
”音速の貴公子”といえば、マクラーレン・ホンダ体制のF1で一時代を築いたアイルトン・セナである。そんなセナの元愛車、真っ赤なホンダNSXがRMサザビーズの「ザ・ロンドン・オークション2026」に登場する。オークション開催日は10月31日。
今回出品されるシャシーナンバー「JHMNA11500T000233」は、フォーミュラレッドのボディに黒ルーフを組み合わせた1台。ホンダ・オートモービル・デ・ポルトガルによって輸入され、1991年3月22日に「SX-25-59」のナンバーで登録された。エンジンサプライヤーであったホンダとのパートナーシップの一環として、セナに提供されたものだった。リスボンのホンダディーラーで保管され、セナがポルトガル(欧州GPシーズン中の拠点)に滞在するたびに届けられていたという。
この個体は、ドキュメンタリー映画『Ayrton Senna: Racing Is In My Blood』(Amazonで探せるようだ)にも登場し、セナがクラッチをつなぎホイールスピンさせるシーンが収録された。そして何より有名なのが、ジーンズにシャツ姿のセナが当該NSXにホースで水をかけている写真だろう。
セナは当該車両を約3年間使用した後、1993年、走行距離2万8,000マイルの時点でホンダへ返却している。つまりこのNSXは、セナの「所有物」というより、正確には「貸与車」だったというのが実態に近い。余談だが、セナはブラジルの自宅にも黒色のNSXを保有していたことが知られている。
フォーミュラレッドのNSXはホンダに返却された後、複数の所有者の元を転々とし、やがてポルトガル・アルガルヴェ地方の自動車販売業者「MSCAR Comércio de Automóveis SA」が当該車両を買い取った。そして、約8万ポンドという販売価格で店頭に並んだ。”セナの元愛車”という肩書がありながらも、1993年から2013年までの約20年間は、一般の中古車市場を静かに流通していたことになる。
そんな時、イギリス人のロバート・マッケイガン氏がポルトガル・アルガルヴェ地方への旅行中、約8万ポンドであった当該車両に出会った。熱心なセナファンを自認する同氏は、その場で購入を即決。以来10年以上、イースト・サセックスの自宅で大切に保管し続けた(2016年5月にはイギリスでの公道登録済み)。この時期はまだ、セナの元愛車としてのプレミアム価値が今ほど確立されていなかったのだろう。
2024年4月、マッケイガン氏は動いた。RMサザビーズのようなオークションハウスを介さず、あえて一般消費者向け中古車サイト「AutoTrader」に直接、50万ポンド(約9600万円)で出品したのだ。AutoTrader側も自社プレスリリースで大々的に取り上げ、大きな注目を集めた。
同年8月23日〜25日には、シルバーストン・サーキットで開催された「セナ・エキシビション」にこの車が展示されたが、この時点でもマッケイガン氏が所有者であった。また、AutoTrader出品で売却が成立したという報道は見当たらないので、同サイトでの出品は取り消したと推察される。
そして2026年、今度はRMサザビーズの正式なオークションに姿を現すことになった。予想落札価格は50万~80万ポンド(約1億円~1億6,000万円)と見積もられている。NSXタイプRとほぼ似たような価格帯なら…、セナの元愛車はリーズナブルに感じられる。
文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)