
西オーストラリア州パースで結成され、瑞々しいギターサウンドと親密な感情を描く歌詞で支持を集めてきたスペイシー・ジェーン(Spacey Jane)。2020年のデビューアルバム『Sunlight』をきっかけにオーストラリア国内で人気を拡大し、2022年の2ndアルバム『Here Comes Everybody』では全豪チャート1位を獲得した。
2025年に発表した3作目『If That Makes Sense』では、プロデューサーのマイク・クロッシーら外部のクリエイターと協働。慣れ親しんだ制作環境を離れ、バンドとして新たな可能性を模索した。国内での成功を経て、いま彼らの活動は世界へと広がっている。
今年10月、そんなスペイシー・ジェーンが初めて日本のステージに立った。代官山SPACE ODDでの公演翌日、フロントマンのケイレブ・ハーパーとベーシストのペッパ・レーンにインタビュー。初来日の感想を入り口に、明るいメロディと内省的な歌詞が共存する理由、メンバー同士の関係性、変化を恐れずに音楽を作り続けることの意味、そして故郷パースへの思いについて話を聞いた。
ケイレブ・ハーパー(Photo by Chiaki Machida)

ペッパ・レーン(Photo by Chiaki Machida)
メロディと歌詞のコントラスト、4人を結びつける音楽の力
―昨日は日本で初めてのライブでした。公演を終えて、いまはどんな気持ちですか?
ケイレブ:すごくいい気分だよ。本当に感謝しているし、驚きもあるね。日本では休暇を楽しんでいるような感覚なんだ。僕たちはもう10年くらいバンドを続けているけど、こういう経験には今でも驚かされる。世界中のいろいろな場所で演奏してきたから、初めて訪れる国がだんだん少なくなっているんだけど、またこうやって新しい国で初めてライブができるのは本当に嬉しいことだよ。自分の寝室で書いたような小さな曲が、こうして遠い場所まで届いているんだから、すごくいい気分だよ。
―これだけ世界中でライブを重ねてきても、まだ驚きがあるんですね。
ケイレブ:今でもあるよ。ちょうど昨日の夜もそんなことを考えていたんだ。もちろんこの仕事がいつも楽しいわけじゃない。ほとんどは楽しいけど、ツアーの途中で本当に疲れ果てたり、いろいろなことが重なったりすることもあるから。でも昨日は、心から感謝しながら眠りについたんだ。それってすごくいいことだよね。昨日のライブは、これまでやってきた中でも特に好きなライブのひとつだったと思う。
ペッパー:本当にそう。特に言葉の壁があることを考えると、私たちの音楽を聴いて、わざわざライブに来てくれる人がいること自体が驚きなの。でも、そこが音楽の美しさでもあると思う。歌詞の一言一句を理解できなくても音楽は伝わる。言葉の壁を越えられるんだってね。
―日本での滞在も楽しんでいるようですね。
ケイレブ:うん、すごく楽しんでいるよ。今回は4日間あるから、まるで休暇に来たみたいだって話したんだ。明治神宮にも行ってきたよ。あとは買い物もしたいし、野球のバッティングセンターにも行きたいんだ。僕はクリケットをやっていたから、最近は野球にも興味が出てきていてね(笑)。
バンドのブレイクを象徴する代表曲「Booster Seat」、2020年作『Sunlight』収録
―スペイシー・ジェーンの音楽には、思わず一緒に歌いたくなるような開放的なメロディがあります。一方で、歌詞には悲しみや不安、自己嫌悪といった内向的な感情が描かれることも多い。この明暗のコントラストは、どれくらい意識しているのでしょうか?
ケイレブ:歌詞と音楽は、少し違うプロセスで生まれてくるんだ。歌詞は僕がひとりで向き合って書くことが多い。もちろん他のソングライターと一緒に書く場合もあるけど、基本的にはとても親密で個人的な作業なんだよ。でもそこから音楽を作り上げていく過程は、すごく共同作業的なんだ。みんなで楽しみながら作っているし、ライブで演奏したときにどう響くかということも考えている。
それにバンドのメンバーそれぞれが音楽に異なるエネルギーを持ち込んでくれる。それが本当に重要なんだ。もし僕ひとりで全部作っていたら、もっと陰鬱な音楽になっていたと思う(笑)。
―共同作業の面白さはなんでしょう?
