
7月26日(日)、フジロック3日目に出演したアンジーヌ・ド・ポワトリーヌ(Angine de Poitrine)。今回は彼らの国内盤レコード『Vol.1』『Vol.2』のライナーノーツを執筆し、さらにnoteでも彼らについての詳細な記事を書いたDr.ファンクシッテルーによるライブレポートをお届けする。
超異例、FIELD OF HEAVENが入場規制に
2026年、もっとも有名になったバンドの座はアンジーヌ・ド・ポワトリーヌで間違いないだろう。彼らは2026年2月6日に公開されたKEXPのライブ動画がバイラルヒットとなり、爆発的にネットで拡散された。デイヴ・グロールが絶賛、ジャック・ホワイトの前座に抜擢、ガーディアン紙が大型特集を掲載するという話題性。SNSでも毎日彼らについての投稿が飛び交い、そのポルカドットの奇妙なマスクと衣装、地球の言葉が喋れない333歳の宇宙人だというストーリー、マイクロトーナル(微分音)が鳴らせる改造ダブルネックギター&ベース、そして変拍子とルーパーを駆使した異次元のマスロックに、まさに今世界中が熱狂しているのだ。
2025年のモントリオール国際ジャズ・フェスティバルでは約2000人規模のステージで演奏していた彼らが、翌2026年に同フェスに再出演して集めた観客は約7万5千~10万人、もしかしたらそれ以上とも言われている。この話からも彼らの知名度、話題性がいかに短期間で急増したかが伺えるだろう。
その話題性にいち早く反応したのがフジロックだった。2026年4月3日に発表された第2弾の出演者発表に、アンジーヌ・ド・ポワトリーヌの名前があったのだ。このライブは彼らにとって初来日、そしてアジア初の重要な公演になる。バイラルになってからわずか2カ月での発表、改めてフジロックのブッキングの底力を感じる出来事だった。アンジーヌ・ド・ポワトリーヌはフジロック公式からも今年のダークホースと紹介され、出演が発表されると、SNSはその話題で持ちきりになった。
当初、アンジーヌ・ド・ポワトリーヌは日曜の11時半、RED MARQUEEでの出演と発表されていたが、直前になって19時からFIELD OF HEAVENの出演へと変更になった。これはゴーゴー・ペンギンが出演不可となったため、空いた枠にアンジーヌ・ド・ポワトリーヌが滑り込んだ形である。時間帯が遅くなったこと、野外ステージになったことは、マスクの下で暑さと戦っている彼らにとっても願ったり叶ったりではなかっただろうか。

そして、当日。苗場はあいにく一日中雨だった。アンジーヌ・ド・ポワトリーヌの前の出演は、ジャズファンクバンドのザ・ブレイクス。この時点で、私は最前列の近辺まで進んでいた。そしてザ・ブレイクスの演奏が終わった瞬間──いきなり、後ろから強くグッと押された。みんな、前へ前へと詰めかけている! 誰も他のステージへ移動しない。あたりを見渡すと、遥か後方まで人で埋め尽くされていた。
通常、FIELD OF HEAVENでこんなことはまず起こらない。本来はゆったりと観れるステージなのだ。しかし、あまりにアンジーヌ・ド・ポワトリーヌの注目度が高すぎたために、FIELD OF HEAVENのキャパは限界を迎えた。そしてほどなく入場規制がかかったのである。これもFIELD OF HEAVENでは非常に珍しい出来事だろう。
待っている間に周りを見渡すと、最前列の近辺は、ポルカドットの服を着たり、そういったアイテムを身に着けているファンがかなり多かった。興味があったので少し話を聞かせていただいたところ、なんと手作りで服やアイテムに丸シールを貼ってポルカドットにしているという方がいた。素晴らしいDIY精神である。
ちなみに今回の来日スタッフ(@e.t.rex)のInstagramストーリーには、ライブ後に面白い動画が投稿されていた。それは無地のドラムをポルカドットにしている作業風景で、FIELD OF HEAVENのバックヤードでスタッフがDWの真っ黒いドラムに白い丸シールをペタペタと貼り付けていたのである。というわけで、このシールを貼るというやり方は公式も採用しており、手作りポルカドットは大正解だったのだ。
また、今回はFIELD OF HEAVENのステージ後方に、ポルカドットの大きな垂れ幕が掲げられた。これはアンジーヌ・ド・ポワトリーヌのライブでは定番なのだが、FIELD OF HEAVENのシンボルでもあるステージ後方の巨大なドリームキャッチャーを隠してしまうというのは、フジロック的にはかなり珍しいことだったのかもしれない。
公演開始15分ほど前。なんと、一切撮影禁止という厳重な体制で、サウンドチェックの時間が設けられた。そこで起こったことを記すことは残念ながらできないのだが、一切公開されていない彼らのサウンドチェックを目撃できたというのは、配信ではなく現地に到達できたファンに与えられたご褒美だったと言えるだろう。
