
「Everybody Wants to Rule the World」「Shout」「Mad World」など、現在まで歌い継がれる世界的ヒットを生んだ英国のデュオ、ティアーズ・フォー・フィアーズ。その中心人物であるローランド・オーザバルが、40年以上にわたるバンドの歩みと自身の人生を綴った回想録『Welcome to Your Life』を刊行した。
幼少期のトラウマ、盟友カート・スミスとの関係、名声、家族、依存症、そして喪失。オーザバルは自らの出生図を手がかりに、それらの出来事を読み解いていく。同書はニューヨーク・タイムズのハードカバー・ノンフィクション部門で初登場3位を記録した。
担当編集者のキャリー・ソーントンは、初対面の際にオーザバルからホロスコープを作られたという。「一緒に仕事をするなら、私が彼と相性のいい人間なのか確かめたかったのでしょう」。一風変わった「占星術的回想録」を完成させたオーザバルが、成功の裏側にあった喪失と依存、現在のカートとの関係、そして新たな音楽について語った。
―まずは、おめでとうございます。ベストセラー作家になりましたね!
ローランド・オーザバル:ありがとう。最初にこれだけの成功を収められたのは、ティアーズ・フォー・フィアーズのファンのおかげだと思う。でもこれは、単にバンドや僕の人生について書いた本ではない。占星術への入門書でもあるんだ。新聞に載っている星座占いよりも、もう一歩踏み込んで説明しようとした。自分自身を分析し、僕の人生を構成している原理やエネルギー、性質を理解しようとした一冊なんだ。表面的な回想録を書くことは、僕にはできなかった。意識や臨死体験といった、自分が信じているものも伝える必要があったからね。
―長年のファンにとっては、占星術の世界へ導く「トロイの木馬」のような本でもあるわけですね。
オーザバル:そのとおり。先週は『The Astrology Podcast』に出演したんだけど、そこにいるのは普段とはまったく異なる聴衆だった。占星術があらゆる年代に広がる、これほど大きなテーマだとは知らなかったよ。司会者からは、僕の回想録は「個人の回想録版『Cosmos and Psyche』だ」と言ってもらった。占星術と歴史を結びつけた、僕が最も好きな本の一つだ。最高の賛辞だったよ。
―回想録がベストセラーになったロック・ミュージシャンとしては、あなたは珍しいほど表に出ません。サイン会やブックツアーも行いませんでした。なぜでしょう?
オーザバル:かなり早い段階から、私生活や家族を第一にすると決めていた。素晴らしい曲ができて、歌うべきものがあるときが、それを世に出すタイミングだ。そうでないときは、周囲の人たちと向き合い、できる限り快適な人生を築くべきなんだ。僕は名声に飢えたことはない。大切なのは、自分の内なる世界を理解し、それに圧倒されずに済む地点までたどり着くことだ。それに、成功によって人生が楽になったことも一度もない。成功と失敗は同じコインの表裏だから、両方を受け入れなければならないんだ。
―本書の冒頭では、最初の妻キャロラインの認知症とアルコール依存症について克明に書いています。家族の物語を世に出した今、どんな気持ちですか?
オーザバル:書くことができてよかったと思っている。友人や息子たちでさえ、真実を知らないも同然だったからね。キャロラインは友人関係をどんどん狭め、最後には自宅を訪れる人がほとんどいなくなっていた。僕はキャロラインが亡くなる前に、現在の妻であるエミリーと出会っていた。それも説明する必要があった。傍から見れば浮気のように思えるからね。でも、キャロラインとの夫婦としての関係は、その5年前に終わっていた。僕は、アルコールによって自ら命を絶とうとしている人の介護者だったんだ。
アルコールに人生を支配されるまでは、キャロラインは素晴らしい女性だった。でも彼女はステージ4の肝硬変を患い、断酒するか、酒を飲み続けるかという選択肢があることも理解していた。それでも酒を選んだ。生よりも死を選んだんだ。
―その後、あなた自身も大量飲酒や、睡眠薬アンビエンへの危険な依存に陥りました。
オーザバル:キャロラインが亡くなったあと、僕はアンビエンに依存していたせいで、悲しみをきちんと感じられなかった。悲しみの波が腹の底からこみ上げるたびに、薬を飲んで押さえ込んだんだ。やがて服用量は増え、ツアー中には1日100~150ミリグラムを飲んでいた。推奨用量の15倍だ。同じ日のうちに離脱症状と過剰摂取を経験していた。アンビエンと酒で、恐ろしい苦痛を鎮めなければならなかったんだ。それでも何とか、2019年8月に自らリハビリ施設へ入った。最初は非常に過酷だったけど、そこで回復することができた。
―長年、激しく対立することもあったカート・スミスは、本書を最初に読んだ一人でした。現在の関係はいかがですか?
