
新型NEXO(ネッソ)の試乗会場となったのは、新横浜にある「Hyundai Customer Experience Center 横浜」である。1階には実車も展示できる広いプレゼンテーションルームがあり、ジャーナリストへのブリーフィングは目の前のNEXOを確認しながら行われた。素晴らしかったのは整備エリアを見下ろすように設けられた2階のラウンジである。明るく落ち着いた空間から整備風景を俯瞰でき、販売後のサービスまで含めてブランディングを大切にする姿勢が伝わってきた。
【画像】独自の存在感を生み出すヒョンデ新型NEXO(写真7点)
2026年4月に日本で発売が開始された新型NEXOは、ヒョンデが約30年にわたって開発を続けてきた燃料電池技術を集約した第2世代のFCEVである。走行感覚は静かで滑らかな電気自動車そのものだが、一般的なBEVとは電力の持ち方が異なる。BEVは外部から充電した電気をバッテリーに蓄える仕組みだが、FCEVであるNEXOは高圧タンクの水素と空気中の酸素を燃料電池スタックで反応させ、車内で発電しながらモーターを駆動する。
NEXOは54ℓの高圧水素タンクを3本、計162ℓ搭載し、水素有効搭載量は6.69kg。150kW、350Nmのモーターで前輪を駆動する。今回試乗したVoyageの一充填での想定走行距離は1014kmで、水素の充填時間は約5分。大容量バッテリーを充電するBEVに対し、エネルギー補給に要する時間はガソリン車に近い。
ヒョンデ モビリティ ジャパンのスタッフは、そのポテンシャルを確認するため横浜から門司港まで1002kmを走破し、到着時にも134kmの航続可能距離を残していたという。Ecoモードを選び、エアコンの負荷を抑えた走り方だったとはいえ、これは見事なパフォーマンスである。
もっとも、FCEVで最も気になるのは水素ステーションの利便性である。充填自体は短時間でも、自宅や宿泊先で簡単に充電できるBEVとは違い、水素充填には専用設備まで出向かなければならない。ただしNEXOではGoogleマップと連携したナビゲーションから全国の水素ステーションを専用カテゴリーで検索でき、現在の走行可能距離を考慮して利用できる施設を探せる。長距離移動では帰路の充填場所と営業時間まで確認する必要があるため、この機能の実用的な価値は高い。
車内外で最大1500Wの電力を供給できるV2Lを標準装備し、日本仕様はCHAdeMOにも対応する。外部給電器を介した大容量給電やV2H機器への接続が可能で、停電時には家庭や避難場所へ電力を届ける移動型電源車としても機能する。水素を補充すれば再び発電できることは、FCEVならではの強みである。
NEXOにはLounge+(ラウンジプラス)、Lounge(ラウンジ)、Voyage(ボヤージュ)という3つのグレードがあるが、今回試乗したのはベーシックなVoyageである。本革ではなくファブリックシートを採用し、車両重量は上級グレードより80kg軽い1890kg。走り出すと、その重量を強く意識させない。150kWの出力と350Nmのトルクによって、市街地でも高速道路でも実用上十分以上の加速を得られる。パワーモードを選んでも驚くような加速は味わえなかったが、NEXOはスポーツモデルではない。乗員を静かに、長距離へ疲れにくく運ぶSUVとして考えれば、不足はない。
日本仕様には専用のチューニングが加えられており、よく考えられたサスペンションによる乗り心地は実にしなやかだ。225/55R18タイヤを履くVoyageでは、荒れた舗装路でも硬さが伝わることは少ない。ステアリングの応答は穏やかで、全体に角のない動きを目指しているように感じた。
回生ブレーキの強さは、Lv3、Lv2、Lv1、Lv0の4段階から選択できる。日常的にはLv1が最も自然で、アクセルを戻した際に適度な惰性を残しながら速度を落としてくれる。そして特に優れていたのがAutoモードである。前走車との距離やナビゲーションの道路情報をもとに回生量を変化させ、下り勾配では速度が上がりすぎないように制御する。カーブや交差点などを考慮して減速を早めに始めるため、車が周囲の状況を先読みしているような安心感がある。
また、ナビゲーションベース・スマートクルーズコントロールにはストップ&ゴー機能が備わり、前走車との車間距離を保ちながら追従し、停止まで支援する。回生制御と運転支援を組み合わせることで、単に電力を回収するだけでなく、ペダル操作を減らし、疲労を軽減する機能として活用している。
全長4750mm、全幅1865mm、全高1690mmという比較的大きなボディながら、前方の見切りがよく、最小回転半径は5.5mに抑えられているため、意外なほど扱いやすい。3本の水素タンクは後席下部と荷室床下へ効率的に収められ、センタートンネルのないフラットな後席床と広い室内を実現している。インパネも水平基調ですっきりとまとめられ、素材の選択にも清潔感がある。操作系は過度に画面へ集約されておらず、短時間で理解できた。
エンジン音や変速時の振動がまったくなく、車内の静粛性は高い。Voyageのオーディオは6スピーカー仕様だが、静かな車内では音声や音楽を聞き取りやすく、NEXOが持つ長距離移動時の快適性にもつながっている。なお、Bang & Olufsenの14スピーカー・プレミアムサウンドシステムは、LoungeとLounge+に装備される。
ここしばらくアメリカや韓国を訪れる機会があったが、近年のヒョンデ、そして上級ブランドであるジェネシスを含めた韓国車デザインの先進性には驚かされる。安全性や空力などの条件が厳しくなり、各社の車が似たようなデザインになりがちな中、大きな面をすっきり見せながら、要所に鋭いエッジを与える手法は見事である。NEXOも厚みのあるSUVボディを威圧的な効果として用いるのではなく、特徴的な灯火類やCピラーの処理によって独自の存在感を生み出している。
価格はVoyageが750万円、Loungeが820万円、Lounge+が835万円。燃料電池スタックや高圧水素タンク、V2L/V2H、運転支援機能、充実した快適装備まで考えれば、この価格は高くない。国のCEV補助金に加えて自治体独自の補助を受けられる場合もあり、特に東京都では条件次第で実質負担を大きく下げられる。水素ステーションの数や水素の製造方法など、FCEVを取り巻く課題は依然として残る。それでもNEXOは将来の水素社会を象徴するだけの実験的な車ではない。実走1,000kmとは、平均的な日本家庭の1カ月の動向距離をカバーできる。利用できる水素ステーションが生活圏や移動経路にあるなら、短時間の充填で長距離を走り、必要なときには外部へ電力も供給できる、とても実用的なSUVとなる。
文・写真:堀江史朗(オクタン日本版) Words and Photography: Shiro HORIE (Octane Japan)