
Bongjeingan(ボンジェインガン)──強引に日本語訳するなら「縫製人間」になるだろうか──の奇妙ながらも見事なまでに息の揃ったセッションには、プログレッシブ・ロックが辿るはずだった幾つかの未来のうちの一つを幻視してしまうほどの可能性が秘められている。
「韓国インディー界のスーパーバンド」とも称されるBongjeingan。それぞれチ・ユネ(Ba, Vo)はSultan of the DiscoとParasolで、イム・ヒョンジェ(Gt)はHYUKOHで、チョン・イルジュン(Dr)はチャン・ギハと顔たちで数年来活躍していた彼らは、パンデミックの時期に仲を深め、2022年よりバンドを始動させた。翌年発表のフル・アルバム『12 Languages』を一聴すれば、彼らが穏やかな歌とハイテンポなセッションを往復する性急な展開を驚異的な精度で実現していることがわかるだろう。バトルスやブラック・ミディのように、マスロックの方法論をオルタナティブなアイデアへと昇華させるバンド群のような野心を、彼らは結成間もない頃から会得しているのだ。
さらに、その破壊力はライブになると増幅。仁川ペンタポート・ロック・フェスティバルやAsian Pop Festivalといった韓国国内の音楽フェスにおいては欠かすことのできない存在へと急成長すると共に、一昨年に続いて今夏のフジロックにも出演を予定するなど、本邦のインディー音楽リスナーからも支持を集め始めている。
今回はペンタポート・フェスのプレイベントとして開催された「PENTAPORT TAKEOFF: TOKYO 2026」に合わせて来日していたBongjeinganの3人をキャッチ。その独特なアンサンブルの由来を聞くと共に、音楽愛溢れる3人に気になる疑問を四方八方から投げかけてみた。
上から時計回り:チ・ユネ(Ba, Vo)、イム・ヒョンジェ(Gt)、チョン・イルジュン(Dr)
Bongjeinganの音楽は「深夜の限定メニュー」
―3人はどのようにして集まったのでしょうか?
チ・ユネ:きっかけはパンデミックでした。当時使っていたスタジオが一緒で、みんな暇だったので自然と集まるようになったんですよ。「バンドやろうぜ!」みたいな意気込みがあったわけではなく、友達として遊び、セッションをするようになり、それがいつしか曲作りへと変わっていったんです。
イム・ヒョンジェ:そうそう。当時は本当にやることがなかったし、個人的にも精神的に混乱していた時期だったので、とにかくセッションに没頭したかったんです。それに周りの人たちが何もしてないのを見て、ちょっと腹が立ったというか(笑)。
チョン・イルジュン:僕は「いつか3人でやるんだろうな」って確信していました。
―なぜですか?
チョン・イルジュン:……フィーリング。
チ・ユネ:おぉー。
―最高ですね(笑)。3人で集まった時から今のような音楽性なんですか? それとも何か重要なきっかけがあったのでしょうか?
チ・ユネ: 重要なきっかけ……重要なきっかけがなきゃできないような音楽ですかね?(笑)
チョン・イルジュン: そんなこと、考えたこともなかったな。
―というのも、今のBongjeinganは遊びの延長線上にある緩いセッションに終始することなく、キメや変拍子を多用する曲を演奏しているじゃないですか。それが不思議なんです。
チ・ユネ:なるほど。最初は緩いセッションだったんですけど、次第に一つの曲のような展開のある演奏が増えていったんですよ。というのも、一つのセッションを30分以上続けて、その録音から「これ面白くない?」というパートを見つけて繋げるという手法を初期のタイミングで選択したんですよね。そうなると、今度はセッションの最中からお互いの面白がるポイントを表現するようになるんです。それを他のメンバーが追いかけることによって曲の形が変わり、いつしか今の曲が完成しました。
―全くの偶然から生まれた曲もあるのでしょうか?
チ・ユネ:全部そうです(笑)。誰かが曲を作ってメンバーで編曲するというようなことはなくて、その場で生まれた瞬間的なフレーズを起点にして曲を作るんです。
―信じられない(笑)。例えば、Bongjeinganの音楽にハッシュタグ(#)をつけるなら、どんな言葉が適していると思いますか?
イム・ヒョンジェ:んー、刺激的な言葉は似合わないとは思います。
チ・ユネ:そもそも、ハッシュタグって最近使わなくない?
