
5月28~31日、愛知・岐阜で開催されたFIA世界ラリー選手権(WRC)第7戦「フォーラムエイト・ラリージャパン2026(以下 ラリージャパン)」はTOYOTA GAZOO Racing WRTが表彰台を独占する圧倒的な強さを見せ幕を閉じた。今季すでに2勝を挙げ勢いに乗る勝田貴元選手は地元での優勝を狙うも、前半でのアクシデントなどによる遅れを挽回するにはいたらず4位。目標達成とはならなかったが堅実にポイントを獲得し、続く第8戦のアクロポリスラリーでも3位でフィニッシュ。現在シリーズポイント2位でトップのエルフィン・エバンスを追う。
さて、そんなラリージャパンだがじつはトップカテゴリー以外にも見所の多い大会であった。その筆頭は、かつてラリー界を席巻した最強ブランド「ランチア」の復活だ。ランチアフルビアによる1972年のラリーモンテカルロでの勝利を皮切りに、1974~76年にはストラトスによるWRCマニファクチャラーチャンピオン獲得。1983年にはラリー037で王座奪還。グループAマシンで競われた1987年からはデルタで6年連続の王座に輝いた。それら栄光のマシンに続く現代のランチアのラリーカーとして今季登場したのがランチア イプシロン ラリー2HFインテグラーレだ。
●オープニングセレモニーでのランチア イプシロン ラリー2HFインテグラーレ。シャープなフォルムが印象的だ
●ランチアの勝利の歴史が刻まれたボディ
子供のころに狂乱的なスーパーカーブームの洗礼を浴びた世代はすでに還暦ぐらいであろうか。そんな世代で初めてラリーの世界に触れたのがアリタリアカラーのストラトスの存在だったという人は少なくない。今回登場したイプシロンはその末裔ともいえよう。また、マルティニカラーをまとい年々進化しながら80年代後半から90年代にラリー界を席巻したデルタのファンにとっては、HFインテグラーレという言葉の響きにすら反応してしまいそうだ。
当時はマツダ323、トヨタセリカ、スバルレガシィ、三菱ギャランなどの日本車がWRCに参戦し王者ランチアに挑んできた時代でもあったので、その熾烈な戦いとランチアの強さを覚えている人も多いだろう。フルビアの時代にはすでに登場していたHFのロゴと象のイラストは現代のイプシロンにも受け継がれている。そんな歴史の連続性もファンにはうれしいポイントだ。
●ランチアフルビアの時代から継承されている伝統のHFロゴと象のイラスト
●ランチアのエンブレムとリアウイングに描かれたイラスト、どちらも歴史のあるものだ
●どことなくストラトスや037ラリーを思わせる丸いテールレンズ
ランチアの復活を担ったドライバーはニコライ・グリアジン、コ・ドライバーはコンスタンティン・アレクサンドロフ。2024年のラリージャパンではイニシャルD 藤原とうふ店のカラーリングで話題となったシトロエンC3でクラス優勝を飾ったあのコンビだ。ラリージャパンでは復活したランチアのニューマシンを勝利を導いたのだ。
●ニコライ・グリアジンとコンスタンティン・アレクサンドロフは2024年のラリージャパンにイニシャルDの藤原とうふ店のカラーリングで出場し話題となったコンビ
かつてランチアが活躍していた時代、日本人の多くがWRCが日本で開催されるなど夢にも思っていなかっただろう。だからこそ2004年にラリージャパンが開催されたときには多くのラリーファンが驚いたものだ。「まさか日本でWRCが開催されるとは!」と。
ただ、そのころかつての王者ランチアはWRCには参戦しておらず、HFのロゴと象のアイコンが誇らしいランチアが日本の地で戦うのは今回が初めて。それだけに歴史あるランチアの勝利の地の1つとして日本の名が刻まれるのはラリーファンにとって嬉しいことではなかろうか。
かつてグループA時代の幕開けとなった1987年にマルティニカラーのデルタHF 4WDでドライバーズタイトルを獲得し、ランチアのWRCマニファクチャラーチャンピオン獲得に貢献したユハ・カンクネンは現在TOYOTA GAZOO Racing WRTのチーム代表代行として来日しており、今回のラリージャパンの会場でも見かけた。
●豊田章男TGR-WRT会長と共に勝利を喜ぶユハ・カンクネン氏(右)。かつてランチアやトヨタの勝利に多大な貢献をしたレジェンドドライバーだ
2004年初めて日本で開催されたWRC、ラリージャパンでで勝利したのはスバルWRTのペター・ソルベルグ。世界を席巻した青いスバルのマシンはWRCのステージで見られなくなったが、そのペターの息子オリバー・ソルベルグは今やTOYOTA GAZOO Racing WRTの一員。もちろん今回のラリージャパンも参戦し、日本のファンにその走りを披露した。少々話がアチコチへ散らかってしまったが、かつての偉大なチャンピオンが来日し、ワールドチャンピオンを親にもつ次世代ドライバーが走り、そしてランチア イプシロン ラリー2HFインテグラーレの参戦する。さまざまな要素が愛知・岐阜に集結することでWRCとしては後発組のラリージャパンが長いWRCの歴史と1本の糸で繋がった感じがした。
そして何より、日本で見る初めてのランチアのラリーマシンはシャープなデザインやカラーリングも相まって走る姿のカッコよさが印象的だった。ランチアHFブランドというバイアスを差し引いても十分に魅力的なマシンだと思えた。
●シャープなフォルムと顔つきのインプシロン。走る姿も非常にカッコよかった
●初めて春の開催となったラリージャパンは天候にも恵まれ、新緑の中を走るマシンの姿も美しかった
ラリージャパンは現在2028年まで開催されることが決定している。世界最高峰のマシンと世界最高峰のドライバーの走りを堪能するのはWRCの醍醐味だが、一方で往年の名選手を会場で見かけたり歴史に彩られたマシンをサービスパークなどで身近に味わえるのもラリーの魅力のひとつ。2028年大会の概要はもちろんまだ発表されていないものの、今年観戦した人はもちろん、そうでない人も会場に足を運んでみてはいかがでしょうか?
●マシンが帰ったランチアのテントはいつも人だかりで、その人気と期待がうかがえた
〈文と写真=高橋 学〉