ケイレブ:みんなそれぞれ、曲が何について歌っているのか、どんな感情を持っているのかについても、違う捉え方をしていることかな。それはリスナーが同じ曲から違う意味を受け取るのと似ていると思うんだ。バンドのメンバーだって、僕とは違う形で僕の曲を経験している。それがすごく面白いし、僕たちの音楽をユニークなものにしているんじゃないかな。
―たとえばアップテンポで明るいメロディが生まれたとき、それに合わせて歌詞も明るいものにしたくなることはありませんか?
ケイレブ:いや、あまりないかな(笑)。どうしても似たような感情の方向へ向かってしまうんだよね。ただ、現在進行形で制作している次のアルバムには、間違いなく幸せな曲もあるよ。発売はたぶん来年のどこかになると思うけど、これまであまり書いたことがなかったようなラブソングも入っているんだ。だから、もしかしたら僕も少し変わり始めているのかもしれない。これからはもっとポジティブな音楽が増える可能性もあるね。どうなるかは、まだ分からないけど。
―ちなみに、普段は歌詞と音楽のどちらを先に作るのでしょうか?
ケイレブ:同時に生まれることが多いと思う。僕が作る段階ではコード進行の一部や音楽のアイデアと歌詞が一緒に発展していく感じかな。でも完成形になるのはその少し後で、そこからはバンド全体での共同作業になる。だから歌詞によって曲の基本的なトーンはすでに決まっているんだけど、実際に音楽をプロデュースしているときには、歌詞の内容をそこまで意識していないと思う。どちらかというと、音楽としてどう感じられるかを考えているんだ。
ペッパー:曲全体の感情は意識しているかもしれないけど、歌詞の細かい意味そのものより、音楽的な感覚を大切にしているの。
ケイレブ:そうだね。それに、曲によって作り方も全然違うんだ。例えば前のEPではスローな曲が多かったんだけど、一緒に仕事をしていたプロデューサーから「もう1曲、速い曲が必要だね」と言われたから、その曲のテンポを上げたんだ。40BPMくらい一気に速くしたんだよ(笑)。でもそれがうまくいった。これは歌詞とプロダクションが必ずしも直接結びついている必要はないという、いい例だと思う。
2025年作『If That Makes Sense』より「All the Noise」
―皆さんは10代の頃から音楽を演奏していて、スペイシー・ジェーンを始めた頃はパースで週に1、2回ほどライブをしていたそうですね。そもそも、それぞれどんな音楽を聴いて育ったのでしょうか?
ケイレブ:僕たちはみんな、違う音楽から影響を受けているんだ。キーレン(・ラマ:Dr)が最初に人前で演奏したのは、ストリートでのバスキングだったんじゃないかな。 僕はアークティック・モンキーズやキングス・オブ・レオン、ザ・ストロークスを聴いていた。2000年代のロックが、自分の演奏スタイルの原点になっていると思う。
だから初期の僕たちの音楽はもっとヘヴィで、テンポも速かったんだ。それに、キングス・オブ・レオンのボーカルみたいな歌い方を少し真似しようとしていた時期もあったね(笑)。
ペッパー:メンバーそれぞれが違う音楽から影響を受けていることって、私たちのサウンドをユニークにしている要素の1つだと思う。全員がすでに存在している同じバンドを目指しているわけじゃないからね。それぞれが自分のサウンドを持ち込んでいるの。個人的にはザ・ビートルズのベースプレイがすごく好きだし、グランジからも大きな影響を受けている。PJハーヴェイなんかも好きかな。
ケイレブ:それからペッパーは以前、お父さんと一緒にバンドで演奏していて、アップライトベースを弾いていたこともあるんだ。それが今の音楽に直接影響しているかは分からないけど、それぞれの音楽経験の土台が違うというのはとても面白いことだと思う。ちょっとファンキーなことでもあるよね。
―それぞれが異なる音楽から影響を受け、それをひとつに持ち寄ることでスペイシー・ジェーンならではのサウンドが生まれている。では、そのバンドの音楽の核にあるものは何でしょうか?
ケイレブ:難しい質問だね。4人で音楽を作るというのは面白いことなんだ。僕たち全員にとってすごく感情的な作業だし、そこにはそれぞれの名前が刻まれているわけだから。でも核にあるものをひとつ挙げるなら、僕たちは本当にお互いのことが好きで、一緒に音楽を作ることが好きなんだ。少なくとも僕にとってはそれが一番大きい。
―それは結成当初から同じままですか?