脅威的グルーヴと宇宙的ユーモアの共存
そして19時。いよいよ、彼らの初来日公演がスタートする。ステージに登場する、ギター&ベースのクン、ドラムのクレックの2人。
演奏が始まる直前、FIELD OF HEAVENの司会者、ジョージ・ウィリアムズがステージに出てきてこう叫んだ。「伝説のライブになる可能性ありますね!」そう、その通り。そして、それは可能性ではなく、ここまで来たら必然だ。
クンとクレックが彼らのシンボルである、ピラミッドの三角形を手で作り、宇宙人的なガラガラボイスで「アンジーヌ・ド・ポワトリーヌ!」と叫ぶ。そして、それに応えて三角形を手で作る大勢の観客たち。これまでずっと海外のライブで行われてきた儀式が、ついに日本で、苗場で行われた。
@anginedepoitrineofficiel Angine de Poitrine、フジロックでの宇宙的ライブ(バンド公式映像)
1曲目は「Angor」。この曲は4分音符×12個をワンループとしてルーパーで回し、それを4/4拍子が3回、3/4拍子が4回の両方に聴こえるように演奏していく曲だ。クンがルーパーで音を重ねていき、新しいリフが追加されるたびに大きな歓声が上がる。
ここで驚いたのは、クレックのドラムの音とグルーヴだ。クレックは非常に力強くドラムを叩いており、そのサウンドはとても生々しい。宇宙人も生命体だということなのだろう。アルバムで聴ける一切ブレのない、機械的な印象のドラムとは異なり、目の前で鳴らされるクレックのビートは生命そのものだった。今そこで、生のドラムを叩いてグルーヴを生み出しているのがありありと伝わってくる。これは実際のライブを体験しないと分からなかったことである。
ふと、頭を叩かれる。振り返ったら、大きなサイコロが頭にぶつかってきていた。よく見ると、複数のサイコロが客席を飛び交っている。これも彼らのライブでは定番の景色であり、苗場でそれが再現されているのが嬉しかった。
2曲目は「Yor Zarad」。イントロのギターを弾いている間に、クレックが「フジロック!」と叫んだ。地球の言葉を喋れないはずの彼らの、粋なサービスである。そしてクンがマイクロトーナルのギターリフを弾き始めた。この曲は7/8拍子を基本として、4小節目で「ダッダッダ」というキメが入る。このループをラストまで継続させながら、16分音符3つ取り、4/4拍子などを混ぜ込んで観客の頭を激しく混乱させる構成になっている。彼らの中でもおそらくもっとも複雑なリズムの曲だ。
こちらもアルバムの録音よりも、クレックのドラムの疾走感が素晴らしく、その生のグルーヴに圧倒された。しかもループしたリフに当てはめるように変拍子を叩いている、といった感じは全くなく、クレックは常に彼のビートを生み出している。それがクンの音と溶け合い、バンドとして鳴り響いている光景は胸に迫るものがあった。
ラスト、複数のリズムが重なりながら4/4拍子に収束していき、観客はヘッドバンギングをしながら大きな歓声を上げる。この複数のリズムが重なっている瞬間の緊張感も凄かった。
私は曲の構成を知っているから、今リズム的に何が起こっているかが理屈で分かっている。それでも、耳が、脳が、身体が混乱し、解放を求めて張り詰めていく。そして4/4拍子になった瞬間、あまりの興奮に叫んでしまう。コード進行におけるドミナントモーションのような緊張と解放の動きが、リズムで起こっているのだ。この緊張と解放による快感も、アルバムより圧倒的にリアルに感じられた。
3曲目は「Tamebsz」。この曲は全体的に4/4拍子で、リズム的にはシンプルだ。非西洋のエキゾチックなマイクロトーナルのリフと、西洋的でモーダルなマイクロトーナルのリフが混在していく曲である。この非西洋と西洋のアプローチが混ざり合っていくのが、彼らの音楽性の根幹のひとつとなっている。
終盤にギターのリフをループさせながら、クンとクレックが屈伸して「ガー」「アー」「イー」「ヨバディ、ヨバディ、ヨバディ」のような謎の宇宙語を叫ぶ、というパートがライブで新しく追加されていた。もちろん言葉の意味は分からないが、マスクの目や三角形がビカビカ光りながら屈伸をしている姿は非常にユーモラスだった。所々に挟み込まれるこういったユーモアが、音楽的にはシリアスである彼らのライブをより面白くしてくれている。
4曲目は「Mata Zyklek」。5/4拍子の曲なのだが、ドラムが4/4+1/4のように感じさせるアクセントで叩くことで、変拍子なのに4/4拍子的な踊りやすいビートになっている。途中で手拍子が入ったり、リフが変わるたびに大きな歓声が起こったり、バンドが叫ぶパートでは観客も一緒になって叫ぶなど、ライブならではの一体感もこの曲には多く含まれていた。
