソコン操作に慣れることも強みだ。「もともとデジタルスキルとの親和性が高いので、そこにわれわれがさまざまなボールを投げ込み、自分の好きなことや将来の進路につながるものを見つける“気づき”を与えたい」と、同氏は狙いを語った。
チーム戦が育む人間力
同学院では、eスポーツが「勝敗を競う活動」である点も重視している。「ゲームで遊んでいるというイメージを持つ方もいますが、われわれが重視しているのはチーム制で競うことです」と井上氏は説明する。
授業で扱う『VALORANT』『League of Legends』などはいずれもチーム戦が中心のタイトルだ。「チームを組んでプレイすることで、チームワークやスポーツマンシップ、リーダーシップが養われます。そのあたりはサッカーやラグビーと同じだと思っています」と話す。
実際の授業では、元プロゲーマーの講師からフィードバックを受けた後、チーム内で活発なディスカッションが行われるという。その様子は「さながらサッカーなどのハーフタイムでの言い争い」だが、「チームが勝つための自己主張」であり、日常の光景として見守っているという。
「社会を生き抜くための力」も重視
NTTe-Sports高等学院は、広域通信制高校である「中央国際高等学校」のサポート校という位置づけでもある。サポート校としての本質的な役割は、提出すべきレポートが遅れないようにマネジメントすることなどが挙げられるが、独自カリキュラムを提供する学校が増えている。同学院は、eスポーツのスキルアップに加えて、デジタルスキルやライフスキルに関する授業を展開することが大きな特徴となっている。
デジタルスキルの授業では、自作PCの組立講座や、生成AIを使ったECサイトの構築、さらには3DCADや3Dプリンターを使ったゲーミングチェアのデザインなど多彩なカリキュラムが用意されている。これらの授業は、すべてゲームやeスポーツを入口としている。
「さまざまなデジタルスキルを体験してもらうことによって、まずは『自分たちでもできる』ということを実感してほしい。そして、その中から、何かひとつでも、eスポーツに続く“好き”を見つけて、スキルとして身につけ、進路につなげてほしい」(井上氏)
また、ライフスキルに関しては、「社会を生き抜くための力をつける授業」として、ロジカルシンキングやチームビルディング、レジリエンスやアンガーマネジメントなどの授業が展開されている。ライフスキルの授業は、座学として教えるだけでなく、翌日のeスポーツの授業で実践することも求めている。例えば、アンガーマネジメントの授業があった翌日、うまくプレイできずにイライラするようなことがあると、そこら中で、急に7秒数え出す生徒もいるそうだ。「ゲームをプレイしながら、ライフスキルに関する知識の実践回数を増やすことで、本当に使える力にしていく」と、同氏は笑顔で意図を説明した。
「不登校児童」の受け皿としての役割も
eスポーツを入口としたデジタル人材育成に加え、不登校児童の受け皿となることもNTTe-Sports高等学院の大きな役割だ。
井上氏は、「現在、少子化が進んでいるにもかかわらず、不登校児童は増え続けている」と現状に危機感を示す。その受け皿として通信制高校が増えている一方で、卒業後の進路には課題が残るという。
「通信制高校を卒業した子どもの約3割がニートになってしまう状況を踏まえ、われわれはより実践的なデジタルスキルや、社会で役立つライフスキルを、地に足の着いた形で教えていかなければならない」と語り、実践的な教育の重要性を強調した。
NTTe-Sportsが学校運営に乗り出すきっかけのひとつとなったのが、不登校や引きこもりの解決を目指して通信制サポート校など運営するNPO法人「高卒支援会」との協業だ。その一環として、秋葉原にあるゲーミング施設を放課後に自由に使えるように開放したところ、引きこもりの子どもたちが徐々に集まるようになってきた。
同氏は「最初は人が集まらなかったのですが、集まり始めると、ゲームがチーム制ということもあって、仲間ができる。仲間ができると、毎週何曜日に必ず来ようといった約束事ができる。その結果として、ワンショットではなくルーティンとして引きこもりが解消された」というエピソードを披露した。「これを目の当たりにしたことで、eスポーツにはすごい力があることを知り、われわれが学校を作るきっかけになった」と同氏は振り返る。
実際、NTTe-Sports高等学院の一期生も、約半数が不登校の経験者だったというが、昨年度の実績として、出席率は82%を記録しており、「基本的に出席が自由なサポート校においては驚異的な数字」を叩き出している。さらに、eスポーツは土曜日に試合が行われることが多く、同学院は休日の土曜日も自由に登校できるように開放されている。しかし、これまでほとんど学校に通っていなかった子どもが、試合があると言って休日の朝早くから出かけていったという、保護者から驚きの報告も受け取っている。しかも、本人の試合ではなく、仲間の応援のためだったという後日談も重なることで、同氏は「eスポーツは不登校や引きこもりの解消にも貢献できる」ことを確信したという。
