ヤングスキニー、しおんと鳴らした最後の一夜、歌の中でしか言えないこと

8月15日、ヤングスキニーがSGC HALL ARIAKEにてワンマンライブ<ヤンスキ大宴会>を開催した。結成6周年の記念公演であり、そのうち5年間をメンバーとして過ごしたしおん(Dr)が脱退前に出演する最後のステージ。祝福と惜別がないまぜになった本公演を彼らは、まさに宴席を囲むように――悪ノリと馬鹿騒ぎの後に、いつもは言えない思いを打ち明けたりしながら――ありのままに過ごした。

【画像】ヤングスキニー、しおんと鳴らした最後の一夜(全9枚)

定刻を迎え客電が落ちると、ステージ後方のビジョンにバンドロゴが浮かび上がる。先陣を切って登場したしおんをオーディエンスが大きな拍手で出迎えて、彼は手を振ってそれに応える。1曲目は「愛鍵」。かやゆー(Vo,Gt)が鋭いコードストロークを放つと、活動初期からの選曲にどよめきに似た歓声が巻き起こった。ブレイクで視線を交わらせる4人。恋愛相手を指すはずの「あなた」という二人称が、この日に限ってはバンドの内側に向けられているように聴こえた。誰もが、これから訪れるであろうハイライトを一瞬たりとも逃さぬよう、その姿を見守る。

Photo by うえむらすばる

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そんな湿度を早々に吹き飛ばしたのは、他でもないしおん自身だった。「始めようぜ!やれんのかよ!」「声出せよ!」と激しく煽り、「ヒモと愛」の幕を開ける。オーディエンスが声とクラップで応えると、ライブは一気に生命を持って動き始めた。ただ見届けるだけではなく、4人とともに良い日を作る。会場全体に宿った主体性を、「8月の夜」がさらなる熱に変えた。青く走るレーザーがパワフルなビートとシンクロして、鮮烈に駆け抜けていく。ラウドロックに出自を持つしおんのドラミングは、どこかに留まり続ける感情を描き出すヤングスキニーの楽曲に推進力を与え、ライブバンドとして躍動させてきたのだ。

この日最初のMCで、かやゆーはゴンザレス(Gt)が履いているショートパンツの極端に短い丈と美脚をいじりつつ、「それがお前なりのしおんの送り出し方ってこと?」と笑う。彼らはこの4人の時間を、純粋に楽しもうとしているようだ。「ヤンスキなりのラブソングを」と披露された「関白宣言」から、しおんとりょうと(Ba)によるセッションを挟んで「ゴミ人間、俺」へ。「今日は上の方まであるけど、見えてるからね」とかやゆーは上階へ視線を送り、ギターソロの間にステージ上手へと大きく身を乗り出す。今年2月に開催された日本武道館公演がかやゆーのスター性をスポットライトの中心に浮かび上がらせるライブだったとすれば、今夜は集まった一人ひとりを文字通り「大宴会」の同じ卓へと招き入れ、乾杯を交わしていくようなライブだ。

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「今日はお祝いですから。全然悲しい日じゃない」。かやゆーがそう語って始まった「本当はね、」にて、しおんはビートの狭間でピースサインをカメラや客席に向けて掲げる。ラストサビでは、「歌えるかい?」という投げかけに応答する形で、客席が歌声を重ねた。身勝手なくらいの片思いの歌が、いつしか何千人もの歌になって、そこに生まれる少し歪な一体感が、ヤングスキニーのライブにある優しさなのだと思う。一方で続く「バンドマンの元彼氏」は、歌が形を変えていくことをセンチメンタルに捉え直した楽曲だ。抑えられた単色の照明の中で、その切なさは増幅していった。

かと思えばかやゆーは、「ビキニがドレスコードのライブをやりたいのよ」と下世話な夢を語り、しおんが「絶対叶えたほうがいいよ」と他人事のように答える。話を振られたりょうとが「恥ずかしいよ」と目を逸らすと、かやゆーが「じゃあ一緒に辞めてもらっていいよ」とキツいジョークを飛ばす。そんな悪ノリすら「ロードスタームービー」「別れ話」の直線的なビートの燃料に変えて、セットリストは進んでいく。

「山梨から出てきた僕にしか歌えない」という「東京」で言葉を口から放つことすら惜しむような繊細な歌声を響かせ、「ベランダ」では客席に降りながらメロディを紡ぐ。さらに「コインランドリー」でハンドクラップとともに徐々にチルで親密な雰囲気を広げていくと、その一体感を温かな大合唱へと変えたのが「三茶物語」だ。順番にメンバーが歌い繋ぐも、しおんが歌詞を飛ばして演奏は中断。さらには客席から一人を舞台上に招き入れ、「歌詞、ミスったら出禁ね」と無茶を言いながらともに歌う。「ライブってこんなに自由にやっていいものでしたっけ?」としおんがこぼした通り、ステージと客席の境界はすっかり溶けていた。

