ジャミロクワイ完全入門──未来のファンクが永遠に古びない理由、はじめに聴くべき名曲5選

この夏、ジャミロクワイ(Jamiroquai)が日本に帰ってくる。25周年にして3日間開催となるサマーソニック2026。ジェイ・ケイ率いる英国の異能集団が、幕張と大阪のステージに立つ。しかも2026年は、彼らの名を世界に知らしめたアルバム『Travelling Without Moving』──「動かずに、旅をする」という逆説めいたタイトルを冠したあの傑作──のリリースから、ちょうど30年の節目にあたる。ファンクとは何か、グルーヴとは何かを、90年代のポップミュージックシーンのど真ん中で鳴らし切ったバンドを迎えるには、これ以上ないタイミングだ。

おそらく、多くの人がジャミロクワイと聞いて思い浮かべるのは、「Virtual Insanity」のミュージックビデオだろう。床がひとりでに動き出し、その上を帽子の男が滑るように舞う──一度見たら忘れられない、あの映像だ。だが、これほど鮮烈なイメージが長く記憶に残り続けているのも、彼らの音楽が持つ確かな奥行きあってこそである。その根にあるのは、ブラックミュージックへの一途な愛と、結成以来変わらぬ飽くなき探求心だ。

フューチャーファンクの誕生

物語は、90年代初頭のロンドンから始まる。当時、クラブシーンではアシッドジャズがひとつのうねりを生んでいた。ブラン・ニュー・ヘヴィーズ、インコグニート、US3といった面々が、往年のジャズファンクをフロア感覚で再解釈していた時代だ。そこに現れたのが、ジェイソン・ケイ──のちのジェイ・ケイだった。彼はバンドを結成し、ジャムセッションのジャム(Jam)と傾倒していた北米先住民イロコイ連邦(Iroquois)を掛け合わせた造語、ジャミロクワイ(Jamiroquai)と命名。ここからもわかるように、ジェイ・ケイは当初から音楽そのものと同じくらい、精神性や自然への畏敬、環境への問題意識を創作の核に据えていた。

ブラン・ニュー・ヘヴィーズのカヴァーを含むデモを制作した彼は、それが認められてアシッド・ジャズ・レコードと契約。1992年にシングル「When You Gonna Learn」を発表する。地球環境や社会への警鐘を鳴らす同曲が反響を呼ぶと、事態は一気に動いた。わずか一曲のインディーシングルの実績で、ソニーとアルバム全8作に及ぶ大型契約を勝ち取ってしまうのだ。そして1993年、ファーストアルバム『Emergency on Planet Earth』をリリース。いきなり全英アルバムチャートで首位を獲得し、ジャミロクワイを一躍シーンの寵児へと押し上げた。アボリジニの民族楽器ディジュリドゥが唸りを上げ、自然破壊や物質主義への怒りが歌われるこのデビュー作は、単なる懐古的なファンクリバイバルではない、明確な思想を持ったバンドの登場を告げるものだった。

彼らの音楽性を語る上で、まず外せないのがそのルーツの深さである。ジェイ・ケイの歌唱とメロディー感覚には、しばしばスティーヴィー・ワンダーの影が指摘される。実際、両者を比較する批評は当時から後を絶たなかった。『Talking Book』や『Innervisions』期のスティーヴィーが持っていた、シリアスな社会性と多幸感あふれるグルーヴの共存。それを90年代の感性で蘇らせたのがジャミロクワイだったと言っていい。

ロイ・エアーズやハービー・ハンコックといったジャズファンクの語彙を血肉としながら、しかしジャミロクワイは決して単なる模倣者にとどまらなかった。生々しいバンドアンサンブルと、現代的でクリーンなプロダクションを両立させ、あくまで「いま鳴っている音楽」として提示したのだ。事実、彼らのスタイルはしばしば「フューチャーファンク」と形容されてきた。過去の遺産を未来へと接続するというその言葉が示す志向性が、ジャミロクワイの一貫した美学である。ジェイ・ケイのしなやかにリズムを縫っていくヴォーカルのフレージングもまた、譜面のうえの正確さよりも身体から自然にこぼれ落ちる高揚を優先させる、まぎれもないブラックミュージックの語法に貫かれていた。