ケイレブ:うん。今でもみんなで本当によく笑っているよ。ペッパーや他のメンバーといるときが、人生で一番笑っている時間かもしれない。一緒にいることがすごく楽しいし、それが自分を若く保ってくれている気がする。僕は最近30歳になったばかりだけど、みんなといると子どもに戻ったような気分になるんだ。もちろん、スタジオでの作業がものすごく苦しくなることもある。
それぞれが自分のアイデアを主張して、ぶつかり合うこともあるしね。アルバムを作るというのは、その後3年間くらいの自分たちの人生を左右するものについて考えることでもある。だからみんな真剣になるんだ。でも、それをやれること自体が本当に素晴らしい。僕たちが一緒にいることを楽しめていて、ひとつのチームだと感じられる。それこそが、僕たちにとって音楽なんだと思う。だからそれがバンドの核にあるものだね。
ペッパー:それはライブにもすごく表れていると思う。私たちがステージでやり取りしたり、一緒に踊ったりしている姿を、お客さんも楽しんでくれているんじゃないかな。私たち自身が一緒にいることを楽しんでいるのも伝わっていると思うな。
ケイレブ:よく「本当にそんなに仲がいいの?」「本当に楽しんでいるの?」と聞かれるんだ。というのも、メンバー同士が嫌い合っているバンドの話ってたくさんあるだろ? でも僕にはそんな状態が想像できない。もしそうなったら、僕はバンドを辞めると思う。好きでもない人や、うまくやっていけない人たちと、ここまで深く関わり続けるなんて耐えられないよ。
頭がおかしくなってしまうと思う。だから続けられているってことは、本当に恵まれていることなんだ。英語には「live in each other's pockets」という表現があって、いつもべったり一緒にいるという意味なんだけど僕らにぴったりだね。ツアーバスでも、ステージでも、スタジオでも、僕たちはものすごく長い時間を一緒に過ごすから。だからその時間を心から楽しめなければ、とてもやっていけないと思うよ。

2026年10月5日、代官山SPACE ODDにて撮影(Photo by Chiaki Machida)
「心地よさは新しいアートの敵になる」
―2020年に『Sunlight』をリリースし、バンドが大きく飛躍しようとしていた矢先にパンデミックが起こりました。その後『Here Comes Everybody』ではオーストラリアのチャート1位を獲得しましたが、コロナ禍によって海外での活動は制限されていた。一方でケイレブは、3作目の『If That Makes Sense』を「国際的なデビュー」のように語っていました。実際の成功と、バンド自身がその成功を実感するタイミングには、ズレがあったのでしょうか?
ケイレブ:面白い質問だね。コロナ禍の間に『Sunlight』を出したときは、僕たち自身も「一体何が起きているんだ?」という感じだった。オーストラリア国内に限られた現象ではあったけど、それでも本当に驚いたよ。2019年の僕たちは、オーストラリアで300〜500人くらいの会場で演奏していたんだ。
―ちょうど昨夜の東京公演と同じくらいの規模ですね。
ケイレブ:そこへコロナがやってきて、その間にアルバムをリリースした。そして次にツアーができるようになったときには、3000人の前で演奏するようになっていたんだ。その変化は本当に劇的で分かりやすいものだったよ。あの期間に何か大きなことが起きたのは、僕たちもはっきりと感じていたんだ。本当に運が良かったね。ただ、昨年リリースした3枚目のアルバムを「国際的なデビュー」と表現したのは、少し違う意味なんだ。
あれは、最初から世界中に届けることを意識してリリースした初めてのアルバムだったから。世界各地でマーケティングしていくことを前提に作った作品だったんだ。今はヨーロッパ、イギリス、アメリカにもチームがある。そういった市場でレコードをプロモーションできるし、ある程度の規模のライブも開催できるようになった。もちろん僕たちはオーストラリアのバンドなんだけど、単にオーストラリア国内だけのバンドではなくなったと感じたんだ。
―『If That Makes Sense』では、ケイレブがロサンゼルスへ移り、マイク・クロッシーとレコーディングを行い、他のソングライターともコラボレーションしました。以前ケイレブは、同じことを繰り返すのではなく、新しいことをしたかったと話しています。なぜ3枚目のアルバムでは、あえて自分たちを慣れない環境に置くことが重要だったのでしょうか?
