
グラインドコアの混沌からメロディックなデスメタルへと進化し、極端な音楽の可能性を押し広げてきたカーカス(CARCASS)が9月、東京・豊洲PITと代官山SPACE ODDで再び日本へ。長年バンドの核を担うビル・スティアー(Gt, Vo)とジェフ・ウォーカー(Ba, Vo)に、初期のライブの記憶、現在の演奏哲学、全キャリアを横断するセットリスト、そして次作の可能性まで聞いた。
ーまず、今回の日本公演が決まったときの率直な気持ちを聞かせてください。2024年の来日を含め、これまでの日本公演で特に印象に残っていることはありますか。
ジェフ: そもそも日本に行きたいと言ったのは僕たちのほうなんだ。日本ではいつも最高の時間を過ごせるし、すでに決まっていたツアー先へのルート上に日本があったからね。僕たちは日本に行くのに理由なんて必要ないんだ。これといって特定の出来事を思い出すわけじゃないけど、日本の観客の反応はいつだって最高だよ。
ビル: 2026年にまた日本へ行けると聞いたときは、本当にうれしかった。日本は、バンドとしてだけでなく、観光で訪れるのもいつも楽しみにしている場所なんだ。実際、僕たちのほとんどにとって、一番好きな国かもしれない。国の美しさ、人々の礼儀正しさや節度、伝統と現代が入り混じった独特の魅力が大好きだ。もちろん、食べ物も、日本酒も、ビールも、素晴らしいレコードショップもね……。
前回の来日で印象に残っていることを挙げるなら、やっぱり観客の温かい反応かな。実はライブの前、少し緊張していたんだ。知っている人も多いと思うけど、日本のライブはヨーロッパやアメリカに比べてかなり早い時間に始まるからね。体内時計を合わせるのに少し時間がかかるんだよ。
ーお二人が観客として初めて観たライブは何でしたか。その体験は、その後ステージに立つ自分自身にも影響しましたか。
ジェフ: フラックス・オブ・ピンク・インディアンズというバンドだった。小さな観客の最前列にいて、周りから押されまくっていたから、僕にとってはかなりカオスなライブだったよ。その経験が、その後の自分のパフォーマンスに直接影響したとは思わない。でも、当時からずっとバンドをやりたいと思っていたし、たとえ大勢の観客の前じゃなくても、彼らのようにステージで演奏したいとは思っていたね。
ビル: 初めて観に行ったコンサートは、アイアン・メイデンの『Killers』ツアーだった。サポート・アクトがフランスのトラストだったから、厳密に言えば、僕が初めてステージ上で観たバンドは彼らということになる。初期のメイデンは大好きだけど、あの夜、僕により大きな影響を与えたのはトラストの演奏だったと言わざるを得ない。ものすごく直接的で、本能に訴えかけてくるものがあった。サポート・アクトだったから、いわゆる「ショー」らしい演出は何もなかったんだ。スモークも凝った照明もなく、メイデンの機材の前にセッティングして、ただ全身全霊で演奏していた。彼らのギタリスト、ノノは今でも僕の大好きなロック・ギタリストの一人だ。だから、あの体験はずっと自分のなかに残っていて、ライブで演奏するときの姿勢にも影響していると思う。
ーカーカスとして初めてライブを行ったときのことは覚えていますか。
ビル: たしか1987年、リヴァプールのPlanet Xだったと思う。僕たちは何もわかっていなかった(笑)。結果的に、ちょっとしたカオスになったよ。あの段階では、何一つまともに再現できなかったからね。
ジェフ: もうものすごく昔のことだね! でも鮮明に覚えているよ。リヴァプールのPlanet X Clubだった。とにかく「下を向いて、行くぞ!」という感じだった。きっと相当グチャグチャな演奏だったと思うよ。今では、もう少し「プロフェッショナル」になったと思いたいね(笑)。
ージェフは以前、ジェームズ・”ニップ”・ブラックフォード(Gt)がミスを心配していた際に、「大切なのはミスをするかどうかではなく、そこからどう立て直すかだ」と助言したと話していました。その考え方は、自分自身のライブにも当てはまりますか。
ジェフ: もちろん。誰もミスをしないなんて考えるほうがおかしいよ……とはいえ今は、バッキング・トラックを使って、100%生で演奏しているとは言えないようなバンドもたくさんいるけどね。ライブは実験室で行う実験じゃない。そういう「人間らしい」瞬間があっていいんだ。どうやってバランスを取っているのかって? 酒だね(笑)。
ービルは以前、攻撃的でエクストリームな音楽であっても、そこには独自の美しさがあり得ると話していました。カーカスのライブでは、その激しさとメロディの美しさをどう両立させていますか。
ビル: これは、少なくとも僕にとっては言葉で説明するのが難しい質問だね。でも、エクストリームな音楽が必ずしも醜いものである必要はないと思っている。アプローチの仕方はいくらでもあるからね。僕としては、ドラムとしっかり噛み合って、響きのいい音を鳴らせるようなゾーンに入ろうとしているだけなんだ。