イム・ヒョンジェ:確かに、使った記憶がない(笑)。
―そうですね……Bongjeinganを料理に喩えたらどんなメニューになると思います?
イム・ヒョンジェ:「他では出会えない」とか「ここでしか味わえない」みたいな……。
チ・ユネ:限定メニューみたいなものですかね?
チョン・イルジュン:おまかせだよ、おまかせ。
チ・ユネ:そうかも(笑)。食べる人のことを考えていない、深夜の1〜2時にしか食べられない、おまかせの限定メニュー。
―なるほど(笑)。お互いがホームとなるようなバンドで活動しているからこそBongjeinganでは好きなことを追求できている、という面はあるのでしょうか?
チ・ユネ:いえ、感覚としては全く反対です。Bongjeinganが僕のホームで、だからこそ好きなことができるんです。

3人の音楽ルーツ「バッハは神、ザッパは聖者」
―ヒョンジェさんは以前のインタビューで「ブラック・サバスが好き」と仰っていましたが、そのようなヘヴィな音楽が好きなこととBongjeinganでの活動は繋がっていると思いますか?
イム・ヒョンジェ:えぇ、現在進行形で影響を受けています。昔からヘラやザック・ヒルのソロが大好きで、HYUKOHとして積極的に活動をしていた時期も一人でずっと聴いていたんです。
―なるほど、非常に納得です。例えばブラック・ミディや彼らに影響を与えたキング・クリムゾンのようなプログレッシブ・ロックからの影響はいかがでしょうか?
イム・ヒョンジェ:大好きです。ブラック・ミディの初期のアルバムは何度も聴きましたし、キング・クリムゾンも最近聴き返して以前の自分が気づかなかったような面を発見したりしました。
―イルジュンさんのチャン・ギハと顔たち、ユネさんのSultan of the Disco/Parasolのように、ダンスミュージックからの影響を取り入れたバンドのプレイヤーであることとBongjeinganとの間には関係があると思いますか?
チョン・イルジュン:僕は元々の活動より、2人から受け取った影響の方がBongjeinganには活きていると思います。
チ・ユネ:僕の場合は全く影響を受けていないと思います、ゼロです。
イム・ヒョンジェ:ゼロ(笑)。
チ・ユネ:Sultan of the Discoはソングライターからの影響が大きかったので、僕はプレイヤーとして参加しているような感覚なんです。むしろBongjeinganでは、元々やってみたかったようなロックバンドにソングライターとして関われているんですよね。
―3人全員が好きなバンドはいるのでしょうか?
チ・ユネ:(通訳が着ていたディアフーフのTシャツを指差す)
―おぉ、ディアフーフ?
チ・ユネ:最高、全部大好き。僕の人生においてはビートルズと同じくらいの存在です。最近のインタビューでも、メンバー間で「バンドとは何か?」ということについて今も議論していると話していて。音楽を作るプロセスと結果が両方とも面白いし、ジョン(・ディートリック)がふとベースを弾くようなタイミングもあったりして、とてもワクワクします。
それに、ディアフーフはパートが流動的ですよね。僕らも以前の単独公演ではヒョンジェがベースを弾いて僕がギターを弾きながら歌ったこともありますし、そういったアイデアに対して正直な面も好きなんです。
チョン・イルジュン:ドラマーとしても、グレッグ(・ソーニア)の典型的ではないプレイには憧れます。
イム・ヒョンジェ:個人的には、ディアフーフのギター・アレンジが好きなんです。お互いがリード・ギターのように振る舞うパートがあって、そういうところから良いアイデアを得ているような気がします。
―では、それぞれ好きなプレイヤーはいますか?
イム・ヒョンジェ:最近、フランク・ザッパを聴き返して「あぁ、この人は本当に上手いな」って感動しました。あとはバッハ、ずっと僕のアイドルなんです。マイ・ジーザス。
チョン・イルジュン:バッハは神だよね。
イム・ヒョンジェ:マジでそう。バッハは神、ザッパは聖者(Bach is God, Zappa is Saint.)。ザッパはバッハの言葉を代弁してるだけ。
一同:(笑)。
チ・ユネ: 僕はブリーダーズばかり聴いています。ドラマを観ていたら「Off You」がかかって、そこからハマったんです。キム・ディールは僕の母と一歳しか違わないのに、本当にクールなんです。
チョン・イルジュン:影響を受けたのは元スリップノットのエロイ・カサグランデですね。おかげで、最近はツインペダルの練習ばかりしています。
2度目のフジロックへ「勝手に楽しんで、やりたいことをやる」
―今回の来日のきっかけとなった仁川ペンタポート・ロック・フェスティバルや先日出演したAsian Pop Festivalをはじめ、Bongjeinganは韓国の音楽フェスティバルで積極的にパフォーマンスを行っています。様々なリスナーが入り乱れるこのようなフェスにおいて、自分たちの音楽はどのように受け止められていると思いますか?
