鮮やかな羽を広げる若冲の鳳凰、北斎が80歳で描いたスイカ、そして奈良からやってきた正倉院宝物。皇室に受け継がれてきた美術品を鑑賞できる皇居三の丸尚蔵館が、11月3日、いよいよグランドオープンします。

その幕開けを飾るのが、特別展「皇室の至宝―美いづるところ」。皇室に受け継がれてきた絵画や工芸品など、前・中・後期の約3ヶ月を通して約190件が公開される、同館として過去最大規模の展覧会となっています。

  • 皇居三の丸尚蔵館が11月3日にグランドオープン。記念特別展「皇室の至宝―美いづるところ」の見どころは?

    皇居三の丸尚蔵館グランドオープン記念特別展「皇室の至宝―美いづるところ」が11月3日から開催

実は「5番目の国立博物館」。展示面積は旧施設の約8倍に

あまり知られていませんが、皇居三の丸尚蔵館は、東京・京都・奈良・九州の各国立博物館に続く、国立文化財機構が運営する5番目の国立博物館。1989年(平成元年)に上皇陛下と香淳皇后から、皇室に代々伝わった美術品などが国に寄贈され、1993年に「宮内庁三の丸尚蔵館」が開館。各宮家からのご寄贈品も加わり、現在は約6,300件(21,000点)の美術品などを収蔵しています。

  • 新たに第3展示室が加わり、展示空間が大きく広がった

    新たに第3展示室が加わり、展示空間が大きく広がった

2019年から新館建設が始まり、2023年には管理・運営が国立文化財機構へ移管され、新施設の一部が開館。今回の全面開館では新たに第3展示室が加わり、展示面積は計1,280平方メートルに。旧施設の約8倍というから、かなりのスケールアップです。

若冲の華麗な鳳凰と、北斎のちょっと不思議なスイカ

第1室のテーマは「日本美術の精華」。絵巻や屏風、掛け軸などが並び、時代も表現もさまざまな日本美術の至宝がずらり。

  • 「日本美術の精華」をテーマとする第1室の展示風景

    「日本美術の精華」をテーマとする第1室の展示風景

まず目に入るのは、海北友松の《浜松図屏風》。金色の画面に、緑の松とゆったり流れる水の形が浮かび上がります。

  • 重要文化財《浜松図屏風》海北友松、江戸時代・慶長10年(1605)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

    重要文化財《浜松図屏風》海北友松、江戸時代・慶長10年(1605)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

近づいて一場面ずつじっくり見たくなるのが、狩野探幽の《源氏物語図屏風》。金色の雲の間に、物語の場面がぎっしりと描かれたこの作品は、八条宮智忠親王と、加賀藩主・前田利常の娘である富姫の婚礼調度品と考えられています。

  • 《源氏物語図屏風》狩野探幽、江戸時代・寛永19年(1642)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

    《源氏物語図屏風》狩野探幽、江戸時代・寛永19年(1642)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

前期の注目作が、伊藤若冲の《旭日鳳凰図》。同館所蔵の《動植綵絵》と並ぶ若冲の代表作です。赤い太陽の下に、二羽の鳳凰。赤、青、緑と色鮮やかな羽が重なり合い、長い尾羽は画面の上へ下へと大きく伸びています。

  • 《旭日鳳凰図》伊藤若冲、江戸時代・宝暦5年(1755)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

    《旭日鳳凰図》伊藤若冲、江戸時代・宝暦5年(1755)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

そんな若冲の華やかさから一転、日常のひとこまを切り取ったような作品が、葛飾北斎の《西瓜図》。半分に切ったスイカの断面には薄紙がかかり、包丁が置かれています。薄紙にスイカの水分が染みわたり、シズル感たっぷり。これを描いたとき、北斎は80歳。

  • 【写真】北斎が80歳で描いた「スイカ」! 薄紙越しにも伝わるみずみずしさ

    《西瓜図》葛飾北斎、江戸時代・天保10年(1839)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

  • 有栖川宮家から高松宮家に引き継がれた香炉《修学院焼ふくべ形香炉》江戸時代(18世紀)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

    有栖川宮家から高松宮家に引き継がれた香炉《修学院焼ふくべ形香炉》江戸時代(18世紀)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

