地域の伝統を生かした移動教室や、高齢者の孤立を防ぐAIサービス――。学生ならではの発想から生まれた10件のアイデアが、J:COM本社に集まった。10月18日に開催された「大学生と考えるSDGs アクション支援プロジェクト」の最終選考会だ。

最終選考会には全国から集まった10組の学生チームが登壇し、各地の地域課題の解決に向けた独創的な企画を発表。活動資金50万円の授与とJ:COMの伴走支援が受けられるベストアクション賞には、「美山ぐるぐる教室カヤゴヤ」と「タイズマッチ」の2チームが選ばれた。

  • 最終選考会と表彰式には、10チーム・計22人の学生が参加した

    最終選考会と表彰式には、10チーム・計22人の学生が参加した

全国から集まった10チームが地域課題の解決策を提案

J:COM主催の本プロジェクトは、大学生や大学院生、高専生らが考案した持続可能な地域課題解決のアイデアを募集し、優れた取り組みを表彰してアイデアの実現に向け支援するもの。2024年からスタートし、今年度で3回目を迎えた。

開会の挨拶に立ったJ:COM サステナビリティ推進部長の和泉克典氏は、J:COMが都市型ケーブルテレビとしてビル陰や高速道路の遮蔽などで、テレビ電波の届きにくいエリアに放送を届ける「社会課題解決」を出発点に発展させてきた歴史を紹介。現在は全国で約1,400万世帯が自社ネットワークに接続されているなど、NTTに次ぐ規模の自社回線網を持つインフラ企業としての強みに触れた。

そのうえで和泉氏は「本プロジェクトの最終選考会は、アイデアの優劣を競う場ではなく、J:COMの支援によって踏み出す第一歩が大きくなる場と捉えてほしい。どのアイデアも素晴らしく、選考は『J:COMの強みとフィットするかどうか』を基準にする」とエールを送った。

最終選考は、スライドを用いて壇上で5分間のアピールを行う「ポスターレビュー」(プレゼンテーション)と、掲示パネルの前で審査員や参加者からの質問に直接答える対話形式の「ポスターセッション」の2段階。ポスターセッションは5チームずつ交代制で実施された。

どのチームも綿密なリサーチと練習を重ねてきたことが伝わる、熱意にあふれるプレゼンとなっており、支援金の使途も明確に示し、J:COMが持つ地域ネットワークや情報発信力への期待が共通して語られていたのが印象的だった。

ポスターセッションのときに何人かの学生に声をかけると、どの学生からも的確な回答が淀みなく返ってきて、まるで展示会のメーカーブースでベテランの担当者と対話しているような頼もしさがあった。

  • 壇上のポスターレビューで熱心にプレゼンするチーム「タイズマッチ」のメンバー

    壇上のポスターレビューで熱心にプレゼンするチーム「タイズマッチ」のメンバー

移動教室と高齢者向けAIサービス、2チームが最高賞に

ここでは見事受賞を果たした4チームを紹介する。

ベストアクション賞のチーム「美山ぐるぐる教室カヤゴヤ」は、京都府南丹市美山町(みやまちょう)の「かやぶきの里」が着想の原点になっている企画。

美山では茅葺きが地域住民の共同作業で支えられていることに感銘を受けた学生たちが、茅葺き屋根を備えたトレーラーハウス「茅小屋(かやごや)」を発案した。

5つの地区を巡る移動教室や、お祭りでの移動店舗、成果を報告する展示の拠点などに利用して、過疎化が進む地域の世代間交流とコミュニティ再生を目指す。

地域の茅葺き職人や住人たちも巻き込んで、2027年の本格稼働に向けて着実に準備を進めている点や、模型を自作して仲間を広げていく高い実行力が評価された。

  • チーム「美山ぐるぐる教室カヤゴヤ」のポスターレビューでは、自作した茅小屋のデザインや模型も披露。仲間を広げていくパワフルさも際立っていた

    チーム「美山ぐるぐる教室カヤゴヤ」のポスターレビューでは、自作した茅小屋のデザインや模型も披露。仲間を広げていくパワフルさも際立っていた

同じくベストアクション賞に選ばれた、千葉県千葉市の団地などで深刻化する独居高齢者の孤立問題に着目したチーム「タイズマッチ」の企画は、高齢者特化型のAIシステム「ズットーク」を開発し、日々の会話を通じてAIが趣味や関心を学習して、地域のサークル活動など、リアルな居場所を提案するというもの。