その屋台骨を支えたのが、鉄壁のリズム隊とキーボードだった。とりわけ初期の音を決定づけたのが、ベーシストのスチュアート・ゼンダーだ。スラップと歌心を両立させた彼のうねるようなベースラインは、ジャミロクワイのグルーヴの心臓部そのものだった。そこに、共作者として数々の名曲を生み出したキーボードのトビー・スミス、そして手数と正確さを兼ね備えたドラマーのデリック・マッケンジーが加わる。ジェイ・ケイという強烈な個性を中心に据えつつも、ジャミロクワイはまさしく「バンド」として生演奏でこそ本領を発揮する集団だった。

ライヴでのそのタイトさと熱量は、今日に至るまで彼らの最大の武器であり続けている。百戦錬磨のバンドが一糸乱れぬグルーヴを組み上げ、スタジオ版では端正に畳まれていた楽曲が、生き物のように伸縮しはじめる。ジェイ・ケイが縦横無尽に舞い、広大な会場を一瞬にしてひとつの巨大なダンスフロアへと変えてしまう。ジャミロクワイのステージは聴くものであると同時に、全身で浴びて踊るための祝祭なのだ。

世界を制した『Travelling Without Moving』

1994年のセカンドアルバム『The Return of the Space Cowboy』では、よりジャジーで内省的な深みへと踏み込んだ。「Space Cowboy」は全米ダンスチャートで自身初の首位に立ち、宇宙的・浮遊的なモチーフはこの頃から彼らの世界観の一部となっていく。そして1996年、ジャミロクワイは自らのキャリアの、いや90年代ファンクそのものの金字塔を打ち立てる。サードアルバム『Travelling Without Moving』の登場である。

ジェイ・ケイはこのアルバムで「車、人生、そして愛」という、より普遍的なテーマを掲げた。その象徴が、あの「Virtual Insanity」だ。ジョナサン・グレイザー監督が手がけたミュージックビデオは一時代の映像体験として、人々の脳裏に強烈に焼き付いた。受賞も相次いだ。1997年のMTVビデオ・ミュージック・アワードで最優秀ビデオ賞を含む4冠に輝き、翌1998年にはグラミー賞最優秀ポップパフォーマンス(デュオ/グループ)賞まで獲得。アルバムも全英で2位、全米でも24位に食い込み、彼らのアメリカでの本格ブレイクを決定づけた。結果、『Travelling Without Moving』の総セールスは700万枚を超え、ついに「史上最も売れたファンクアルバム」としてギネス世界記録に刻まれる。華やかなディスコファンク「Cosmic Girl」や洒脱なミッドテンポ「Alright」などのシングルも次々とヒットを重ね、バンドは完全に世界的な存在へと飛躍した。

もっとも、光の裏には常に議論もつきまとった。アルバムジャケットやヴィジュアルで前面に押し出された高級スポーツカーのイメージは、環境保護を掲げてきたジェイ・ケイの姿勢と矛盾するのではないかと、当時のメディアから批判を浴びた。フェラーリを愛し、なおかつ地球環境を憂う男──この二律背反がジェイ・ケイという人物の複雑さであり、彼を単純なメッセージソングの担い手に収まらない、生身の表現者たらしめてもいた。

この時期に見逃せないのが、1998年のシングル「Deeper Underground」だ。同年公開のハリウッド版『GODZILLA』のサウンドトラックに提供された重量級のトラックは、彼らにとって初の全英シングルチャート1位を記録した。それまでの陽性のファンクとは打って変わった、不穏でアグレッシブなグルーヴ。その暗く硬質な手触りは、翌年以降バンドが深めていくより打ち込みに寄った方向性を早くも予感させた。

変わり続ける音、変わることのないグルーヴ

1999年の『Synkronized』は、バンドにとってひとつの転換点となる。サウンドの要だったスチュアート・ゼンダーがレコーディング途上で脱退し、以降ジャミロクワイの音は徐々にハウスやエレクトロニックの色彩を強めていく。このアルバムからは、シングル「Canned Heat」が全英4位のヒットを記録。のちに2004年公開のカルト映画『ナポレオン・ダイナマイト』のクライマックスで使用され、さらに支持を広げることになった。

2001年の『A Funk Odyssey』ではディスコとラテンの要素を大胆に取り入れ、「Little L」「You Give Me Something」といったフロアフレンドリーな楽曲でダンスミュージックへの傾倒をさらに深めた。かつてのアシッドジャズ的な生々しさから、より洗練された煌びやかなダンスポップへ。ジャミロクワイは決して同じ場所にとどまらず、時代とともにその音像を塗り替えていった。まさに「動かずに旅をする」どころか、その歩みは片時も止まらなかったのである。

