
昨年のカトパコに続くアルゼンチンの大器、トレノ(Trueno)がフジロックで初来日を果たす。ブエノスアイレスのフリースタイル・シーンから頭角を現し、2021年のファンキー楽曲「DANCE CRIP」で世界的に飛躍。ゴリラズとのコラボレーションを経て発表された最新アルバム『TURR4ZO』は、自身のルーツと向き合いながら母国の音楽史を編み直すスケールの大きな一作となった。スペイン語ヒップホップの可能性を更新し続ける彼の音楽哲学とは?
ストリート発だけど、エレガントに
―今回の『TURR4ZO』は、これまでで最も没入感のあるアルバムだと感じました。それは最初から狙っていたことだったのでしょうか?
トレノ:エル・グインチョ(ロザリアやFKAツイッグスとの仕事で知られるスペインのプロデューサー)を迎えたことが大きかったと思う。このアルバムは、これまでの全作品を一緒に作ってきたTatoolと制作したんだけど、そこにエル・グインチョを加えたのは、新しいことを学び、自分たちを進化させるためだった。最初のソングライティング・キャンプで、まずはこの作品が進むべき道筋を考え始めたんだ。今回はどんな手法を使うのか。作品全体を貫く軸やメッセージは何なのか。僕はみんなに、「ヒップホップとラテン音楽を融合させたい」と伝えた。そして今回は、サンプリングを中心に据えることにしたんだ。
―「X UNAS LLANTAS」では、これまで聴いたことのないような融合に挑戦していますね。タンゴのサンプリングとドミニカ共和国由来のグルーヴが組み合わさっています。
トレノ:あれは今回作った中で最もカリブ色の強い曲だね。アストル・ピアソラのタンゴをサンプリングしているし、さらにチャケーニョ・パラベシーノ(アルゼンチンを代表する民族音楽家)のチャカレーラのフレーズも入っている。そこにはものすごく濃密な文化が詰まっているんだ。そしてその上に乗るのが、マンボとメレンゲ、そしてデンボウの中間のようなカリブのビートなんだよ。
―「GRILLZ」の終盤を聴いていると、まるで映画の中に入り込んだような気分になりました。こうした映画的な作品にしようという意識はあったのでしょうか?
トレノ:新しいアルバムに取りかかるたびに、自分に問いかけるんだ。「今回は制作のどの部分に集中したいんだろう?」ってね。1作目『Atrevido』(2020年)は、とにかく曲を書けるようになることが目標だった。『BIEN O MAL』(2022年)では、もっと上手く歌えるようになること、そして楽曲をより音楽的なものにすること。『EL ÚLTIMO BAILE』(2024年)ではヒップホップ文化そのものを研究した。そして今回は、ビート制作にもっと深く関わり、自分自身もプロダクションに積極的に参加することを目指したんだ。
―エル・グインチョから学んだことはありましたか?
トレノ:彼のすごいところは、単なるプロデューサーじゃなくて、自身がアーティストでもあること。僕が歌っていると、「そのヴァースは書き直したほうがいい」「もっと直接的な表現にしたほうがいい」といった提案をしてくれる。試行錯誤の連続だったよ。このアルバム全体が、まるで三頭政治みたいなものだった。まったく異なる三つのビジョンが卓球のラリーみたいに行き交いながら作られていったんだ。だから『TURR4ZO』には、あんな奇妙で予測不能なエネルギーが宿っているんだと思う。
―このアルバムは、荒々しくストリート感の強いラップと、洗練されたオーケストレーションとの対比が印象的です。そうした衝突に惹かれる理由は何なのでしょうか?
トレノ:まさにそれがコンセプトだったんだ。「ストリート発だけど、エレガントに仕上げる」。完成された芸術作品に、あえて雑然としたものをぶつける感覚だね。オープニング曲の「CON EL COMBO」では、サンドロ(「ラテン・アメリカのエルヴィス」とも呼ばれた歌手)の「Fácil de Olvidar」をサンプリングした。あの曲は完璧なんだ。ミケランジェロの作品みたいなものだよ。そこに僕たちは、荒削りなフロウと攻撃的なライムを持ち込んで介入した。今回選んだサンプルには、どれも歴史と個性がある。ロックンロールからフォーク、クラシックまで幅広いし、背景にはノスタルジックな響きを生むピアノも置いている。僕たちはストリートを新たな格式のレベルへ引き上げた。そして同時に、その格式をストリートへ引きずり下ろしたんだ。
Photo by Agustín Gómez
アルゼンチン新世代の躍動
―特に印象的だったのは、昨年の名曲「Gil」に続いてマイロ・J(Milo J)と共演した新曲「PUMAS」です。マイロ・Jについて教えてください。
トレノ:彼は弟みたいな存在で、僕も面倒を見ている。基本的に同じアーティストと何度もコラボすることはあまりないんだけど、彼とは1年足らずの間に2曲も作った。僕たちは似ている部分もあるけれど、同時に違うところもある。彼はどちらかといえばシンガーで、僕はラッパー。彼は厳粛で内省的な側面を持ち込むし、僕はもっと闘争的な空気を保つ。だけど、根底にある理想や価値観は共通しているんだ。
―マイロ・Jはまだ19歳ですよね。一方であなたは24歳にしてすでに4枚のアルバムを発表しています。若くして成功することは、あなたたちの世代の特徴だと思いますか?