「るっせぇ女」「君の街まで」を軽快に演奏し、各メンバーのソロから雪崩れ込んだ「ハナイチモンメ」、ストリングスを交えて表現世界を拡張する「本音」、曲間の静寂を柔らかく受け止めるように始まった「美談」と、多彩な楽曲が連打される。しおんと歩んだ5年間に獲得したバンドの振り幅を示すように。武道館では弾き語りだった「雪月花」も、この日は4人で披露。しおんの寄り添うようなコーラス、ゴンザレスの情感豊かなギターソロ、りょうとの休符を生かしたプレイ。かやゆーの言葉を3人が受け止め、さらに遠くへ飛ばしていく。ぽっかりと空いた心の隙間に入り込むように「カレーライス」が鳴らされるが、クライマックスの予感によって、否応なしに感傷的なムードが立ち込めていく。

次の曲を歌い始めたかやゆーは、突然3人に、これまでの活動の中での思い出を尋ねる。ゴンザレスは機材車で立ち寄った岡崎サービスエリアで食べた矢場とん、りょうとは4人で出掛けたスノーボード旅行。しおんは少し考えて、「全部が思い出だね」と答えた。かやゆーはその答えを即興で歌詞に織り込みながら歌う。そうして始まったのは、この日リリースされた初のベストアルバム『歌の中だけでしか、本当のことは言えないから』に収録された「あいつバンド辞めるんだってさ」。この4人で制作された最後の楽曲だ。その目には雫が光り、バンドが加わると、しおんも涙を堪えるようにビートへ力を込めていく。

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歌の中だけでしか、本当のことは言えない。だからこそ、この日を境に二度と鳴らされないであろうこの曲に、思いのすべてを隠さず綴った。「バンドやってなきゃ、」というフレーズの後に、思わず言葉を詰まらせるかやゆー。そして、次の曲はそれでも「バンドが好き」と高らかに歌う「精神ロック」。原曲よりも性急に刻まれるビートが、寂しさをも拭い去るかのように突き進んでいく。今日はいくらハシったって構わないと、きっとメンバー自身も感じていたことだろう。

「友達の歌を」と届けられた「愛すべき日々よ」でビジョンに表示された歌詞が、かやゆーとしおんの5年間に重なった。「お前のこと全部わかってるぜ お前の嫌なとこも全部愛してるぜ」。噛み合わないことも少なくなかったであろう4人の歩みが、そんな強がりによって、ハッピーエンドへと向かっていく。一音一音が端正に鳴らされ、しおんが目の前に広がる光景を焼き付けるようにフロアを見つめる中で、舞い上がった紙吹雪がその結末を祝福した。

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本編最後の「誰かを救ってやる暇などないけど」を前に、かやゆーは「僕は変わらずに自分のために歌を書き続けます」と語る。物語が一つの区切りを迎えても、自らの思いを偽らずに歌にし続けるやり方はこれからも変わらない。弾き語りからバンドへと音が広がり、演奏を終えた4人は笑顔でステージを降りた。

アンコールに応えて再登場した4人は憑き物が落ちたような様子で、「もう脱退したし」としおんが言えば、かやゆーが「じゃあこれ残業?」と返す。「らしく」では、しおんの「飛ぼうぜ、有明!」を合図に会場が揺れた。ゴンザレスはドラムセットに駆け寄り、しおんと背中合わせの状態でソロを奏でる。かやゆーは続く「憂鬱とバイト」で歌詞を飛ばして、それに気付いたしおんが思わず笑う。ただスタジオで音を合わせるだけで無敵の気分になれたあの頃のような、無邪気な楽しさが弾けていく。

宴もたけなわとなって、フィナーレを飾ったのは「死ぬまでに俺がやりたいこと」。ジャケットを脱ぎ捨て上裸になったかやゆーがマイクに食らいつき、凄まじい速度のツービートに跨って、4人は残されたエネルギーをすべて放出していく。あっという間に走り抜けて終わったかと思えば、もう一度。かやゆーはギターを置いて、しおんとマイクを共にして叫ぶ。最後の一音に重なったのは、マイクを通さないしおんの「ありがとう!」、そしてかやゆーの「しおん、5年間ありがとう!」という言葉だった。

いつも通りでいようとするほど感情は昂り、本音を口にしようとすれば冗談が先に出る。そんなどこまでも人間臭くて不器用なやりとりが、4人の築いたヤングスキニーそのものだったのだろう。<ヤンスキ大宴会>はそんな5年間を肯定し、宴が明けてもなお続く道のりへ、それぞれを今まで以上に自由な表現者として送り出す一夜だった。

Official HP https://www.yangskinny.com/