2005年の『Dynamite』は、攻撃的な「Feels Just Like It Should」と陽だまりのような「Seven Days in Sunny June」を同居させ、円熟を示した。続く2010年の『Rock Dust Light Star』は、原点への回帰だった。長年在籍したソニーを離れた彼らは、よりバンド然とした生演奏の温度感を取り戻す。そうして足場を固めたうえで、2017年の『Automaton』では一転、未知の領域へと針路を向ける。AIやオートメーションを主題に据えたタイトル曲はその思想をフューチャーファンクへと昇華させ、ミュージックビデオでは発光する近未来的な被り物をまとったジェイ・ケイが荒廃した世界をさまよった。テクノロジーと人間性の相克を、ジャミロクワイはいち早く見据えていたのだ。だが皮肉にも同じ2017年、初期の名曲群を共作した盟友トビー・スミスが病により他界。この歩みにひとつの区切りが打たれる。

ジャミロクワイの功績を測るなら、その売上枚数──世界で2600万枚以上とも言われる数字──やブリット・アワードへの通算15度のノミネート、そしてソングライティングに対して贈られたアイヴァー・ノヴェロ賞といった栄誉だけでは、到底足りない。彼らの真価は、「踊れる音楽」を類まれな品格と一貫性で追い求めた点にある。ファンクやソウルの歓びを、使い捨ての流行にも、小手先の様式にも堕さず、妥協なく貫いてきた。そうした享楽の底に地球や社会へのまなざしを──ときに矛盾を抱えながらも──絶やさなかったことも含めて、ジャミロクワイの姿勢はデビューから今日まで揺らいでいない。

そんな彼らの音楽は、後進の世代をも触発してきた。日本でその影響を公言してきた代表格が、Suchmosだ。サマーソニック8月16日の東京公演では、MOUNTAIN STAGEのトリを任されたジャミロクワイの直前に、彼らが立つ。世代を超えた両者が、同じ舞台に並ぶのだ。

このサマーソニックでの9年ぶりの来日が象徴するように、近年のジャミロクワイは目覚ましい活動の再燃期にある。2025年、コロナ禍以降では初となる本格ツアー『The Heels of Steel Tour』でヨーロッパと英国を巡り、12月にはロンドンのO2アリーナを二夜にわたって沸かせた。今年9月には『Rock in Rio』を皮切りにラテンアメリカ各地を回る公演が控えており、新曲の披露もほのめかされている。50代半ばを迎えたジェイ・ケイが、いまなおステージ上で軽やかにスピンし、あの唯一無二のファルセットを響かせているという事実そのものが、ファンクという音楽の不老性を体現しているかのようだ。その姿を、私たちはこの夏、目の当たりにする。

動かずに、旅をする。ジャミロクワイは30年をかけて、この逆説を生きてきた。サウンドを絶えず更新しながら、その芯にあるグルーヴだけは決して手放さない。それだけに、価値観が目まぐるしく移ろう時代にあって、彼らの音はいまなお古びるどころか、むしろ鮮度を増して響く。知性と快楽は、その音楽において対立しない。頭を刺激しながら、同時に身体を突き動かす。そんな両立こそが、ジャミロクワイのマジックにほかならない。

ジャミロクワイ:はじめに聴くべき名曲5選

「Space Cowboy」

セカンドアルバムの表題曲には、初期ジャミロクワイの美質が凝縮されている。ゆったりと揺れるジャジーなグルーヴの上を、ジェイ・ケイのファルセットが紫煙のように立ちのぼる。急がず、力まず、淀みなく流れていくその手触りは、ロイ・エアーズやハービー・ハンコックが耕したジャズファンクの土壌からまっすぐに伸びたものだ。宇宙を漂うイメージは、以後の彼らの世界観を貫くモチーフともなった。派手な仕掛けはなく、無理に主張もしない。だが、何度聴いても飽きがこないのは、芯にある成熟ゆえだろう。全米ダンスチャートを初めて制した事実が語るように、この浮遊感は当時のフロアが求めていた音だった。