トレノ:僕たちは二人とも音楽に囲まれて育ったんだと思う。アルゼンチンでは、音楽はサッカーみたいなものなんだ。生まれたときから空気中に漂っている。しかも、それはこれからさらに強まっていくと思う。昔はもっと大変だった。検閲もあったし、音楽業界は閉鎖的だったし、ラッパーになるなんて普通のこととは見なされていなかったからね。今は新しい世代が育ってきている。彼らは僕自身が受けてきた影響だけでなく、僕たちがアルゼンチンのアーバン・ミュージック・シーンで築いてきたものにも影響を受けながら成長している。これからとてつもない才能を持った、本物の怪物たちが現れると思うよ。扉は大きく開かれている。
マイロ・Jによる「Tiny Desk Concert」パフォーマンス
―若くして活躍するアーティストは、年長世代に臆せず手を伸ばしますよね。あなた自身もそうで、『TURR4ZO』にはアンドレス・カラマロやルベン・ラダといった重鎮も参加しています。
トレノ:僕が他ジャンルのアーティストとコラボすることに驚く人は多い。でも僕はこれまでにLos Fabulosos CadillacsやSerú Giránとも同じステージに立ってきた。その距離の近さには本当に感謝しているよ。昔はそれぞれの音楽スタイルが別々のコミュニティに属していた。ロックはロック、クンビアはクンビア、ラップはラップという感じでね。でも僕にはさまざまな領域へ踏み込み、ヒップホップの外側にいる人たちを招き入れて、新しい結びつきを作る機会が与えられた。このアルバムにはトラップもあればカンドンベもある。フォークもロックンロールもある。そういうことはヒップホップにとって本当に良いことだと思う。
―アルバムの感情的な頂点は「RAIN IV」だと思います。母親と父親、それぞれに語りかける曲ですね。あの曲を書くことはカタルシスになりましたか?
トレノ:両親との関係について、あそこまで直接的な曲を書く必要性を感じたのは初めてだった。当初は別々の2曲だったんだけど、それなら1曲にまとめたほうが面白いんじゃないかと思ったんだ。父との関係と母との関係は、本当にまったく違う。父は人生を生き抜くための闘いを象徴する存在であり、母はひたすら穏やかさそのものなんだ。
―Instagramのフォロワーは900万人以上。あなたは今や世界で最も人気のあるラテン・アーティストの一人です。そんな中で、どうやって心の平穏を保っているのでしょうか?
トレノ:自分自身の芸術的な野心と折り合いをつけられるようになったんだ。スタジアムがソールドアウトになるのは大好きだし、ワールドツアーが40公演にも及んで世界中を回れるのも素晴らしいと思う。その一方で、オフの時間をもっと上手く管理しようと努力している。アルゼンチンで休みを取るときは、できるだけシンプルな生活に戻るんだ。恋人や家族と過ごし、友人たちとサッカーをして、一緒にアサード(アルゼンチン式バーベキュー)を囲む。本当に、それだけなんだよ。でも、それだけで十分なんだ。ちゃんとバッテリーを充電できるからね。
【関連記事】
Truenoとは何者か? ラテン・ヒップホップの次章を担うアルゼンチンの大器を徹底解説
Trueno『TURR4ZO』徹底解説 アルゼンチン最重要ラッパー、ルーツへの誇りを体現した「俺たち」のヒップホップ
From Rolling Stone US.

Trueno
『TURR4ZO』
配信中
再生・購入:https://TruenoJP.lnk.to/TURR4ZORS
FUJI ROCK FESTIVAL '26
2026年7月24日(金)〜26日(日)新潟・苗場スキー場
※トレノは7月25日(土)出演