チ・ユネ:面白く聴いてくれているようではあります。Bongjeinganにおいて、僕たちはリスナーがどう受け止めているかを深く考えながら演奏しているわけではないんです。勝手に楽しんでるし、僕らもやりたいことをやってるだけ。お客さんもそのためにチケットを買っているような気がします。だから「飛べ!」とか「踊れ!」とはライブ中に言わないんです、一緒に一つのことをやっているわけではないので。
イム・ヒョンジェ:特に、ユネはその考えが根底にあるとは思います。その精神がバンドに埋め込まれているというか。
―Asian Pop Festivalでのライブで、複雑なリズムや構成の楽曲でお客さんがサークルモッシュなどで異様に盛り上がっていたのが印象的でした。どこの会場でもあのようなテンションなのでしょうか?
イム・ヒョンジェ:そうですね、どこに行ってもあんな感じです。それはフェス文化というより、むしろ社会の個人化の方が要因としては大きいと思います。みんな自由に踊っていますし、上の世代もそれをバカにはしません。
それに、韓国国内での音楽フェスが多くなることによって、フェスごとの年齢層が以前よりも分かれたような気がしています。あるところは20〜30代が多くて、またあるところは30〜40代もいるな、みたいな。Asian Pop Festivalは若いお客さんが多かったので楽しみ方も若かったですね、当日のファッションでもそれは感じました。
Bongjeingan、ZAZEN BOYSをランダムに再生してるみたいなプログレ具合なのにめちゃくちゃ踊れる
そしてお客さんのノリが良い、当たり前のようにダンス上手すぎ https://t.co/ANbI81Jyv7 pic.twitter.com/5SChqKoxVW — しろみけさん / 風間一慶 (@nemnem0141) May 30, 2026 Asian Pop Festival 2026にて、筆者(風間一慶)撮影
―Asian Pop Festivalの会場ではフジロックのTシャツを着ている方も多かったです。韓国の音楽ファンにとって、フジロックはどのようなイベントなのでしょうか?
イム・ヒョンジェ:フェス好きなら「あぁ、行ってみたいな」って一度は思うようなイベントですね。
―Bongjeinganは2024年に初出場しましたが、当時の心境はいかがでしたか?
チ・ユネ: あの時は到着してすぐに苗場食堂へ向かい、ライブの後にすぐ帰ってたので、僕に限れば「フジロックに行った」とは言えません(笑)。HYUKOHとBalming Tigerで出演した(*チョン・イルジュンはBalming Tigerのサポートドラムとして昨年のフジロックに出演)二人の方が詳しいんじゃない?
イム・ヒョンジェ:霧が凄かった……(笑)。あとは暗かったですね、韓国のフェスはどこも明るいのでとても新鮮でした。
チョン・イルジュン:Balming Tigerの時はスコールが凄かったです、とにかく雨!
―今年もBongjeinganは出演予定ですが、その他に気になるアクトはいますか?
チョン・イルジュン:アンジーヌ・ド・ポワトリーヌ(Angine de Poitrine)ですね、あとはmaya ongakuも。
チ・ユネ: そう、このあと会いに行くんですよ。
イム・ヒョンジェ:(ラインナップを見ながら)ミツキ、アメリカン・フットボール、never young beach、ターンスタイル、あと期待しているのは……。
チ・ユネ:Bongjeingan?(笑)でもポスターにいない……あ、ここにいた。2日目の真ん中に入れてもらってるよ。
イム・ヒョンジェ:ヘッドライナーみたいだね。
チ・ユネ:あ、RED MARQUEEのHYUKOHは観たいかも。
イム・ヒョンジェ:ハハッ、観に来てね(笑)。
フジロック'24出演時のライブ映像
FUJI ROCK FESTIVAL '26
2026年7月24日(金)〜26日(日)新潟・苗場スキー場
※Bongjeinganは7月25日(土)19:50- ORANGE ECHOに出演

