三井不動産は10月2日、日本橋室町エリアで視覚に障害を持つ方向けの屋内ナビゲーションサービス「IndoorFlow」を導入したと発表。視覚障害当事者による体験も行われ、“行きたくなる街”づくりへの展望を明かした。

  • 日本橋室町エリアで行われた「IndoorFlow」体験会

    日本橋室町エリアで行われた「IndoorFlow」体験会

誤差数メートルの視覚障害者向け屋内ナビ「IndoorFlow」

「IndoorFlow」の開発を担当したのは、三井不動産と本田技研発のスタートアップ企業として2021年に創業したAshirase。靴にコンパクトな機器を取り付け、足に伝わる振動で目的地まで案内を行うナビゲーションサービス「あしらせ」で培った技術と知見を活かし、GPSが届きにくい地下・屋内での音声案内・AR表示を実現する。

  • 屋内ナビゲーションサービス「IndoorFlow」の仕組み

    屋内ナビゲーションサービス「IndoorFlow」の仕組み

今回実装される日本橋室町エリアでは、単一の施設に留まらず、駅・地下道・商業施設をまたいだ街全体を繋ぐ仕組みとしての導入を目指す。

Ashirase 代表取締役CEOの千野渉氏は、「目的地への移動は、GPSを用いたサービスによって済む図になりました。しかし、その後の移動はどうでしょう。複雑な商業施設や地下街といったGPSの届かない屋内における目的地への移動では、人によって多種多様な課題が立ち塞がります」と、現状の課題を説明。「IndoorFlow」の強みをアピールする。

「施設内はあらかじめ360度カメラで撮影され、高精度な空間データとして登録されています。利用時はスマートフォンのカメラが捉えた景色をそのデータと照合することで、 GPSの届かない場所でも現在地を把握することができます」(千野氏)

  • Ashirase 代表取締役CEO 千野渉 氏

    Ashirase 代表取締役CEO 千野渉 氏

「IndoorFlow」が基盤としているのは、位置特定技術「VPS (Visual Positioning System)」だ。360度カメラで撮影したデータから点群情報を生成し、地図化する。市販の約10万円のカメラで10分間に3,000平方メートルを撮影可能で、ビーコン方式と比べて導入・運用を含め約5分の1のコストで実装できるとしている。

  • 位置特定技術「VPS」によって360度カメラのみで地図データを作成できる

    位置特定技術「VPS」によって360度カメラのみで地図データを作成できる

また、スマートフォンのセンサーを用いた歩行推定により、カメラに依存しない位置推定が可能。ビーコン方式の誤差は通常5~10メートル、広い場所では30~50メートルに達するのに対し、IndoorFlowは誤差数メートル以内の精度を95%で実現する。

視覚障害者のみならず、車椅子利用者、ベビーカー利用者、方向感覚に不安がある人、訪日外国人など、それぞれのニーズに応じた経路を提供することを目指しているという。

  • 一度のスキャンで生成されるデータ

    一度のスキャンで生成されるデータ

「IndoorFlow」はすでにApp StoreからiOS対応アプリがダウンロードが可能となっており、iPhoneユーザーはすぐに利用が可能。一方、Android対応アプリは将来的なリリースは想定しているものの、現時点では利用できない。Webアプリ対応の実装は今秋に予定しており、Androidユーザーは当面、そちらを利用することになりそうだ。

三井不動産が目指す日本橋室町エリアの街づくり

続いて三井不動産 日本橋街づくり推進部 グループ長の菊永義人氏が、日本橋再生計画について語った。同グループは、20年以上にわたって日本橋の街づくりを進めてきた。そのコンセプトは「残しながら、蘇らせながら、創っていく」であり、歴史・文化を残し、失われたものを蘇らせながら、新しい時代に必要な機能を創るという考え方に基づいているという。

  • 三井不動産 日本橋街づくり推進部 グループ長 菊永義人 氏

    三井不動産 日本橋街づくり推進部 グループ長 菊永義人 氏

現在は首都高速道路の地下化と日本橋の川沿い5地区の再開発により、「日本橋リバーウォーク」と呼ぶ新たな水辺空間の形成を進めている。同エリアで2027年10月に開業する「東京ミッドタウン日本橋 日本橋野村三井タワー」の5・7階には、「日本橋一丁目中地区MICE施設(仮称)」として2つの大型ホール、12のカンファレンスルームがオープン予定となっており、今後は国際的なカンファレンスの実施も期待されている。

このエリアを「行きたくなる街」にするためには、地上、地下、建物内、水上にまたがるスムーズな移動が重要。「IndoorFlow」は、複数施設にまたがる複雑な移動を支援する手段としてニーズがあると分析している。

地下街でIndoorFlow体験会 ――当事者の生の声も

発表会後には、視覚に障害をお持ちの方が実際に「IndoorFlow」を使って日本橋室町エリアを移動する体験会も行われた。

体験をしてくれたのは、視覚障害当事者としてYouTubeで動画を公開しているあさひさん。これまで、屋外移動ではGoogleマップや「あしらせ」で目的地付近まで到達できても、建物内に入るとレストラン、美容室、店舗などを見つけにくいことが大きな課題だったという。

  • あさひさんは生まれつきの視覚障害があり、視力は0.03だという

    あさひさんは生まれつきの視覚障害があり、視力は0.03だという

音声でIndoorFlowを起動し、カメラで周囲をスキャンして現在地を特定。続いて「千疋屋 日本橋本店」までの移動をアプリに指示すると、ナビゲーションが開始される。

  • IndoorFlowを起動し、空間を認識させる

    IndoorFlowを起動し、空間を認識させる

アプリ画面では地図とAR(※現実の空間に文字や記号などを重ねて表示する技術)が表示され、音声で進行方向や距離をアナウンス。正しい進行方向を向くと、音と振動で通知してくれる。曲がり角にたどり着くと「右(左)折です」と音声が伝えてくれる。

  • ナビゲーション中のマップ画面

    ナビゲーション中のマップ画面

  • ナビゲーション中のAR画面

    ナビゲーション中のAR画面

最初のスキャンを終えた後は、独自の歩行推定技術「PDR (Pedestrian Dead Reckoning)」によって移動を追い続けるため、常にカメラを構えている必要はない。また音声や振動の通知によって、画面を見続けなくても安全に移動できるので、視覚障害がない方でも安全に移動できるというメリットもある。

  • 画面を見続けずとも音声や振動で曲がる箇所などがわかる

    画面を見続けずとも音声や振動で曲がる箇所などがわかる

経路の途中にはエスカレーターもあったが、乗り口のすぐ手前まで音声や振動、AEで誘導してくれるため、スムーズに乗り込むことができていた。

  • 難所となるエスカレーターの乗降もアプリが丁寧にナビ

    難所となるエスカレーターの乗降もアプリが丁寧にナビ

体験を終えたあさひさんは、「こちらのアプリを使えば、屋内で自分が行きたい場所を見つけて、屋外でナビを使うのと同じように目的地にたどり着けるというところが画期的だなと思いました」と語る。

また、「日本橋エリアだけでなく、もっともっといろいろな場所で使えるようになると、わざわざどこで使えるかを調べて行かなくても、アプリを開けばどこでも使える、そうなってくると非常に使いやすいと思いました」と、エリア拡大への期待を述べた。