
まさかのギャラガー兄弟和解を経てツアー開催が電撃発表され、世界中にセンセーションを巻き起こした「Oasis Live 25」。その模様を克明に記録したドキュメンタリー映画『オアシス:ドント・ルック・バック・イン・アンガー』が、いよいよ本日・9月11日に封切られた。その前日、9月10日に109シネマズプレミアム新宿で行なわれた”特別先行応援上映”の模様を、本編のネタバレありでレポートしよう。
上映前から高まる熱気、世代を超えたファンが集結
109シネマズ新宿プレミアムのロビーに入ると、場内はオアシスのTシャツやバケットハットで身を固めた本気のファンで満員。筆者のようなメンバーと同世代の人もまあまあいたが、比率としては20~30代と思われる若いファンが多く、昨年の来日公演を思い出させる熱気がロビーに充満している。設置されたフォトスポットも人気で、上映前から大いに賑わっていた。
”特別先行応援上映”では109シネマズの独自企画として、本編の前に代表的なミュージックビデオ2曲を訳詞付きで上映。大画面で改めて見る「Wonderwall」はメンバーの若々しさがまぶしい。今はバンドに在籍していないドラマー、アラン・ホワイトの姿が懐かしいし、ベースを弾いているのはギグジーではなくて、彼が短期間バンドを離れている間に穴を埋めた助っ人、スコット・マクラウドだ。ノエルのギターや道化師の帽子だけ着色したモノクロの印象的なMVは、1996年のブリット・アワードで”ブリティッシュ・ビデオ・オブ・ザ・イヤー”を受賞した。
「Dont Look Back In Anger」のMVはカリフォルニア州パサディナの、映画やドラマのロケでよく使われるプール付きのヴィラで撮影された。いかにも90年代らしく絢爛豪華な、当時のオアシスを象徴するMVのひとつだ。割とノリノリで演技するノエルとは対照的に、この曲で出番がないリアムは手持ち無沙汰に見える。
※以下、本編のネタバレあり
緊張に包まれたリハーサル
そしていよいよ本編。オアシスの結成から解散までを駆け足でざっと振り返ってから、兄弟がどのように和解したのかという経緯説明がないまま、バンドの再結成とツアー開催が発表された2024年へと時計の針が進む。ノエルがソロ活動を始めた頃の取材で「オアシスは俺の全てだったが、それが終わってしまった」と明言するのを聞いた筆者としては、ここにインサートされる「許す心なんか持っていない」というノエルの言葉が重く響くし、この時点では世界中の誰もが「このツアーは無事に遂行されるのだろうか?」と疑っていたはずだ。恐らくメンバー自身も。
最初のリハーサルは2025年5月。ヒゲをたくわえたノエルが、スタジオにいないリアムの代わりに「俺が歌うしかないか」と「Columbia」を歌うシーンから始まる。ノエルが歌う「Columbia」というだけで古参ファンにはグッとくる場面。新ドラマー、ジョーイ・ワロンカーは手探りな様子だが、もうこの時点でオアシスらしい音圧の、推進力のあるサウンドが鳴っている。
ノエルがアンディ・ベルに向かって「ベースが忙しい」「(フレーズを)はっきり弾いて」と指示を飛ばすシーンも貴重。ベースというパートに対する彼の考え方が具体的に示される貴重なシーンだし、こんな風にノエルがバンドのアレンジをまとめている様子を我々がモロに見るのは初めてではないか。
© Simon Emmett
そして、リハーサルスタジオに初めてリアムが来る日。到着を待つ間の張り詰めた空気が画面からビンビンに伝わってくるし、ノエルは明らかに落ち着きがない。そんなところに、いきなり勢いよく入場してくるリアム。早速、ドラムセットの前に置かれた遮音板を「目ざわりだ」と、どけさせてしまう。何たる俺様ぶり! しかしマイクの前で構えて「Hello」が始まった瞬間、誰もがハッとして息を飲むはず。さすが2022年にソロとして再びネブワースの舞台に立ったリアム、堂々たる歌いっぷりで場の空気を制圧してしまう。きっとこの日に備えて密かに仕上げてきたのだろう。
「Slide Away」の構成についてノエルがリアムに指示を出す場面も、なかなかの緊張感だ。会話の内容は単にギターソロが入るところを確認しているだけのことなのだが、リアムがピリついて素直にうんと言わない。かつてはこんな些細なやり取りから、かんしゃくを起こしてしまうこともよくあったのだろう。そして「Champagne Supernova」で自分のパートを歌い終えるなり、まだ演奏が続いているのにリアムはスタジオから出て行ってしまう。「あいつは楽しんでいたか?」「楽しんでいたと思うよ」というノエルとゲム・アーチャーの会話に、バンドとリアムとの微妙な距離感が表れている。
こうした生々しいやり取りを撮ることができたのは、撮影班がカメラをメンバーの視界に入らないよう隠していたから。しかしリアムは野生の勘で察知したのか、途中でカメラにしっかり気付いている。
ついに迎えた「本当の復活」
そんな調子で始まったリハだったが、リアムの中では確実な変化があった。2000年7月、ウェンブリー・スタジアムでの泥酔ライブは今も語り草だが、それがどれほど恥ずかしい体験だったのかをリアムが正直に語っている。ノエルの前では悟られないようにしていたが、失敗が決して許されないツアーであるという想いはリアムも同じだった。2人ともツアー中は酒もタバコも控えて、最良のコンディションでツアーに臨んでいる。
初期からのファンとしては、「Cigarettes & Alcohol」が流れるシーンで、ノエルがボーンヘッドの重要性について語っているのがうれしい。彼のリズムギターこそがオアシス・サウンドの要で、脱退がどれほど痛手だったかを、ノエルは驚くほど素直に話している。同時に、ムードメーカーとしてのボーンヘッドの役割にも言及。ノエルからステージ上でリアムとの間に立つよう言われたというボーンヘッドが「ギャラガーサンドウィッチ」という名言を発して笑わせるシーンもあるが、そのような難しいポジションをこなせる人材は彼をおいて他にいないのだ。
そして念入りなリハを重ねて迎えたツアー初日、7月4日のカーディフ公演。実は事前の最終リハにリアムが来なかったことが明かされる。いわばぶっつけ本番、イチかバチかやり切るしかない状況で、ザ・ビートルズの「Tomorrow Never Knows」が流れるなかステージへ向かって移動するメンバー……何と象徴的な場面だろう。そしてノエルに注目を。昔からのファンにはよく知られていることだが、彼がステージに出る直前までくわえているのはストローで、これをくわえてハミングすることで声帯をあたためているのだ。
我々が日本で見たのと同じ”This is not a drill.”のオープニング映像、そして序曲の「Fuckin In The Bushes」へ。本当にオアシスが戻ってきた!という興奮が限界まで高まってから、「Hello」で幕を開ける流れには感涙を禁じ得ない。
カメラワークも絶妙で、「Slide Away」ではライブ会場では目視できなかった、ノエルがギターソロを弾く手元までしっかり見せてくれる。そして、夢を現実に変えたオアシスのテーマ曲とも言うべき「Rock 'N' Roll Star」……その高揚感が、待ちに待ったオアシスをついに見た、という観客の興奮とひとつになって爆発する。こんなにも待たれていたのか、とオーディエンスに気付かされたこの日のライブが成功したことで、オアシスは本当に復活を果たしたのだ。

