5月26日、JCOM株式会社(J:COM)は、都内で報道向けに説明会を開き、中長期的な研究・技術開発を通じて顧客や地域社会の発展に貢献することを目的として4月に「R&Dセンター」を設立したと発表した。
また、同センターで最初に取り組む研究テーマのひとつとして次世代無線規格のWi-Fi 8を挙げ、MediaTek社の協力のもと6月より実証実験を開始すると説明。ここでは、R&Dセンター設立の狙いと、最初の研究テーマとなるWi-Fi 8実証実験の概要をレポートする。
R&Dセンター設立の背景と今後の取り組み
会場では、まずR&Dセンターのセンター長に就任した吉兼昇氏が登壇して挨拶を行った。吉兼氏は1999年にKDDIに入社後、KDDI総合研究所などを経て光通信技術の研究開発や技術標準化などに携わってきた人物。
今回のセンター設立の背景について「J:COMは、これまで地域に密着した放送・通信事業者として、ケーブルテレビやインターネット、固定電話、モバイルなどのサービスを提供してきた。しかし事業環境などの変化に伴い、既存の技術や製品をそのまま導入するだけではサービスの差別化や新技術への対応が難しくなりつつある。また、ユーザーのニーズも変化してきており、従来のように通信速度だけでなく、通信の安定性や品質の高さも求められるようになってきている。そこで、将来の暮らしやサービス、運用を見据えた技術を先取りして事業成果に繋げるための専門部隊が必要であると判断した」と説明。
またセンターのビジョンについては「『暮らしのうれしい』と『地域のゆたかさ』を技術革新によって支えていくことを掲げている」と話し、活動方針として「近未来の価値創出、実装志向、競争力と経営基盤の強化」の3つを挙げた。
そのうち「近未来の価値創出」については、ユーザーの体験価値の向上や、それを支えるための通信インフラを高度に操れるような技術の研究開発を進めていくとのこと。また「実装志向」については、PoC(概念実証=アイデアやコンセプトの実現可能性の検証)に終わらず実装までこぎつけてユーザーの体験価値に役立てることだと説明し、「これら二つを合わせて競争力の強化に繋げていきたい」とした。
R&Dセンターでは、ビジネスに特化しすぎない研究開発を目指し、事業化を見据えた課題解決や既存事業への貢献を担う「技術開発グループ」、中長期的な視点での研究開発を行う「研究開発グループ」、今後の事業の検討に資するような調査を進める「調査研究グループ」の3グループで取り組みを進めていくとのことだ。
ネットワークの高度化と宅内配線の無線化を推進
今後R&Dセンターでは、「映像とコミュニケーションの革新」、「メディア・コミュニケーションの新しい楽しみ方の創造」、「インフラ運用の高度化」、「安心・安全な暮らしの支援」、「労働スタイルの革新」という5つの取り組みを目指しているとのこと。
具体的な開発テーマとしては、「没入体験型メディア」や「ロボティクス」、「通信」、「デジタルツイン」などがあり、AI活用や外部と連携した共同研究なども推進していく。
2026年度はその一環として、ユーザーの体験価値向上や運用高度化に資する4つの分野に取り組む。ひとつが「Dark NOC」で、「ネットワーク運用の高度化により人手を省き、現在24時間体制のネットワークオペレーションセンター(NOC)を夜間消灯して暗く(Dark)できるようにする」というもの。
また、ネットワークインフラの運用を人手ではなくロボットに置き換えて効率化と品質向上を目指す「ロボティクス」や、宅内同軸配線の無線化を目的とした「Wi-Fi 8」、ヘルスケアなどへの応用を視野に入れたセンシング技術「ミリ波」などの研究開発にも取り組んでいくという。
MediaTekとWi-Fi 8の実証実験に取り組む
一般的な通信事業者と異なり、J:COMではユーザーの宅内のWi-Fiまで標準でサポートしている。現在の最新規格Wi-Fi 7についても2025年11月より提供を開始しており、「My J:COMアプリ」経由でそのトラブル対策や簡単接続のためのプラットフォームも提供中。こうしたサービスが顧客満足度の改善にもつながってきたことから、J:COMではWi-Fiに力を入れており、そのサポートを強化していく予定だ。
R&Dセンターでも、さらに安定した宅内通信環境を目指して、通信の安定性と信頼性を重視した次世代規格「Wi-Fi 8」の実証実験の取り組みを6月より開始する。その目的について吉兼氏は、「現在、Wi-Fi 8の標準化が進んでおり、2028年にその完了が見込まれている。一般に普及するのは2030年以降と想定しており、それに向けてWi-Fi 8をスムーズに導入できるようにするため」と説明。
Wi-Fi 8には「長距離で安定した高速通信」、「AP(アクセスポイント)と端末間の通信の最適化」、「AP間連携で低遅延通信」などのメリットがあるが、今回の実証実験で検証するのは「通信帯域の効率的な利用」の部分。
具体的には、多くのデバイスを同時に接続して通信帯域を無駄なく同時に利用するDSO(Dynamic Sub-band Operation)機能の有効性と、電波干渉下でノイズがある通信帯域を避けるNPCA(Non-Primary Channel Access)機能の有効性を確認するとのこと。
会場では、その実証実験に協力した台湾MediaTekのIntelligent Connectivity BU Deputy General Managerのリーフォン・ツァウル氏と、Intelligent Connectivity BU Senior Managerトニー・ロー氏も登壇し挨拶を行った。
ロー氏は、Wi-Fi 8規格について「Wi-Fi Allianceが2028年1月より認証を開始しようとしているが、MediaTekでもそのスケジュールに合わせて対応したソリューションを用意しているところ。規格策定にも積極的に関わっており、約49件の提案をしている」と同社の関わりを説明。
また、MediaTekのWi-Fi 8技術については「Wi-Fi Allianceの認証試験に準拠した必須項目はもとより、オプション項目の対応にも力を入れている。業界最先端の技術を利用して電力の最適化を行っているほか、事業者向けの付加サービスも多く提供する」とのこと。さらに「6GHz帯については、他社が4T×4R(4送信×4受信)のアンテナ構成のところ、MediaTekでは4T×5Rとして性能とユーザー体験の向上に繋げる設計になっている。また最大20%の省エネルギーも実現する」と話した。
今回の実証実験で確認するDSO機能については、「一般的なDSOではWi-Fi 8に対応したデバイスのみ効果があるが、MediaTekではそれを拡張した『MediaTek DSO+』を用意した。Wi-Fi 7以前の既存端末でも効果を発揮する」とのこと。また、NPCA機能については「マンションのようにAPが複数あってチャンネルの奪い合いになる場合でも、代わりのチャンネルを使って待たずに通信できるためスループット向上や遅延低減に繋がる」と説明した。
さらに、J:COMとの協力関係について「台湾と日本で住宅環境はあまり変わらないが、J:COMとMediaTekでは発想が違うところがポイントだった。J:COMはユーザー視点の発想やユーザー体験を重視してサービスを提供している。そこに関心を持った」と今回実証実験に参加した経緯を明かした。