3人の優れたチームワークおよび当事者意識の高さが、地域高齢者の困りごと解決に長年向き合ってきたJ:COMの事業基盤と親和性が高く評価につながった。

  • オリジナルのアプリ「ズットーク」が動作する様子も見られた

    オリジナルのアプリ「ズットーク」が動作する様子も見られた

ホヤの廃棄資源やキクラゲで環境問題に挑む学生たち

審査員特別賞を受賞したチーム「SEA THROUGH」の企画は、海への関心の低下(海離れ)と東日本大震災後の藻場の再生に取り組むプロジェクトだ。

宮城県石巻市の水産加工で廃棄されるホヤの殻からセルロースを抽出し、独自技術で紙に加工。その紙でアマモの種を包んだ体験型教育キット「海のゆりかごキット」を作って、子どもたちが自宅や学校でアマモを育て、海に植えに戻る循環を提案する。

“ホヤから紙を作る”という気になる一言がさらりと出てきたのには驚いた。「きれいな海ではなく、命が巡る豊かな海を目指す」という理念と、高度な独自技術を親しみやすい教育の仕組みに落とし込んだ点が高評価された。

  • チーム「SEA THROUGH」のポスターレビューの様子。審査員や他の参加者からも熱心な質問が飛ぶ

    チーム「SEA THROUGH」のポスターレビューの様子。審査員や他の参加者からも熱心な質問が飛ぶ

参加学生同士の相互投票で選出する学生投票特別賞には、沖縄高専のチーム「アラゲキクラゲ」による「沖縄の未利用資源で土と海をつなぐ資源循環プロジェクト」が輝いた。

アラゲキクラゲはキクラゲの一種。沖縄では基幹作物であるサトウキビの搾りかす(バガス)でキクラゲを栽培する取り組みが進んでおり、収穫後に残る廃菌床(はいきんしょう)を農地にすき込む土壌改良材にすることを提案した。

これにより、土壌の団粒構造の形成を促し、農作物の品質向上と沖縄を中心に問題となっている赤土流出の抑制を両立するという。一次産業の現場に根ざした高い実用性や、論理的で分かりやすい発表の構成が同世代の学生達の心をつかんだ。

  • チーム「アラゲキクラゲ」のポスターレビュー。専門用語の多い内容ながら、論理的で平易な説明を心がけ、研究発表のようで分かりやすいと他の学生達から大きな支持を集めた

    チーム「アラゲキクラゲ」のポスターレビュー。専門用語の多い内容ながら、論理的で平易な説明を心がけ、研究発表のようで分かりやすいと他の学生達から大きな支持を集めた

学生たちのアイデアを地域で実現へ、J:COMが伴走支援

本プロジェクトを推進する、J:COM サステナビリティ推進部の藤野のぞみ審査員長は、「10チームそれぞれが地域や社会の課題を深く掘り下げ、『自分たちにできることは何か』を真剣に考え抜いた提案が発表された。多角的な視点から解決策を検討し、継続性や発展性まで見据えたアクションプランが多く見られたことが印象的だった」と総括した。

さらに「J:COMが学生達の活動や成果をJ:COMチャンネルの情報番組などで発信・後押しすることで、それを見た次の世代の学生が『自分も何か行動を起こしてみたい』と感じるきっかけを生み出したい」と今後の展望を語り、次年度も挑戦する学生の輪が広がるような好循環を作っていきたいとの考えを示した。

地域の課題に向き合い、事業のアイデアや実現性・持続性を練り込む努力はもちろん、周囲に理解を求めるプレゼンテーション能力・コミュニケーション能力のスキルも求められ、参加者のレベルの高さが伝わってくる最終選考会・表彰式だった。本プロジェクトが、日本の学生が社会に出て活躍できる土壌として、より一層の注目を集めることを期待したい。

  • 審査時間を利用したアイデアソンでは、異なる地域や大学の学生同士の組み合わせでテーブルを囲み、交流の場にもなっていた

    審査時間を利用したアイデアソンでは、異なる地域や大学の学生同士の組み合わせでテーブルを囲み、交流の場にもなっていた