この曲もクレックがパワフルに叩いており、彼らがロックバンドであることを強く感じさせる。そしてクンの弾くリフもアルバムと同じではあるものの、よりリズム的に細部にうねりが感じられ、ライブ感があった。彼らのライブはミスをしないようにリフやドラムパターンを正確に順番に並べていく、という側面はもちろんあるのだろうが、実際に見て感じたのはそれよりも、彼ら自身が演奏や楽曲そのものをとても楽しんでいる、ということだ。そして、今生まれているグルーヴとリズムを思う存分味わっている。ルーパーでの演奏はともすれば作業のようになってもおかしくないのだが、彼らのミュージシャンとしての本能がそうさせないのだろう。
「アリガト!」現場でしか体感できない「生の快感」
5曲目は「Ababa Hotel」。全体的に7/8拍子で、彼らの中ではアドリブ要素が多い曲だ。この曲のクレックのドラムもアルバムではファンキーに感じられたが、ライブでは非常にロックだった。パターンは同じなのだが、サウンドや叩き方がロックなので、グルーヴ的にはファンクではない。ここでも彼らがロックバンドであるという実感があった。
途中から7/8拍子のベースをループさせたまま、クンがギターソロを弾く。クレックもそれに合わせて自由なフレーズを組み立てていく。彼らはもともと2人で即興演奏を長く行ってきたと語られているため、本来はこのようなプレイも得意としている。ラストはドラムが7/8拍子から、4/4拍子×3回+2/4拍子に変化する。ここも頭が混乱するパートで、7/8と4/4が同時進行するリズムに脳が引き裂かれそうになる。
6曲目は「Sarniezz」。冒頭で、クンが手で「Y」と「O」を空中に描き、マスクの長い鼻をはじいて「Yo」と叫ぶ。そして耳に手をやって、観客にも「Yo」を言わせた。クレックも指でピースを作って「Yo」と叫ぶ。これは伏線で、「Sarniezz」の曲の最初には「Yo!」と叫ぶパートがあるのだ。それを経たことで、無事に会場に「Yo!」の大合唱が響き渡る。
この曲は12/8拍子でスタートするが、途中でドラムが4/4拍子になることで、そこから一気に踊れるような構造になっている。これぞマスロックだ。
そしてラストは前半でループさせたリフを「途中から鳴らして繰り返す」というとんでもない構成になっている。つまりリフが途中から鳴ることで全く違うリズムとフレーズに聴こえ、それに新しいリフを重ねて終わらせていくのである。この構成も何度もアルバムで聴いてはいたが、ライブで聴くとより頭が混乱する。そして、その混乱が快感を連れてくるのである。
7曲目は「Fabienk」。彼らの一番のヒット曲である。イントロのマイクロトーナルのギターリフをループさせた後、おもむろにクンは片足をダブルネックギター&ベースの間に差し込み、クレックは片足を高く上げて、二人でマスクの隙間からストローを差し入れて水を飲む。またもユーモラスな瞬間だ。そこから姿勢を正し、間髪入れずに叩き込まれるユニゾンのベース&ドラムが最高にクールだった。
この曲も7/8拍子のリフと、ドラムの4/4拍子×3回+2/4拍子が同時に進行していく。このドラムはもともとかなりファンキーなのだが、ライブではさらにそれにドライブ感も足されていて非常に心地よかった。
最後の曲は「Sherpa」。この曲はバイラルになったKEXPの動画でも最後の曲であり、彼らのクロージングの定番曲だ。演奏が始まる前にクレックが「アリガト!」と叫んだ。またも粋なサービスである。そしてイントロのギターをループさせ、彼らがお互いを「クン・ド・ポワトリーヌ!」「クレック」とメンバー紹介した。
この曲は4/4拍子なのだが、ギターのリフが8分音符3つ取りになっているためにまた頭が混乱してくる。特にラスト、8分音符3つ取りのリフをどんどん重ねていき、ドラムがそれに合わせていくパートは複雑極まりない。ここだけ照明も真っ赤になり、FIELD OF HEAVENが一変して地獄のような世界になっていた。
曲がすべて終わると、2人でまた三角形を作り合い、客席に向いて「アンジーヌ・ド・ポワトリーヌ」と叫んで、ステージも終了となった。巻き起こる大歓声。
もしかしたらフジロックの配信で流れた映像は、YouTubeで観れる他国でのライブ映像と何も変わらないように見えたかもしれない。だが苗場で感じた力強いビート、緊張と解放のループによる快感、そして随所に見られたユーモアから得られる癒しは、彼らの目の前にいないと決して体感できないものだった。断言したい。彼らこそ、もっとも生でライブを観るべきバンドであると。次の来日も非常に楽しみである。
Angine de Poitrine
Klekが「アリガト」って言った!!! pic.twitter.com/M1xIQoJjsO — Dr.ファンクシッテルー (@DrFunkshitteru) July 26, 2026

アンジーヌ・ド・ポワトリーヌ
『VOL.1』『VOL.2』帯・解説付き国内仕様LP
2026年8月5日リリース
解説:Dr.ファンクシッテルー
