
6月28日(日)の放送は「村上RADIO~アナログ・レコードで、ジャズのちょっとこのあたりを… vol.2~」をオンエア。今回の放送は「ジャズのちょっとこのあたりを…」の第2弾です。村上さんが長年愛好してきた知られざる実力派のジャズ・ピアニストの演奏をオリジナルの原盤でお届けしました。
その独特の演奏スタイルでハービー・ハンコックに多大なる影響を与えた全盲のピアニスト、クリス・アンダーソン。また、本職が精神科医という異色の経歴を持つデニー・ザイトリンなど、個性的な実力派ピアニストたちを紹介しました。
この記事では、後半1曲とクロージング曲、今日の言葉について語ったパートを紹介します。
「村上RADIO」
◆Bill Crow, Hiroshi Yamazaki, John Cutrone「Morning Dream」
今日これまでおかけしたのはすべてアナログ・レコードでしたが、これだけCDになります。CDでしかリリースされていないので、すみません。ベーシストのビル・クロウさんがリーダー格のピアノ・トリオです。正式にはCooperative Trio、つまり三人平等、共同運営のグループなのですが、キャリアから言ってやはりビルさんが実質的リーダーでしょうね。ニューヨークで活動しているワーキング・バンド、ピアノは日本人のヤマザキ・ヒロシさん。彼のオリジナル曲「Morning Dream」を聴いてください。とても美しいバラードです。
クロウさんとは去年の年末にニューヨークで会って、マンハッタンのイタリア料理店で一緒に食事をしたのですが、もう98歳なのにとてもお元気で、驚かされました。今でも現役で、自分のバンドを持って、ニューヨークのジャズ・クラブで活発に演奏しておられます。食欲も旺盛で、そのあと自分で車を運転してトンネルを抜け、ニュージャージーの自宅まで帰って行かれました。大丈夫かなあと思ったんだけど、無事だったみたいです。
そのときにクロウさんからいただいたのがこのCDでした。CDのタイトルは『You And The Night And The Music』。それからなんと『Bill Crow Sings』というCDも出していて、「生まれて初めての歌手としてのアルバムなんだよ」と仰っていました。これ、なかなかかっこいいので、そのうちこの番組でおかけしますね。
それでは聴いてください。「Morning Dream」
<クロージング曲>
Earl Klugh「Serenata」
今日のクロージングの音楽はアール・クルーがアコースティック・ギターで演奏する「セレナータ」です。この曲、さっきジャック・ウィルソンが演奏していましたよね。こちらの演奏もなかなか聴かせます。
*
さて、今回は本のプレゼントがあります。僕の新刊『夏帆 The Tale of KAHO』が7月3日(金)に発売されます。僕の3年ぶりの長編小説です。頑張って書きました。もしよかったら読んでください。
この本を10名の方に差し上げます。サインを入れてお送りします。番組の感想とか村上に相談したいこととか、そういうことを書いて応募してください。郵便番号、住所、お名前、電話番号を忘れずに書いてくださいね。本が送れませんから。
*
さて、今日の言葉は、宮澤賢治さんです。彼の詩集『春と修羅(しゅら)』に収められた詩の中にこんな一節があります。
ぜんたい馬の眼のなかには
複雑なレンズがあって
けしきやみんな
へんにうるんでいびつにみえる……
これが果たして生物学的に正しい見解なのかどうか、僕にはわかりかねますが、この詩を読んで以来、どこかで馬を見かける度に、「ああ、あの眼のなかには複雑なレンズが入っていて、景色がみんなうるんでいびつに見えるんだなあ」と思いなすようになりました。詩の言葉って場合によっては、不思議に永続きする力を持つみたいです。
しかし馬の目には、いったいどんな風に世界がうるんでいびつに見えるんでしょうね?
馬さんにちょっと訊いてみたいところです。
ぜんたい馬の眼のなかには
複雑なレンズがあって
けしきやみんな
へんにうるんでいびつにみえる……ひひ~ん
それではまた来月。
<番組概要>
番組名:村上RADIO~アナログ・レコードで、ジャズのちょっとこのあたりを… vol.2~
放送日時:6月28日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/