ペッパー:そうすることで、人生がもっと楽しく、刺激的なものになるからね。自分たちの表現も成長し続けられる。慣れ親しんだ場所にとどまるのではなく、自分たちに挑戦を課し続けるということが大切なんだと思うわ。
ケイレブ:本当にその通り。心地よさというものは新しいアートやイノベーションの敵になることがあると思うんだ。何か新しいことをしようとするなら、自分自身に挑戦しなければならない。僕はこのバンドをできるだけ長く続けたい。本当にこの活動を愛しているからね。だからこそこれまでの成功に甘んじたり、同じことを繰り返したりしたくないんだ。
成長し続けて、新しい影響を受け入れ、もっといろいろな人と一緒に制作していく。それがバンドを長く続けていくための良い方法じゃないかな。それに単純に楽しいことでもあるんだよ。アメリカに行ってマイク・クロッシーのようなプロデューサーとレコードを作ったり、素晴らしいソングライターたちと仕事ができたりするなんて、本当に恵まれた機会で、刺激的だしね。そして僕たちはまだ若い。だからまだまだ楽しみたいんだ。
―ケイレブは以前、今回の制作を通じて、物事を自分の思い通りにコントロールしようとすることを手放せるようになったとも話していました。他のソングライターやプロデューサー、クリエイティブチームと仕事をするなかで、その学びはどのような意味を持ちましたか?
ケイレブ:僕にとってソングライティングは、ずっと個人的なものだったんだ。歌詞も含めて、基本的には全部自分ひとりで書いていた。寝室にこもって曲を作るようなやり方だったからね。だから初めて他のソングライターと一緒に曲を書いたときは、ものすごく緊張したよ。会ったばかりの人に対して、自分の内面を正直にさらけ出すというのは、すごく不思議な感覚だし、難しいことでもある。
誰かのアイデアを受け入れることを学ばなければいけないし、そのアイデアが本当にいいのか確信できないこともあった。逆に、相手が出してくれたアイデアを気に入らなかったときに、それを傷つけないように伝える方法も身につけなければならなかったから。
―話を聞くと、とても難しいように感じます。
ケイレブ:でも学んだことはどちらも大切なスキルだったってことかな。以前の僕は、自分の曲に対してすごく神経質だったし、感情的になりすぎるところがあった。でも少しずつ過保護にならずに済むようになってきたと思う。曲というのは、自分の赤ちゃんみたいなものなんだよ。もちろん僕は実際に子どもを持ったことがないから、その感覚がどういうものかは分からないけど、きっとどこか似ているんじゃないかな。それくらい大切なものなんだ。だからこそ、そこから少し手を離すことを学ぶ必要があったんだと思う。
世界へと広がる活動、変わりゆく「故郷」の意味
―最近の作品では、1980年代のオーストラリアン・ロックから強く影響を受けたそうですね。世界進出を目指すタイミングで、あえて自国の過去の音楽に目を向けたのはなぜでしょうか?
ケイレブ:単純にINXSの音の質感がすごく好きなんだ。それから、オーストラリア国外ではそこまで有名ではないかもしれないけど、The ChurchやMental as Anything、Icehouseといったバンドもね。あのサウンドは本当にかっこいいと思うけど、ああいう独特の音が、そのまま世界中に広まったわけではないんだよね。
もちろんジェネシスやフィル・コリンズなんかには似たようなサウンドがあると思うけど。だから、何か特別な意図があって取り入れたというよりは、純粋にサウンド面での魅力的なリファレンスだったということなんだ。
―楽曲の中では、恋愛関係の終わりや、別れを引き延ばしてしまう感情、そして「自分の居場所はどこなのか」という問いも描かれています。ここ数年は世界中をツアーで回り、今ではパース以外の場所にも暮らすようになりました。現在の皆さんにとって「故郷」とは何でしょうか?
