• 花火の製造作業をする、よしきさん(左)と飯野さん (C)フジテレビ

    花火の製造作業をする、よしきさん(左)と飯野さん (C)フジテレビ

異業種から転職してきた若者が多い山崎煙火製造所の中でsuisが引かれたのは、花火そのものだけでなく、そこで働く人たちの個性だった。先輩たちにかわいがられるよしきさんを「純粋で、天性の愛され系」と見ながら、柔らかな雰囲気を持つ飯野さんが男性の多い職人の世界へ飛び込んだ勇気に「本当にすごいです」と感心する。

また、数々の受賞歴があり、自分が作りたいものを追い求めるベテラン・廣瀬さんの存在にも「みんなに“流石(さすが)”と言われる存在、かっこいい」とひかれたという。

若手からベテランまで、それぞれ違う人生を歩んできたからこそ、「それぞれの方の生き様があって、思いがあって、それが花火に出るんだなと思いました」と受け止めた。

厳しい職人の関係を見て「私は甘ったれた世界で…」

花火を打ち上げるまでには、火薬の材料の下準備をはじめ、観客には見えない地道な工程が続く。それは華やかなステージや楽曲が世に出るまで、制作を積み重ねるアーティストの仕事にも通じる部分があるようだ。

suisが興味を持ったのは、職人たちがその地道な時間をどう感じているのかということ。「私は裏側の作業が、地道でも全部楽しいと思っているのですが、職人の皆さんもそこは共通しているように見えました」という。

一方、職人の世界ならではの厳しさには、自身との違いを感じた。先輩から注意を受ける若手たちを見て、「私は先輩に怒られるという経験をしたことがないんです」といい、「打たれ弱い性格」のため、活動を始めた頃からマネージャーにも「とにかく私を怒らないでください」と伝えていたのだそう。

それだけに、「私は甘ったれた世界で生きさせてもらっているなとも思いました(笑)」と苦笑いした。

「サンサーラ」を歌って変化したナレーション

suisが『ザ・ノンフィクション』のナレーションを担当するのは約4年半ぶり。経験があった分、前回に比べ緊張感は軽減された一方、読み方一つで登場人物の見え方が変わることに強く意識を向けた。

物語性の強い世界を歌うことと、実在する人の人生を語ることにも違いを感じた。ドキュメンタリーは生身の人を語るため、「歌よりもトゥーマッチになる表現はしないようにしよう」と意識。「皆さんの人生を私が大げさにすることではないので、少しでも寄り添えたら」と心がけた。

この4年半の間には、FODで配信する傑作選『ザ・ノンフィクションMASTERPIECE』で、おなじみのテーマ曲「サンサーラ」を担当。今回のナレーション収録中にこの曲が流れると、「一瞬意識がそっちに行っちゃいそうでした(笑)」と、思わず聞き入ってしまったそうだ。

だが、自ら歌ったことで、メロディーや歌詞の意味をより深く理解しているだけに、「前回のナレーションの時よりも、ずっと『サンサーラ』に対する気持ちが絶対に入っていると思います」というsuis。花火師たちの人生と、それを包む音楽の両方に気持ちを重ねながら、久しぶりの語りに臨んだようだ。

●suis
コンポーザーのn-bunaとともに、2017年から活動するバンド・ヨルシカのボーカル。アルバム『だから僕は音楽を辞めた』『エルマ』『盗作』、音楽画集『幻燈』などを発表し、透明感のある歌声と楽曲に応じて変化する表現力で支持を集める。ヨルシカ以外でも「suis from ヨルシカ」名義などで歌唱活動を展開。25年にはharuka nakamuraとの楽曲「灯星」で映画『この夏の星を見る』の主題歌を担当し、26年にはEve「風のアンセム feat. suis from ヨルシカ」に参加したほか、TVアニメ『猫と竜』オープニングテーマ「猫日」をリリースした。同年、ヨルシカは書簡型小説『二人称』とデジタルアルバム『二人称』を発表し、全国ツアー「LIVE TOUR 2026『一人称』」を開催している。