eスポーツを入口にすることで、不登校や引きこもりの解消につながる理由について、井上氏は「同じものが好きな子どもたちが集まるため、話題が尽きないことが大きな要因ではないか」と分析する。
また、「変なヒエラルキーができないのも我が校の特徴」と同氏は話す。開校前はゲームの実力によって上下関係が生まれることを懸念し、ランク別のクラス編成も検討していたという。しかし、「実際に授業が始まると、ヒエラルキーはまったくできなかった」と振り返る。その背景については、「上下関係を作ってしまうとチームが勝てなくなることを、生徒たちが自然と理解しているからではないか」と推測する。
こうした環境は、生徒同士のコミュニケーションにも良い影響を与えているという。「ランクに左右されず、お互いにはっきり言い合える関係でなければ勝ち上がれないという考え方が、生徒たちにも自然と根付いています」と、同氏は説明。「最初は口が悪かった子も、リテラシーの授業などを通して改善されていきます。罵るだけではチームは勝てないことを実感するからだと思います」と、その変化を語った。
高い出席率、そして満足度が「大宮校」へとつながる
開校以来、1年を経て、二期生を迎えたNTTe-Sports高等学院だが、一期生にアンケートを取ったところ、満足度は全員が「満足」か「ほぼ満足」を選ぶ100%という結果になった。「嘘みたいな数字で、お見せするのが逆に恥ずかしいのですが、全員が5段階評価の上2つを選んでくれたのを見て、われわれのやり方は間違っていなかったと自信が持てました」と、井上氏は笑みを浮かべる。そして、その自信が、2027年4月の開校を控える「大宮校」へとつながる。
NTTe-Sportsでは、千葉校の開校以前から、各地域での展開を予定していたが、大宮校の開校には、千葉校での出席率の高さおよび満足度の高さが大きく背中を押しているという。「この結果に加え、保護者の方のポジティブな声を聞いて、このモデルの有用性がある程度証明されたと思っており、別のエリアでも同じような結果が出せるはず」という井上氏。
地域として大宮を選んだ理由は、まず、埼玉県が千葉県と同様に、不登校児童が多いことがある。さらに、土地柄と立地条件が大宮校の開校を決定づけたという。
基本的に、大宮校では千葉校の実績などを踏襲し、同じ方向性での運営が予定されている。千葉校において、自治体や地元企業との連携を深めているのと同様に、大宮校でも自治体・地元企業との連携を予定。「千葉校が千葉県で活躍する人を作ることを目指しているように、大宮校は埼玉県で活躍する人を作りたいという思いがあります。ここが各校の特色になるかもしれません」と、同氏は語る。
地域で活躍する人材を育てる
千葉県では、NTTe-Sports高等学院に限らず、企業ベースでもデジタル人材の育成に力を入れている。しかし、首都圏の一部と言える千葉でさえ、多くの人材が東京に流出している。そのため、「東京に行くのは仕方ないとしても、いつかは戻ってきてほしい。この人材を還流させることが地方都市における大きな社会課題」と井上氏は指摘する。これは、同学院においても重要なテーマであり、その意味でも現時点での大きな課題は「進路実績が出せていないところ」だという。
開校2年目ということを考えれば、当然のことだが、「やはり、進学なり就職なりの出口をしっかりと見せられるようになれば、保護者の方の理解度や納得度が全然変わってくる」と、同氏は話す。「eスポーツはあくまでも入口であり、社会で役立つデジタルスキルやライフスキルを学ぶ場所であるということを証明するためにも、早く卒業生を出したい」
なお、同学院で学び、将来的にプロゲーマーを目指す生徒もいるが、そのハードルの高さもあって、多くの生徒は進学・就職を希望している。「授業を通して、デザイン系に興味を持ち、進学して本格的に学びたいという子もいれば、就職したいという子もいる。就職先もeスポーツ業界にはこだわらないなど、十人十色です」と現状の進路希望状況を明かす。
2025年に千葉校、2027年に大宮校が開校。今後も関東圏を中心に新たなキャンパスを増やしていく予定というNTTe-Sports高等学院だが、「この学校のメソッドが、日本各地、そして海外でも不登校が問題になっているのであれば世界にも広がっていくことが理想」という井上氏。
その上で、「自治体や企業も含めて、地域の方から応援されながら、展開していくことが大事」と、同氏は地域活性化とのつながりも重視する。「好き」を「進路」に。eスポーツを入口にデジタル人材の育成を目指すNTTe-Sports高等学院の今後にも注目したい。