「Virtual Insanity」

映像のインパクトで知られる作品だが、楽曲としての完成度もまた図抜けている。翳りを帯びたローズピアノの和音と隙のないリズムが織りなす、洗練の極みのようなグルーヴ。だが、その耳当たりのよさとは裏腹に、ジェイ・ケイが見据えるのはテクノロジーが暴走した先のいびつな未来だ。遺伝子操作、環境の荒廃、痩せていく人間性。そんな重い主題を、これほど滑らかで陶酔を誘う音へと溶かし込む手腕は、シリアスな問題意識と歓びを同居させたスティーヴィー・ワンダーの衣鉢を継ぐものといっていい。踊れることと、考えさせること。その両立を鮮やかに成し遂げた、ジャミロクワイの代表作である。

「Cosmic Girl」

数あるシングルのなかでも、屈指のきらめきを放つディスコファンクだ。軽やかに転がるビートと、天を突き抜けるようなメロディーが、聴く者を一息に高みへと運ぶ。歌われるのは、つかまえどころのない女性への無邪気な憧れ。肩肘張ったところは一切なく、ただ日々のくすみを吹き飛ばす痛快さだけがある。スペインの荒野を高級車で駆け抜けるミュージックビデオも、その弾けるような気分を鮮烈に焼きつけた。車と自由と恋──ジェイ・ケイが愛してやまないモチーフが、余さず溶け合っている。華やかでありながら、少しも品位を損なわない。踊るための音楽の、理想形のひとつがここにある。

「Canned Heat」

『Synkronized』を象徴する、高揚感の塊のようなナンバー。ハウスへと舵を切ったこの時期らしく、四つ打ちのビートが終始フロアを煽り立てる。ジェイ・ケイの伸びやかな歌声と、跳ねるようなシンセベースが絡み合い、身体が勝手に動き出す。そんな享楽的なサウンドに反して、安酒を指す俗語をタイトルに冠した曲が描くのは、ままならない日々や心ない言葉をひたすら踊ることで振り払おうとする衝動だ。沈んだ気分すら燃料に変えてしまう勢いが、何よりの魅力。映画『ナポレオン・ダイナマイト』の名高いダンスシーンの印象も手伝ってか、聴き終えたあとに残るのは混じり気のない多幸感だけだ。

「Little L」

『A Funk Odyssey』の先行シングルにして、ディスコへと大きく踏み込んだ時期を体現する一曲。ジェイ・ケイがわずか25分で書いたと語るとおり、飾りのないカッティングギターと弾むビートが自然と体を揺らす。思わず口ずさみたくなるサビの親しみやすさも格別だ。だが、軽快な装いの奥ではすれ違いに終わった恋の苦さが歌われている。暗い胸のうちを、涼しげな歌声でさらりと乗りこなしてみせる──そんな両者の落差こそが、この曲の妙味だ。ブラックミュージックの快楽を現代的なポップスの精度で磨き上げる手際は、ここでも冴えわたる。いつまでも古びないのは、その底知れなさにあるのだろう。

SUMMER SONIC 2026

2026年8月14日(金)・15日(土)・16日(日)

東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ

大阪会場:万博記念公園

※ジャミロクワイは8月14日(土)大阪会場、16日(日)東京会場に出演

公式サイト:https://www.summersonic.com/

チケット購入:https://www.summersonic.com/

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ジャミロクワイ/Jamiroquai「SUMMER SONIC 2026」予習用セットリスト

再生:https://umj.lnk.to/JamiroquaiSS26

国内盤アナログ(2枚組)完全生産限定盤 3タイトル

1st アルバム『Emergency On Planet Earth|ジャミロクワイ』

・帯・解説(柳樂光隆)・歌詞・対訳付

購入:https://JamiroquaiJP.lnk.to/JamiroquaiLP

2nd アルバム『The Return Of The Space Cowboy|スペース・カウボーイの逆襲』

・帯・解説(林剛)・歌詞・対訳付

購入:https://Jamiro.lnk.to/TheReturnoftheSpaceCowboyLP

3rd アルバム『Travelling Without Moving|トラベリング・ウィズアウト・ムーヴィング』

・帯・解説(高橋芳朗)・歌詞・対訳付

購入:https://jamiroquaijp.lnk.to/TravellingWithoutMovingLP

Jamiroquai POP-UP STORE JAPAN

2026年8月6日(木)~8月17日(月)ラフォーレ原宿5F MAKETHESTAGE

営業時間:11:00~20:00

入場無料・自由入場(混雑時は整理券を配布する場合があります)

販売商品:オリジナルアパレル/クッション/マルチクロス/グラス/その他オリジナルグッズ

詳細:https://www.laforet.ne.jp/shop_search/shop472