孔雀の後ろ姿から、きらめく書棚まで――「明治の技」に見入る

新たに加わった第3室の前期テーマは「明治―帝室技芸員の誕生」。帝室技芸員の作品をはじめ、皇室にもたらされた明治の絵画や工芸の名品が並びます。

  • 第3室「明治―帝室技芸員の誕生」展示風景

    第3室「明治―帝室技芸員の誕生」展示風景

中央で圧倒的な存在感を放っているのは、重要文化財《菊蒔絵螺鈿書棚》。明治天皇の御手元の品となることを目的に、構想から完成まで約11年かけられた、明治を代表する記念碑的作品です。

  • 重要文化財《菊蒔絵螺鈿書棚》図案:六角紫水、蒔絵:川之邊一朝、金具:海野勝珉、明治36年(1903)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

    重要文化財《菊蒔絵螺鈿書棚》図案:六角紫水、蒔絵:川之邊一朝、金具:海野勝珉、明治36年(1903)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

並河靖之の重要文化財《七宝四季花鳥図花瓶》も、足を止めて眺めたくなる一品。艶やかな黒い地に桜や緑の枝、鳥たちの姿が浮かび、器の表面に小さな花鳥の世界が広がっています。

  • 重要文化財《七宝四季花鳥図花瓶》並河靖之、明治32年(1899)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

    重要文化財《七宝四季花鳥図花瓶》並河靖之、明治32年(1899)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

じっくり見惚れてしまうのは、十二単をまとった女性を表した象牙の彫刻、旭玉山の《官女置物》。重なる衣の裾や手元の扇、細い髪の流れまで、丹念に彫り込まれています。こんなに柔らかそうな髪も衣も、素材はすべて象牙。

  • 《官女置物》旭玉山、明治34年(1901)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

    《官女置物》旭玉山、明治34年(1901)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

絵画では、荒木寛畝の《孔雀図》も見逃せません。こちらを振り返るような孔雀の姿に、大きく広がる尾羽。若冲の鳳凰とはまた違う、羽の重なりや色彩の美しさ。鳥を描いた作品同士でも、見比べる楽しさがあります。

  • 《孔雀図》荒木寛畝、明治23年(1890)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

    《孔雀図》荒木寛畝、明治23年(1890)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

佐久間文吾の《和気清麿奏神教図》では、暗い背景から、赤い衣をまとった人物の鋭いまなざしが浮かび上がります。日本の歴史上の場面を、明暗の対比を生かした油彩で描いた作品です。

  • 《和気清麿奏神教図》佐久間文吾、明治23年(1890)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

    《和気清麿奏神教図》佐久間文吾、明治23年(1890)、皇居三の丸尚蔵館収蔵

皇居で初めて一般公開される、正倉院宝物たち

前期のもうひとつの注目が、第2室の正倉院宝物。皇居内で一般に公開されるのは、今回が初めて。

  • 正倉院宝物を紹介する第2室の展示風景。前期の11月3日~23日に公開される

    正倉院宝物を紹介する第2室の展示風景。前期の11月3日~23日に公開される

《螺鈿紫檀琵琶》や《八角鏡 平螺鈿背》など、精巧な装飾が施された宝物に加え、文書や染織品も展示。奈良から運ばれた宝物を、東京で鑑賞できる貴重な機会となります。

  • 正倉院宝物の展示風景

    正倉院宝物の展示風景

東御苑が休みの金曜も開館。金・土曜は夜8時まで

なお、中期・後期には、すべての展示作品が入れ替わります。中期は聖徳太子ゆかりの法隆寺献納宝物や大正時代の美術、後期は《唐獅子図屏風》や約60件のボンボニエール、昭和の美術などを紹介。

ちなみに、皇居東御苑は原則として月曜・金曜が休園ですが、同館は原則月曜休館で、金曜も開館、さらに金曜・土曜は20時までの夜間開館も実施します。

誰もが教科書で見たことのあるような絵や書に続々と出合える、皇室に受け継がれてきた美術品の世界。「皇室の至宝―美いづるところ」前期は11月23日まで開催です。

■information
皇居三の丸尚蔵館グランドオープン記念特別展「皇室の至宝―美いづるところ」
会場:皇居三の丸尚蔵館(東京都千代田区千代田1-8 皇居東御苑内) 会期:2026年11月3日~2027年1月24日(中期:11月26日~12月20日/後期:12月23日~2027年1月24日)
時間:9時30分~17時。金・土曜は20時まで(入館は閉館30分前まで)
観覧料:一般2,500円。小中高大生および満23歳未満は無料
休館日:月曜日、11/24~25、12/22、12/28~1/8,1/12(ただし11/23、1/11は開館)
※日時指定制。無料対象者も一部を除き事前予約が必要