9月25日、岡山県岡山市にあるアークホテル岡山にて「日生地区海運親睦懇親会」が開催された。第40回の節目を迎えた今回は「南極体験講演会~南極観測基地元越冬隊員が語る、南極体験記~」と題し、株式会社ミサワホーム総合研究所の堀川 秀昭氏が登壇。堀川氏は日本南極地域観測隊の隊員として3度にわたって現地に赴き、自然エネルギー棟の建設や基地の維持・管理、最南端の基地「ドームふじ基地」への内陸旅行に同行するなど、過酷な環境下で多様な業務に従事してきた。

砕氷船の公開映像や南極の実態をはじめ、貴重なエピソードが明かされた同講演会の模様をレポートする。

知られざる南極の世界

今から約70年前に始まった南極観測は、日本では国家事業として実施されている。文部科学大臣を本部長とする南極地域観測統合推進本部の下、多くの省庁や機関がそれぞれの役割を担っている。

  • ミサワホーム総合研究所 堀川 秀昭氏

    ミサワホーム総合研究所 堀川 秀昭氏

日本では1年交代で、昭和基地を拠点に約30名の越冬隊員が参加。現在は、第67次越冬隊の29名が昭和基地で活動している。堀川氏が所属するミサワホームは、1968年から南極観測に携わり、昭和基地には累計37棟、延床面積約6,700㎡の施工実績を誇る。最近も、夏季隊員宿舎の躯体を完成させた。他にも、月での建設を想定し、JAXAおよび国立極地研究所との共同研究によって、極限の環境下における超高性能居住空間「南極移動基地ユニット」を製作。昭和基地で実証実験を続けている。

  • 昭和基地で使われていた防寒着。軽量で暖かい

    昭和基地で使われていた防寒着。軽量で暖かい

南極観測船も、進化を遂げている。1912年に日本人として初めて南極に上陸した白瀬 矗(しらせ のぶ)氏らが乗っていたのは、204トンの木造船「開南丸」。その45年後、南極観測の開始と同時に活躍したのが「宗谷」で、以後、「ふじ」「初代しらせ」「二代目しらせ」と続く。

南極にある昭和基地は、日本から約14,000kmの位置にある。神奈川県の横須賀港を出発し、まずは約2週間かけてオーストラリアを目指す。その後、約3週間から1か月かけて昭和基地に到着する行程だ。物資は1年に一度しか運べず、およそ1,000トンを一気に運搬する。

  • 出発する12月は夏のため、太平洋は天気に恵まれている

    出発する12月は夏のため、太平洋は天気に恵まれている

  • オーストラリアから南極の間は大荒れの暴風圏。通過するまで1週間ほどかかる

    オーストラリアから南極の間は大荒れの暴風圏。通過するまで1週間ほどかかる

  • 段々と海が凍り、流氷域に突入

    段々と海が凍り、流氷域に突入

南極に到着すると、定着氷の状態に。ここでは「ラミング航行」といって、船の先端で氷を砕いて進んでいく。氷にアタックし、200~300メートル後退して、再びアタックする一連の流れを繰り返す。

  • 氷の厚さにより、ラミング航行は何百回から何千回に及ぶことも

    氷の厚さにより、ラミング航行は何百回から何千回に及ぶことも

なお、現在の昭和基地に建てられている建物は、そのほとんどをミサワホームが手がけている。

  • 現在の昭和基地

    現在の昭和基地

昭和基地の平均気温は-10.5℃、過去の最低気温は-45.3℃。南極全体では、過去に-89.2℃を記録したことがあるという。堀川氏は、そんな昭和基地で実験した様子を動画で紹介してくれた。シャボン玉を膨らませると凍っていく過程で美しい結晶が見え、熱湯を上空に撒くと一瞬で凍って「お湯花火」と呼ばれる現象が起きた。

  • お湯花火

    お湯花火

  • 南極ではカップラーメンも凍る

    南極ではカップラーメンも凍る

  • 凍ったバナナで釘が打てる

    凍ったバナナで釘が打てる

ただ、南極では吐く息が白く見えない。「南極は人間活動の影響が著しく少なく、空気が綺麗で微粒子が浮いていないため」と、堀川氏は解説した。その証拠に、排気ガスの近くで息を吐いてみたところ、白く見えた。

一方で、南極の自然の脅威も明かされた。ブリザードが吹き荒れると、視界が白一色となる「ホワイトアウト」が発生する。ブリザードが予想されるときは、あらかじめ建物間をライフロープでつなぎ、やむを得ず外出する際は安全を確保しながら移動するのがルールだ。

このルールができたのは、過去の悲劇が教訓となっている。第4次越冬隊の隊員1名がブリザードの影響で亡くなったと、堀川氏は神妙に語った。以降、ブリザードによる犠牲者は出ていない。

越冬隊員たちの仕事と生活

続いて、一歩間違えれば死に直面する過酷な環境の南極で活動する観測隊の隊員たちの仕事や生活について紹介された。

観測隊は、観測部門と設営部門に分かれる。観測部門は、南極の自然や環境を観測・モニタリング・調査するのが主なミッション。設営部門は、各種観測を支えるため、隊員たちの日常生活をサポートする。調理や医療、電気設備や機械設備など、さまざまなプロが集結している。

隊員たちの努力の甲斐あって、たくさんの成果が生まれている。そのひとつが、オゾンホールの発見だ。

太陽光に含まれる有害な紫外線を吸収するオゾン層は、陸上生物にとって必要不可欠なものだが、南極上空に穴が開いていた。この発見により、フロンガスの回収につながった。堀川氏は「南極を調べれば、過去から現在がわかる。未来の地球環境を予測できる」と力を込めた。

また、食事は「南極での一番の娯楽」とのこと。ラーメンやステーキ、海鮮丼やハンバーガーなど、種類は豊富。食材は、すべて日本国内で調達し、昭和基地に運搬する。

  • わずかなスペースを活用し、野菜を水耕栽培

    わずかなスペースを活用し、野菜を水耕栽培

  • かき氷は日本から持ち込まずとも食べ放題

    かき氷は日本から持ち込まずとも食べ放題

居酒屋や流しそうめんといったレクリエーションの機会もあり、隊員たちは親睦を深めてチームワークを高めながら日々の業務に取り組んでいる。

南極の氷は「タイムカプセル」。100万年前の環境解明に期待がかかる

さらに、南極の氷についても紹介された。白く見えるのは、たくさんの気泡が重なり合っているため。この気泡を「タイムカプセル」と堀川氏は表現した。

南極大陸の氷は分厚く、平均約2,000m、最大約4,800mにも上る。地球上の真水の約70%が南極にあるといわれているほどだ。もし、南極の氷がすべてとけてしまったら、世界の海の高さは約60mも上昇する。

「南極は寒いので、雪がとけずにどんどん積もっていく。そして、重さによって最終的に氷になる。これが『タイムカプセル』といわれる所以。この隙間には、当時の空気が含まれている」(堀川氏)

実際、イタリア・フランスの共同チームが80万年前の氷を掘削し、研究したところ、氷に含まれる二酸化炭素濃度の変化により「10万年周期の氷期/間氷期サイクル」が判明した。

現在、日本は100万年前の氷を掘削している。「100万年前の環境は明確に解明されていないが、当時の空気が含まれている氷にヒントが隠されているかもしれない」と、堀川氏は期待を寄せた。

講演会終盤には、オーロラの映像も流された。南極という、過酷でありながらロマンあふれる未知の世界の一端に触れ、参加者たちは終始真剣に耳を傾けていた。