Courtesy of Oasis: Don't Look Back in Anger

Courtesy of Oasis: Don't Look Back in Anger
許し合う兄弟、主役は世界中のファン
7月11日マンチェスター、ヒートンパーク公演の前には、教会で神父が語るシーンがインサートされる。新約聖書の『マタイによる福音書』第18章に出てくる、ペトロがイエスに「兄弟が罪を犯したとき、7回まで赦すべきでしょうか?」と問いかけるくだりだ。兄弟の関係修復を、”赦し”という視点で描こうとするアイディアは面白い。
ヒートンパーク公演では、入場料を払わずに柵を越えて侵入したファンが丘の上に集結。ここで歌われる「Some Might Say」の歌詞が「物悲しくてアイルランドらしい」というノエルの発言が、次のアイルランド公演へとつながる構成もよく練られている。
意外だったのは、アイルランド公演で観客が待っている間に歌い始めた「The Auld Triangle」を聴いて、ノエルが思わず涙した、と語っていること。彼はルーク・ケリーの歌唱をフェイバリットに挙げており、ギャラガー兄弟のルーツとしてアイルランドの音楽も無縁でないことが示される。この頃になると兄弟仲がすっかり良くなってきたようで、リアムがノエルの手をにぎにぎしながらステージに出てくる様子がなんとも微笑ましい。
ここからは、どちらかというと各国のオアシス・ファンが主役。韓国、アルゼンチン、ブラジルなど、オアシスの楽曲がどれほど人々を支えてきたか、というドラマが次々と語られていく。日本のシーンこそ残念ながら含まれていないが、メンバーがまったく知らない間に曲の力がひとり歩きし、歌詞をさまざまに解釈され、オアシス待望の空気を全世界的に高めてきたことが実感できる構成だ。
自分たちの演奏が人々を感動させ、その姿を見ながら涙がこぼれた、とノエルは言う。そしてリアムからは、ファンがバンドを復活させてくれた、という感謝の言葉が。もはやオアシスはメンバーだけのものではなく、ファンを含む大きな共同体になった、とも言えるだろう。オアシスを「俺らを超越したもの、俺らは一部に過ぎない」と言えるほど、リアムも大人になった。

個人的に最も印象的だったのは、ノエルが「わかってなかった」と前置きした上で、オアシスは「右翼的なバンドではない、みんなウェルカムだ」とはっきり明言したこと。イギリスの政治に利用された時期もあったからか、社会的なステートメントから距離を置いてきたノエルが、全世界的に右傾化が進む時代に、自分たちの立ち位置を示してくれたことはあまりにも大きな収穫だ。
また、兄弟仲について、ツアーを共にするうちに「言葉なしにすべてが許された」とノエルは言う。「対等(equals)」という言葉こそが、本作の重要なキーワードと言えまいか。その言葉は、ファンとバンドとの関係にも当てはまりそうだ。
また、ツアー中に急逝した親友、ストーン・ローゼズのマニに捧げて、「Live Forever」を演奏するシーンも忘れ難い。かつて、ニルヴァーナのカート・コバーンの自滅的な傾向に抗う意図で書かれたこの曲は、今では死してもなお、永遠に生き続けるための歌という新たな役割を担うようになったのだ。曲に込められた意味が時代によって変容し、新たな聴き手を得ていく……そんな未来へと通じる道も、本作では示されている。
この回は応援上映の割に合唱が起こる場面は少なかったが、ところどころ啜り泣きが聞こえるほど、ファンの心には響いた様子。通常の上映時には反応が難しいが、今回のような声出しOKの企画では遠慮なく歌ってほしいし、制限が少ない上映の機会を今後も作ってほしいと切に願う。今後の応援上映では2度目、3度目の鑑賞となるファンも増えるだろう。スクリーンの前でどんな大合唱が生まれるのか、今から楽しみだ。

『オアシス:ドント・ルック・バック・イン・アンガー』
2026年9月11日(金)~2週間限定公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
