“お笑い芸人のネタを見る方法”といえばテレビをはじめ、現在はYouTubeやSNSの普及により、スマートフォンで楽しむ人も多い。それでも芸人にとって欠かせない存在であり続けているのが「劇場」だ。
開演前の劇場では、スタッフが慌ただしく準備を進め、芸人たちは舞台袖で出番を待つ。観客の目には映らないが、一つのお笑いライブは多くの人の仕事によって支えられている。今回は神保町よしもと漫才劇場にて、劇場スタッフ、支配人、ライブに出演するゼロカラン、金魚番長に話を聞くことができた。
神保町よしもと漫才劇場は2020年1月にオープンした、東京吉本の若手お笑い芸人の拠点のひとつ。座席数は126席。現在、神保町よしもと漫才劇場には、芸歴8年目以下の「翔」(かける)メンバーが所属している。
「一緒に笑いを作り上げる」音響スタッフの仕事とは?
はじめに技術スタッフに話を聞いた。音響を担当する女性は、今年で6年目。ライブ中のSE(効果音)、M(曲)の音出しなどを担当している。もともと学生時代によしもとの劇場でアルバイトをしており、就職活動の際に、あらためて新卒で入社したという。
「お芝居が好きで、映像技術などを学ぶ専門学校にも通いました。ただ、こちらの業界で仕事をしてみると、現場でしか学べないこともたくさんあるということに気が付きました」と女性。
現場で求められる能力については「やっぱりコミュニケーション能力」と語る。同じ部署のスタッフ間で連携するだけでなく、違う会社のスタッフとも調整が必要になる仕事です。またリハーサルでは芸人さんと『どのタイミングで何の音源を出したいか』『どのくらいの音量か』などを、直接やり取りしています」と話す。
「これまで、本番で失敗しそうになったことは?」と聞くと、
「お笑いのライブってアドリブの部分も多いんです。芸人さんは会場の雰囲気、ノリをみてボケを変えたり、新しいボケを増やしたりします。そこにイチ早く気付かないとネタが成り立たなくなってしまいます。
あとは芸人さんが本番でセリフを飛ばす可能性もありますね。音響スタッフは、ボケる、照明が変わるといった『きっかけ』が書き込んである台本をもとに音を並べて待っているんですが、芸人さんがセリフを飛ばしたときは、慌てて音の順番を入れ替えます。『ここの段落が飛んだから、次のこの音をスタンバイしておこう』という感じで、スタッフの間にも緊張が走りますね(笑)」。
それでも、本番で間違った音を出してしまったこともあるという。「そんなとき、芸人さんが笑いに変えてくれて『助かった』と思うこともしばしばあります。普段からしっかりと信頼関係を築いておくことが大事ですね」と女性。
やりがいを感じる瞬間は何だろうか?「芸人さんがつくるネタ、コーナーを音響で盛り上げることができたとき、そしてお客さんが笑ってくれたとき、裏方としても充実感があります。芸人さんがアドリブでボケたときに、そこに乗っかって音を出して笑いを増幅できたときも『一緒に笑いをつくることができた』という気がして、とても嬉しいですね」。
この道25年のベテラン舞台監督が語る、仕事への思い
舞台監督の方にも話を聞いた。「この仕事は30代から始めていますので、経歴はもう25年目に入りました」と話す。もともとは役者志望で地方から上京してきたが、30代の頃に舞台の運営スタッフの仕事を手伝い始めたという。
「神保町は若手の劇場ということで、たとえば『こんな笑いがやりたい』なんて思いがあっても、うまく表現できない芸人も多いんです。そんなときは台本を見て『これだったらセリフはこうした方が伝わりやすいかな』とか、『明かりはここで先に落ちていた方が良いかも』なんてアドバイスをおくることもあります。
こっちとしても、毎日、若い感性に刺激を受けています。25年もやってきましたが、演者と一緒に舞台を作っている、という感覚はいまも変わりません」と落ち着いたトーンで話す。
「どんな人が舞台監督に向いているのだろう?」そんな問いかけには
「舞台監督は、演者、運営スタッフ、みんなと話しながら雰囲気をつくっていくのも仕事のうちです。人と分け隔てなく話せる人が向いていますね。こちらから積極的に話しかけることで、向こうからも話しかけてもらえるでしょう。これは芸人が舞台上で何を表現したいのか、その思いを引き出すことにもつながります」
と話してくれた。