オーザバル:彼は本当によくしてくれている。僕が健康上の問題を抱えたときも、「ツアーより君の健康のほうが大切だ。僕のことは心配しなくていい」と言ってくれた。僕たちは本当に長いあいだ一緒にやってきた。浮き沈みも数えきれないほどあったけど、それでもまだ一緒にいる。2022年の『The Tipping Point』は、僕たちの力が試される作品だった。でも二人で乗り越え、その後も新曲を作り、ツアーを続けてきた。今は何もかも素晴らしいよ。
―10月16日には、1989年のアルバム『The Seeds of Love』のデラックス・エディションがリリースされます。制作費は100万ポンドを超え、完成までに多くの困難がありました。それだけの犠牲を払う価値はありましたか?
オーザバル:間違いなくあった。「Sowing the Seeds of Love」「Woman in Chains」「Badmans Song」を聴くと、「いったい、どうやってこんなものを作ったんだ?」と思うよ。僕たちは「Mad World」や「Pale Shelter」を生み出したバンドだった。それが突然、信じられないような演奏家たちと、壮大なゴスペルやブルースを演奏している。僕たちの歩みを象徴するような作品だ。心から愛しているよ。
―最近、新曲を9曲書いたそうですね。
オーザバル:一曲は「The Boneless Child」というタイトルだ。昨年、エミリーが娘のユーラを妊娠していたとき、検査で女の子だとわかり、僕はうれし涙を流した。妊娠20週の画像を見た技師が、「なんてきれいな背骨でしょう」と言ったんだ。僕は「どうやってこんなことが起きるんだ?」と思った。何もないところから、意思や目的を持ち、すべての臓器が正しい場所に収まった人間が現れるんだからね。それで、〈Though she rose on the tide / We put bones in the child(彼女は潮に乗って現れた/僕らはその子に骨を与えた)〉と書いた。形の定まらない生命に、僕たちが構造を与えていくという曲なんだ。
ユーラが生まれたとき、僕は63歳だった。親としてあとどれほどの時間が残されているのかも考えている。自分の葬儀で流すための曲も書いた。僕がどこへ行くのかを、エミリーとユーラに伝える「Where the Light Never Dies」という曲だ。
―それらはティアーズ・フォー・フィアーズの曲になりますか?
オーザバル:まだわからない。今は一人で作業している。11月にはロサンゼルスのスタジオに戻る予定だ。
―ティアーズ・フォー・フィアーズは、来年6~8月に北米ツアーを行う予定です。この回想録によって、バンドへの関心も再び高まっているのでは?
オーザバル:自分自身をさらけ出し、これまで語られなかった物語を明かすことで、人々は「こんなバンドはほかにいない。ユニークな二人だ」と気づくのだと思う。この本が、僕たちの物語を改めて知ってもらうきっかけになればうれしいね。
―今後も本を書くつもりですか? 音楽と占星術を組み合わせた本などは?
オーザバル:ほかのミュージシャンの人生を、占星術から読み解くことは考えたことがある。例えばミック・ジャガーやマドンナを取り上げれば、獅子座を説明できる。ピーター・ガブリエルの人生を通して、水瓶座を説明することもできるだろう。
―マイケル・ジャクソンも獅子座でしたよね?
オーザバル:乙女座だよ。
―そうでした。でも、あなたは獅子座ですね。遅ればせながら、誕生日おめでとうございます。
オーザバル:どうもありがとう。