ルーフ全開で自然吸気エンジンを堪能する|ポルシェ911 GT3 S/Cをドイツでいち早く試乗

「911 GT3 S/C(スポーツカブリオレ)」は、自動開閉式のコンバーチブルルーフを備えた初のGT3モデル。その国際試乗会が、シュトゥットガルトにあるポルシェ本社から約90km南下した山脈地帯シュウェービッシェ・アルプで行われた。

【画像】珠玉の4リッターユニットを搭載したポルシェ911 GT3 S/Cは992史上最高に楽しいモデル!(写真22点)

試乗会当日のプレゼンテーションの場で、GTモデルライン(911)のプロジェクトマネジャーであるヨルグ・ユンガー氏は、このモデルを開発した経緯をこのように話した。

「2019年に991をベースとした『911スピードスター』を発表しました。GT3の技術とオープンカーの要素を融合させた初のモデルでしたが、限定生産車でありルーフの開閉機構も手動式のものでした。2023年には、軽量化のためのあらゆる要素を盛り込み、私たちがこれまでつくった中で最も軽量な992である『911 S/T』を発表しました。そして、現行のラインアップには『911 GT3 ツーリング』があります。そこで私たちは、これらの技術やアイデアを融合させ、新しい解釈を導き出そうと試みました。その結果生まれたのが、この『911 GT3 S/C』なのです」

実はこのGT3のカブリオレモデルをつくる構想は通常とは異なるプロセスによって実現化されたものという。ユンガー氏は続ける。

「ご想像の通り、アイデアを持つことと、それを実現することは別問題です。取締役会や経営陣を説得し、プロジェクトの承認と新型車開発のための予算を獲得しなければなりません。通常は、ごく初期の段階ではスタイリングのレンダリング画像などをつかって取締役会にかけます。しかし、それらはデザイン上の提案に過ぎません。そこで私たちは、”秘密裏に”別のアプローチをとることにしました。実物のプロトタイプを製作したのです。そのプロトタイプを取締役会に見せたところ、説得はずっと容易になりました。彼らは早い段階で予算を承認し、プロジェクトにゴーサインが出ました。そして我々は『911 GT3 S/C』の開発をスタートさせることができたのです」

車名がGT3 S/Cである理由は、先述のように単なるGT3のカブリオレバージョンではなく、S/Tのコンポーネントを多く活用していることに由来する。したがって相関性をもたせるためにS/Cとネーミングされたそうだ。

とにかく軽くすることに注力している。S/T譲りのドアやフロントフェンダー、フロントリッド、そしてアンチロールバーやサブフレーム(シアープレート)もカーボン製。ホイールはマグネシウム製でセンターロック式。ブレーキはPCCB(カーボンセラミック)だ。ホイールで約9kg、PCCBで約20kg、またバッテリーを小型のリチウムイオンにすることで約4kgの軽量化を実現。2シーターのみ、6速MT(PDK比で約17kg軽量)のみというシンプルな構成で車両重量は1497kgと現行の911カブリオレシリーズのなかで最軽量となっている。

車内に乗り込もうとドアハンドルに目をやると、電動ポップアップ式ではなくオーソドックスなプルハンドルになっている。これはドアがカーボン製ゆえのものでS/Tと同様だ。

992.2になり、カレラシリーズなどはエンジンの始動は一般的なスタート/ストップボタン式もなったが、GT3にはかつてのキーシリンダーをまわすようなノブをひねる作法が受け継がれている。

クラッチを踏み、ノブをひねると最高回転数9000rpm、最高出力510PS、最大トルク450Nmを発揮する自然吸気の4リッター6気筒水平対向エンジンが目をさます。ショートファイナルドライブレシオを採用する6 速マニュアルのGTスポーツトランスミッションを1速に入れて、そっとクラッチをミートするとアクセルを入れずともゆっくりと走り出す。

チタン製コンロッドや鍛造ピストンなどを用いたレーシングカー直系のエンジンながら、市街地を3速や4速1000〜1500回転あたりで流すことができるフレキシブルさをもちあわせている。ドイツの一般道は市街地エリアをのぞけば、基本的に制限速度は100km/h。運転のうまい地元の多くの人達は+αのスピードで走っている。目の前がひらけるとドライブモードをノーマルからスポーツに切り替え、1速シフトダウンしてアクセルペダルに力を込めてみる。4000回転を超えたあたりから音がかわり、そして9000回転まで一気に吹け上がる。

自然吸気エンジンながらのスムーズなフィーリング、そして風と共に体を包み込むエグゾーストノートがなによりも気持ちがいい。屋根がないということが楽しさを増殖させている。途中、スコールにみまわれてルーフを閉じる場面があった。走行中でも50km/h以下であれば約12秒で開閉が可能で電動式のありがたみを知る。マグネシウム製のリブを用いた軽量構造のファブリックルーフは、雨音も風切り音もしっかりと遮断してくれる。そこで気になったのはあたりまえのことだが、ルーフを閉じていると音がこもってオープンのときほど気持ちよさを感じられなかったこと。

とおり雨がやむと、ふたたびルーフを開け放つ。今回の試乗会は911のしかもGT3モデルであるにもかかわらず、サーキットもなし、高速道路もなし、ひたすら約270kmカントリーサイドの道を駆け巡るものだった。その心は、この車はルーフ全開で楽しんでほしい、ということだと気づいた。

ひとつ気になるのが、この自然吸気エンジンがこれからも存続できるのかということ。今年の11月には新規制のユーロ7が施行されるという話もあり、大排気量自然吸気エンジンが生き残っていくのはどんどん難しくなっていく。ユンガー氏にそれについて尋ねると、少し曇った表情でこう答えてくれた。

「ユーロ7に関しては最終決定が先送りにされているため、まだ確実なことはわかりません。今後、2~3年後にどうなるのかを正確に把握することは非常に難しい状況にあります。いずれ導入されることは間違いありませんし、我々もそれに備えなければなりません。補足するならば、ユーロ7に適合する自然吸気エンジンをつくることは可能です。ただし、いまのエモーショナルな魅力を維持することは難しい。それでも自然吸気を維持することに意味があるのか、それとも全く別のコンセプトを考案すべきなのか、検討する必要があります」

これが最後の自然吸気エンジンになるのかそれはわからない。いま言えるのは、この4リッターは珠玉のユニットであり、GT3 S/Cは992史上最高に楽しいモデルということだ。

文:藤野太一 写真:ポルシェ

Words: Taichi FUJINO Photography: Porsche