左から、ビル・スティアー(Gt, Vo)、ジェフ・ウォーカー(Ba, Vo)(Photo by Masayuki Noda)
過去を再現するのではなく、今のカーカスとして鳴らす
ー『Reek of Putrefaction』『Symphonies of Sickness』から、『Necroticism – Descanting the Insalubrious』『Heartwork』『Swansong』、そして再始動後の作品まで、カーカスは時代によって音楽性を変化させてきました。ライブでは、時代ごとの質感を残すのか、それとも現在のカーカスとして一つの音にまとめるのでしょうか。
ビル: 間違いなく後者だね。よく言われるように、過去に戻ることはできないから。昔の曲を演奏するときも、パートやリズム、リフについては原曲に忠実であろうとしている。でも、それを弾いているのは、当時とは違う時代、違う場所に生きて、さまざまな経験を重ねてきた人間なんだ。
ジェフ: セット全体に一貫性があって、同じバンドが演奏しているように聴こえるようにはしている。それぞれのアルバムから、ライブで一番うまく機能すると思う曲を選んで、バンドのカタログにあるそれぞれの「時代」を表現するようにしているんだ。僕は、今のセットが少しもバラバラには聴こえないと思っているよ。そこが自分でも気に入っているところなんだ。僕たちが選んで演奏している曲は、全部演奏していて楽しい。そうじゃなければ、わざわざやらないからね。
ー単独公演となると、フェスティバルや複数のバンドによる公演とは、やはり見せられるものが違いますか。セットリストについてはどう考えていますか。
ジェフ: 当然、より長く演奏できるし、曲数も増やせる。それに、こちらでコントロールできることも多い。きちんとサウンドチェックができるし、あるバンドから次のバンドへ切り替えるために、クルーが慌ただしく転換作業をする必要もない。さっきも言ったように、僕たちはカーカスのすべての時代を見せるし、すべてのアルバムから曲を演奏する。エンジン全開の、本物のライブ・ロック・バンドを期待してほしい。ただ惰性で演奏しているようなものにはならないよ。
ビル: フェスティバルは単独のクラブ公演よりセットが短いことが多いから、どうしても観客が期待している曲を中心に演奏することになる。豊洲PITでは、たとえ各作品から1曲だけになったとしても、僕たちのカタログにあるすべてのアルバムをできるだけ網羅したいと思っている。『Torn Arteries』から少なくとも2曲くらい演奏できたらうれしいけど、いつものように、最終的には4人のあいだで折り合いをつけることになるだろうね。
ービルは、ライブでアルバムのギター・パートをどこまで忠実に再現しようとしていますか。それとも、その日の感覚で変化させる余地も残していますか。
ビル: リズム・パートについては、基本的にオリジナルの録音にかなり近い形で演奏している。ただ、当然ながら時間が経つにつれて細かな違いは出てくる。たとえば、あるリフについて、もっと無駄がなく正確な弾き方を見つけることもあるからね。リード・パートについては、もっと自由なアプローチを取っている。メロディ・ラインがある場合はたいていそれに忠実に弾くけど、それ以外はかなり自由だ。毎晩、すべてのソロをまったく同じように弾く人もいるけど、僕はそうじゃない。
そもそも僕が即興を始めたのは、ある意味、必要に迫られてのことだった。同じ曲を長期間にわたって繰り返し演奏していると、あるパートでミスをしてしまって、そのまま音楽を続けるために別の道を瞬時に見つけなければならないことがあったんだ。それに、まったく即興をしなければ、演奏家として前に進んでいる感覚を持つのは難しいと思う。

Photo by Masayuki Noda
ー速く複雑で、身体的な負荷も大きい曲を何年も演奏し続けています。ライブ前の準備やコンディションの整え方は、若い頃から変わりましたか。
ビル: ここ数年で、ある種のルーティンができ始めたと思う。少なくとも、若い頃よりも決まった準備をすることの大切さがわかるようになった。十分な時間と場所があるときは、まず親指と指を使ってゆっくり弾きながら身体を慣らしていく。それで十分にほぐれてから、ピックを使い始めるんだ。
ージェームズ・”ニップ”・ブラックフォードとのツインギターは、共演を重ねるなかでどのように発展してきましたか。
ビル: 彼はバンドにとって素晴らしい存在だよ。演奏するときに、独特のエネルギーと情熱を持ち込んでくれる。僕たちのスタイルの組み合わせは、すごくうまく機能していると思う。いろいろな意味で、彼は僕よりもアグレッシブなギタリストかもしれない。速くてスタッカートの効いたプレイを多く使う傾向があるんだ。いいバランスだと思う。共通する要素もあるけど、ステージを面白く保てるだけの違いもあるからね。
ーブルースや70年代のハードロック、NWOBHMなど、カーカス以外で聴いてきた音楽は、現在の演奏にも表れていますか。
ビル: いい質問だね。答えはイエスだと思う。人は音楽に、自分自身を持ち込むものだから。これまで聴いてきたすべての音楽が、その人の音楽性を形作っている。もし影響源が同じジャンルのアーティストだけなら、そこから新鮮なものが生まれることは、おそらくないだろうね。
ージェフはステージ上で観客に言葉を投げかけることもありますが、観客とのコミュニケーションについてはどのように考えていますか。
ジェフ: 今はむしろ、音楽そのものに語らせたいと思っている。最近の僕たちのセットには、バンドが止まって間が空く場面もあまりないしね。それに僕は日本語がまったく話せない。個人的には、シンガーが長々と観客に話しかけるのはイライラするし、怠慢だと思うし、時間の無駄だと思っている。音楽のコンサートなんだから、講演会じゃないんだよ!
ージェフは『Necroticism – Descanting the Insalubrious』の頃から中心となって歌詞を手がけています。何十年も前に書いた言葉を現在のステージで歌うとき、その意味や自分自身との距離は変わっていますか。
ジェフ: もう、そこまで深く考えていないんだ。完全に筋肉の記憶みたいなものだね。あれだけ歌詞が頭に染み込んでいるのは、ある意味ラッキーだと思う。今では歌詞について、音楽の音符以上に深く考えることはない。ある意味、言葉そのものも一つの音符みたいなものなんじゃないかな。もちろん、言葉には明確な意味があるわけだけどね。