ペッパー:難しい質問ね。でも最近は故郷がいくつもあってもいいんだという考えを受け入れられるようになったの。私にとって故郷というのは、そこにいる人たちと深く結びついているものだから。自分の大切な人たちがいる場所が私にとっての故郷。コミュニティというものも、故郷を考えるうえですごく大切なの。その中で、自分たちの活動する場所が広がれば広がるほど、所属するコミュニティも、故郷と呼べる場所も増えていく。それは難しいことでもあるけど、いろいろな場所へ行って、いろいろな人たちに会おうとするのも、人生の一部なんだと思う。
ケイレブ:僕たちは本当に恵まれた仕事をしていると思うけど、その代償というか、最大のデメリットは、常に確かな拠り所があるわけではないということだと思う。でもその代わりに、世界中のいろいろな場所で小さなコミュニティを作ることができるんだ。先週は1週間ほどパースに帰っていたんだけど、懐かしい顔に会えて本当に嬉しかった。
あと1週間くらいしたらLAに戻る予定で、そこでも友達に会える。そういうことがあるのは素晴らしいことだよね。ただ故郷という概念がどんどん抽象的になっていく感覚はあるんだ。どこか宙に浮いているような感じというか。
ペッパー:あと私にとっては、その土地の自然環境もすごく大きいと思う。故郷を思い浮かべると、西オーストラリアのブッシュ(原生林や低木地帯)やビーチが真っ先に思い浮かぶの。そういう環境で育ってきたから、あの風景はこれからもずっと、自分にとって故郷だと感じられるものなんだと思う。
2026年6月リリースのEP『Exit Wounds』収録曲「I Never See Her」。別れを受け入れられない葛藤と、心の拠り所となる「故郷」を探し求める思いを、軽快なギターサウンドに乗せて歌った一曲
―その話とも少し重なりますが、オーストラリアやパースを離れて暮らすようになったことで、自分たちの中にある「オーストラリアらしさ」や「パースらしさ」について、新しく気づいたことはありますか?
ケイレブ:そうだね。まず、自分がどれだけ広い空間を必要としているかに気づいたよ。それと、人が多い環境でどれだけ簡単に疲れてしまうかということにもね。例えば東京は大好きだけど、もし1か月住むことになったら、たぶんおかしくなってしまうと思う(笑)。僕には裏庭みたいな場所が必要なんだ。そういうことは以前から何となく分かっていたけど、海外で暮らすようになって、より強く実感するようになったよ。
LAでも、3カ月くらいすると、車を運転することが本当に嫌になってくるんだ。人が多すぎるし「ちょっとここから出たい」と思ってしまう。だからパースに帰ると、ようやく深呼吸できるような感覚になるね。あの空間の広さも生活のペースもね。パースに住んでいると「何も起こらない」「時間の流れが遅すぎる」なんて文句を言ったりするし、それは本当なんだけど、同時にそこがパースの素晴らしいところでもあるんだよ。
ペッパー:オーストラリアらしさというのは少し難しい話だと思う。私たちはそこまで愛国的なタイプではないから。国に対して強い誇りを持っているかというと、必ずしもそういうわけではないしね。
ケイレブ:それにオーストラリアが比較的若い国だということも関係しているのかもしれない。ヨーロッパのさまざまな地域から来た移民によって形作られてきた国だし、アジアからの移民や文化的な影響も大きい。そういう、いろいろな要素が混ざり合った面白い国だと思う。
ペッパー:でもその歴史は植民地化の上に成り立っているものでもある。だから、いまだに解決されていない歴史の問題や、その根底にある暴力の記憶も存在しているの。そう考えると、ライブでお客さんが「Aussie! Aussie! Aussie!」と叫んでいるとき、少し複雑な気持ちになる。あの掛け声にはどこか攻撃的なニュアンスがあって、私たちが完全に共感できるものではないというか。
ケイレブ:面白いよね。結局、土地そのものと、国家というものは違うんだと思う。国を定義するのってすごく難しい。そこには歴史もあるし、自然環境もあるし、人々もいる。しかも、その人々だって本当に多様だからね。どこにいるかによっても全然違う。だから自分にとってオーストラリアとは何なのかと聞かれても、簡単には定義できないんだ。ただ、自分の故郷だということだけは確かだね。
―結成当初と現在では、自分たちが作りたいと思う音楽は変化しているのでしょうか?
ケイレブ:どうだろう。自分でもまだよく分からないな。今はちょうど新しい曲を書いて、それをひとつの作品としてまとめようとしている段階なんだ。これからLAで2週間くらい制作する予定があって、そこで作業を進めるうちに、次のアルバムがどんなサウンドになるのか、少しずつ見えてくるんじゃないかな。でも今のところは、自分自身が本当に好きだと思える曲、聴いていて気持ちがいいと感じられる曲を書こうとしているだけなんだ。
―では、アルバムを作るときに、あらかじめサウンドの方向性や完成形をイメージすることはないのでしょうか?
