主演の阿部に目を向けると、大男がエプロン姿で料理、洗濯、掃除などの家事に悪戦苦闘し、娘のママ友に囲まれてポツンと立ち尽くす姿はそれだけでコメディになり得る。さらに「プライドが高く、仕事での自信にあふれ、昭和気質の亭主関白」という和之の設定は共感度が低く、「威張っているが家事・育児すらできない男性を女性視聴者が笑う」という“主婦のガス抜き”的な要素があった。

そんな「仕事はできるけど性格に難アリで共感度が低い男性を女性視聴者が笑う」という図式は同じ阿部寛が主演を務めた『結婚できない男』と同じ。近年、『DCU~手錠を持ったダイバー~』『VIVANT』『キャスター』などTBSの日曜劇場で見せる“ハードボイルドの有能な男”もいいが、“コメディの残念な男”も阿部の真骨頂と言える。

その他のキャストに目を向けると、和之の妻・美紀を演じた篠原涼子は専業主婦から仕事復帰し、やりがいを感じていく姿を生き生きと演じた。篠原は強い女性を演じる機会が多いが、しなやかな女性を自然体で演じた当作も当たり役だろう。

さらに特筆すべきは、地上波でほとんど見かけなくなった宮迫博之と中島知子が準主演クラスで出演していたこと。ホームドラマで芸人2人が準メインの夫婦役を務めるのは何気に珍しく、当時の好感度を物語っている。

和之と美紀の娘・理絵を演じた安藤咲良は現在フリーアナウンサーとして『Oha!4 NEWS LIVE』(日本テレビ系)に出演中。その安藤は同番組で今年1月期放送の『パンチドランクウーマン-脱獄まであと××日-』(日テレ系)主演の篠原涼子にインタビューして話題になった。今後、阿部寛が日テレのドラマで主演を務めたら安藤がインタビュアーを務め、再び『アットホーム・ダッド』が脚光を浴びるのではないか。

それ以外では、子どもたちが通う幼稚園の保育士・倉本冴子(滝沢沙織)と、母親たちのアイドル的な存在であるスポーツクラブのインストラクター・大沢健児(永井大)も愛きょうたっぷりのキャラクター。隠れて交際しながら、主夫や主婦たちの影響を受けていく未婚カップルを演じてアクセントになっていた。

主婦のキャリア再構築と父娘の絆

『アットホーム・ダッド』の魅力は、単に専業主夫や家事・育児をフィーチャーした作品であることに留まらない。

なかでも好評だったのは、専業主婦の社会復帰やキャリア再構築を描いたこと。当時はまだ結婚・出産で退職する女性が多かっただけに、美紀の姿が勇気を与えるような意味合いがあった。ちなみに「結婚・出産後も働き続ける女性が増えた」と言われるのはドラマ終了から約10年が過ぎた10年代中盤ごろと言われている。専業主夫をめぐる描写も、主婦のキャリア再構築も、先見の明があったと言っていいだろう。

もう1つ視聴者の心をつかんだのは、和之と娘・理絵との距離が少しずつ縮まっていく姿。当初は接し方がわからず心の距離があったが、幼稚園の送り迎え、親子スイミング教室、演劇「シンデレラ」の練習、大嫌いな予防接種などのエピソードを通じて父娘の絆が生まれていく様子が感動を誘った。

実は同じ火曜22時台で1期前に放送された『僕と彼女と彼女の生きる道』も「仕事人間の父と幼い娘が距離を縮めていく」という物語だった。『僕』シリーズを筆頭にハートフルな物語を得意としていた当時のカンテレらしい名作だけに、2作連続で一気見して温かい気持ちになるのもいいのではないか。

日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。