Photo by Masayuki Noda
ー現在は、初期からバンドを追ってきたファンだけでなく、当時をリアルタイムでは知らない新しい世代の観客もライブに来ています。異なる世代が同じ曲に反応する光景を見て、バンドの歴史や”レガシー”を意識することはありますか。
ジェフ: ライブで新しい世代の観客を見るのは、いつだってうれしいよ。そうじゃないと、昔からの観客はどんどん死んでいくからね。文字どおり(笑)。正直なところ、ステージに上がったら、ほとんど何も考えていないんだ。何かに取り憑かれているような感じというか、トランス状態に近いのかもしれない。今では、すべてがある種の自動反応になっている。実際、頭の中で別のことを考え始めた瞬間こそ、ミスをするんだよ。演奏中は考えすぎないほうがいい。自然に出てくるべきなんだと思う。少なくとも、僕にはそれが合っているね。

Photo by Masayuki Noda
ー再結成した当初と現在では、カーカスというバンドに対する感覚も変わりましたか。
ビル: 最初に再結成した頃、バンド内がどういう状況だったのかを知っている人もいると思う。マイケル・アモットとダニエル・アーランドソンは、カーカスでライブをすることには前向きだったけど、新しい音楽を作ることには興味がなかった。ある意味、それも理解できた。彼らにとって、常にアーチ・エネミーが最優先になるはずだったからね。2人が離れたことで、ジェフと僕がアルバム制作に取り組むための扉が開いた。それは僕にとって、とても重要なことだった。昔の「ヒット曲」だけを永遠に演奏し続けることでは、心から満足することはできなかったからね。
だから、『Surgical Steel』や『Torn Arteries』を生み出した再始動後のカーカスは、最初の再結成期とは本質的にかなり違うものだと言っていいと思う。何が僕たちをカーカスとして活動し続けるよう駆り立てているのか、言葉で説明するのは難しい。でも、このバンドを続けられることは、とても光栄なことだと思っている
ー『Torn Arteries』から時間が経ちましたが、次のカーカスの作品について話すことはありますか。
ジェフ: 話は出ているけど、今のところは全部ただの口先だよ。ビルとダンが作ったものは何も聴いていない。……いや、それは嘘だな。ダンが作曲した音楽はいくつか聴いたよ。ただ、カーカスらしくするなら、ウォーカー/スティアーの厳しいチェックを一度通す必要があるだろうね? そのうち何かは起こると思うよ。僕たちは何も急いでいない。
ー最後に、長年カーカスを追い続けてきたファンと、今回初めてライブを観る人に、どんなものを持ち帰ってほしいですか。
ジェフ: 昔からのファンであれ、新しいファンであれ、みんなに満足して、感心して会場を後にしてもらいたいよ。僕たちはもうかなり年季が入っているけど、それでもまだ他のバンドに負けないライブができるってことを見せたいね!
ビル: もちろん、演奏をどう受け取るかは、こちらにはコントロールできない。ただステージに出て、全力を尽くすしかないんだ。驚くほど多くのバンドが事前に録音したバッキング・トラックを使い、クリックに合わせて演奏している今の時代に、僕たちが届けるのは純粋な生演奏だ。良くも悪くもね。当然、すべての人の好みに合うわけではないだろう。でも、僕たちはその姿勢に胸を張っているよ。

Photo by Masayuki Noda
CARCASS Live in TOKYO 2026
9月17日(木)東京・豊洲PIT
9月18日(金)東京・代官山SPACE ODD ※追加公演/SOLD OUT
両公演とも開場18:00/開演19:00
料金:オールスタンディング9,500円(税込・別途ドリンク代)
問い合わせ:クリエイティブマン 03-3499-6669