ケイレブ:面白いもので、僕は昔から、最初に「こういうサウンドのレコードを作ろう」と決めてしまうと、結局そのサウンドのコピーみたいな作品になってしまうんじゃないかと思っているんだ。だから、そのときの自分たちにとって自然だと思えるものを作ろうとしている。そうするといろいろな影響が自然に入り込んでくるんだよ。さっきの1980年代のオーストラリアン・ロックについても同じだね。
僕たちは、あの時代のロックをそのまま再現したアルバムを作りたかったわけじゃない。ただ、あの時代のスネアの音だったり、シンセサイザーの音色だったり、ギターのトーンだったり、そういうものが好きだったんだ。だから、そこから少しずつ拝借したという感じかな。あの時代の音楽そのものを作りたかったわけではなく、好きなものの断片をいろいろなところから取り入れたんだ。
ペッパー:今の私たちは、とても恵まれた立場にいると思う。これまでにある程度の作品を発表してきたから、次のアルバムがどんなものになっても、ライブに来てくれる人たちがいるんじゃないかと思えるの。これまでの曲を聴くために、これからも長くライブへ足を運んでくれる人がいるだろうしね。だから以前ほど心配せずに、自由に楽しみながらクリエイティブなことに取り組める。それは本当にありがたいことだと思うかな。
ケイレブ:そうだね。でもそれは恵みであると同時に、少し難しいことでもあるかな。すでにファンがいるということは、当然「次の作品を気に入ってくれるだろうか?」と考えてしまうから。でも、自分たち自身に正直でいられるなら、それでいいんじゃないかな。僕がリスナーとして嫌だと思うのは、アーティストが明らかにファンの反応を狙って変わろうとしているときなんだ。
例えば、突然リブランディングを始めるようなことで、僕自身もファンとして、そういうものには違和感を覚える。新しいことを自然に探求した結果として変化しているのではなく、意図的に自分たちを作り変えようとしている場合だよ。それが自然な成長の結果ではなく、もっと売れるからとか、もっと利益になるからという理由で行われているとしたら、何か違う気がするんだ。
大切なのは、その変化の裏にどんな動機があるかだと思う。新しいことを探求したいからなのか。それとも、もっとレコードを売りたいからなのか。そこには大きな違いがあるよね。
ペッパー:ただ、もうひとつファンとして嫌なのは、ライブに行ったのに、自分の好きな曲を演奏してくれないことかな(笑)。だから、私たちもお客さんが聴きたいと思っている曲は、ちゃんと意識するようにしているよ。

Photo by Chiaki Machida
―いわゆる欧米の音楽について語るとき、どうしてもイギリスやアメリカの音楽が中心になりがちだと思います。一方で、オーストラリアには独自の音楽文化があり、スペイシー・ジェーンもそうしたユニークな立場にいると思います。グローバルなバンドとして、今後はどのような方向へ進みたいと考えていますか?
ケイレブ:どうだろう。実は、そこまで気にしていないのかもしれない(笑)。でも音楽のグローバル化というのは面白いよね。例えばイギリスのWestside Cowboyや、アメリカのThey Are Gutting a Body of Waterのような新しいインディー・バンドたちがいるでしょう。ギースやMJレンダーマンなんかもそうだね。
いろいろなインディー・ミュージックが、またどこかでつながり始めているように感じるんだ。もちろん、僕はそういうアーティストたちがすごく好きなんだけど、僕たち自身が、ああいう極端にローファイなインディー・ミュージックを作りたいわけではない。だから…まだよく分からないな。結局、僕たちは自分たちの好きな音楽を作って、それがどこへ向かっていくのかを見てみたいんだと思う。
ペッパー:オーストラリアの音楽シーンは、今すごく面白い時期にあると思う。まだ独自のサウンドを形成している途中なのかもしれないし、新しい音楽も次々と生まれているからね。オーストラリアには確かに独特のサウンドがあると思うけど、それも常に変化し続けていると思う。だからそういうシーンの一部でいられるのは本当に嬉しいよ。
オーストラリアの音楽コミュニティに属しているという実感を持ちながら、同時に世界中の人たちにも受け入れてもらえる、それはすごく素晴らしいことだと思うの。
―昨日のライブが本当に素晴らしかったので、ぜひまた日本に来てほしいです。次はサマーソニックなどでも観たいですね。
ケイレブ:プロモーターの人たちも気に入ってくれたみたいだから期待しているよ! ぜひ戻ってきたいね。実現するといいな、ありがとう!

スペイシー・ジェーン
『If That Makes Sense』
発売中
