
昨今、スポーツは単なるエンターテイメントではなく、社会を変える力があると言われるようになった。それを身をもって実感している現役サッカー選手たちがいる。児童養護施設の子どもたちの支援をチームメイトと2人で始めて10年。現在では仲間も増え、さまざまな活動を続けている、COEDO KAWAGOE F.C所属の小池純輝選手に、スポーツとアスリートのもつ価値についてお話を伺った。
きっかけは声援と笑顔。子どもたちの圧倒的な熱量に心が動いた
2025年7月、小池純輝選手は神奈川県にある児童養護施設を訪れ、年齢や性別を問わず、多くの子どもたちと、サッカーのミニゲームを楽しみ交流を深めた。小池選手が初めて児童養護施設を訪れたのは2014年のこと。それから10年以上、自身が所属するチームの近隣にある児童養護施設の訪問を続けている。
きっかけは、知人からの「ちょっと顔を出してほしい」という相談だった。そこで当時東京ヴェルディでチームメイトだった梶川諒太選手(現:藤枝MYFC所属)を誘って、鎌倉にある児童養護施設を訪れたところ、想像以上のもてなしを受けたという。
「小さな体育館のようなところに『ようこそ小池選手・梶川選手』と書かれた横断幕と装飾があって、そこに全員が集合して『わーっ』と歓声をあげて迎えてくれました。その日はみんなでサッカーをしたんですが、とても喜んでもらえて嬉しかったですね。その後、今度は施設のみんなが横浜市で開催された試合に観戦に来てくれました。僕はポジションがサイドなので、スタンドにいる子どもたちの『小池選手、がんばれ!』という声援がピッチまで聞こえて、それがまたすごく嬉しかったんです」
と、小池選手は笑顔で当時を振り返る。その後、シーズンオフの12月に小池選手と梶川選手は自主的に施設を再訪した。
「前回の訪問で主に交流したのが幼稚園から小学2年生ぐらいまでの小さい子どもたちだったので、時間が経って忘れられていないかな、という不安もありましたが、前回同様の熱量で迎えてくれました。その時に、子どもたちのためにサッカーを通して継続的に何かできることはないか? と思うようになりました」
そして、梶川選手とともに一般社団法人F-connectを設立した。名前は「Footballで繋げる、Footballが繋げる」という団体のコンセプトに由来する。
18歳で自立しなければならない子どもたちのために
F-connectは児童養護施設を訪問して一緒にサッカーをして交流をはかる他、試合への招待、サッカーシューズの寄贈などといった活動をしている。さらに毎年年末には、横浜市の高校の協力のもとサッカーイベントを開催。高校のグラウンドに施設の子どもたちを招待して行うサッカー教室は、12月の恒例イベントとして親しまれている。
また、2021年度からは「プロサッカー選手がつくる畑で児童養護施設の子どもたちと泥んこになりたい」をテーマに長野県飯綱町にて「エフコネファーム」をスタート。長野県の農家に子どもたちを招待し、一緒に野菜や果物を収穫。協力してくれる農家の方や近隣の方々も交えて、みんなでバーベキューをして収穫した野菜などを食べるそうだ。

「基本的に児童養護施設の子どもたちは、なんらかの事情で親元を離れて暮らしています。そんな中、サッカーを通じて触れあうことで、彼らが夢や目標を持ってみようと思えるようなきっかけを作ることができたらいいなと思っています。『エフコネファーム』も、施設から出て、農作物を収穫したり、普段は触れあう機会のないような方々と交流したりすることが、子どもたちが成長していく上での“栄養”の一部になってくれたらいいと思うんです」
児童養護施設で暮らす子どもたちは、以前は18歳、最長でも22歳までに自立して退所しなければならなかった。その後、2024年の児童福祉法改正により年齢制限は撤廃され、自立が可能かどうかで判断されることになったものの、現状はさまざまな事情から、いまだに多くの子どもたちが18歳で施設を出なければならないという。
「僕たちは、18歳で施設を出なくてはならない子どもたちに仕事を斡旋するとか、大きなことはできませんが、さまざまな体験や人との交流を通して彼らの中に何か新しい考えや価値観が生まれてくれたら嬉しいです。僕もそうですが、人は経験や体験の積み重ねによって育ち、そうした過去の積み重ねが熟成され、自分の考え方や行動になって表れるんじゃないでしょうか。子どもたちにとって、F-connectでの体験が、そうしたものの一つになってくれたらいいですし、大人になって社会に出たときに、あんな人いたなとか、こんなことしてくれたなと思い出して、その記憶が何かをするきっかけやモチベーションになってくれたらいいですね」
最大の喜びは子どもたちの変化。高校生、社会人になってからの再会も
小池選手がこの活動を続けるモチベーションのひとつは、やはり子どもたちの笑顔、喜ぶ姿だという。
「10年の活動の中で、嬉しかったことはたくさんあります。たとえばある施設を訪問した際、みんなでサッカーを始めたんです。最初はサッカーが好きで積極的な子どもたちが率先してボールを蹴ってくれましたが、そのうちに周りで見ていた子どもたちも、1人、2人と参加してくれて、最後は1つしかないボールをみんなで追いかけるといった状況になりました。それ自体も嬉しかったんですが、帰り際に職員の方が『普段だったら誰かがサッカーをやっていても絶対に参加しない男の子が、一緒になってボールを追いかけていたので驚きました』とおっしゃったんです」
その男の子は、普段はみんなと一緒に遊ぶことはなかったそうだが、プロのサッカー選手のプレーを目の当たりにして、何かを刺激されたのかもしれない。
「他にも、12月の恒例イベントの初回に参加してくれた女の子がいました。参加当時、彼女は幼稚園の年長さんか小学1年生だったんですが、その子が女子高生になって、またそのイベントに来てくれたんです。途中で会う機会はありましたが、イベントに参加したのは随分前ですし、多感な年齢なのにわざわざ来てくれた。それは、彼女の中でこのイベントが印象に残っていたからかなと思うと、やってきてよかったなと思いましたね」
このように、F-connectの活動は、一歩前に足を踏み出したり、行動変容をもたらしたりするきっかけになっているようだ。
「以前『エフコネファーム』に定期的に参加してくれていた高校生が昨年、社会人になったんですが、就職を考えるときにF-connectで働きたい、農業をやりたいと言ってくれました。残念ながら、F-connectの環境を含め、準備を整えられなかったので実現はできませんでしたが、自分たちがやってきたことが実際に子どもたちの夢や目標になったのは嬉しかったですね」
現役選手だからこそ、たくさんの人に影響を与えられる
10年の活動の中で、小池選手の考えに共感したさまざまな人や企業が賛助会員としてF-connectに協力。そして複数のサッカー選手たちがF-connectに参加して一緒に活動をしている。小池選手が現役のプロサッカー選手でありながら、時間や労力を割いてこうした活動を続けているのは、なぜなのだろうか。
「試合に出てない時や、チームが勝てない時には『そんなことやってないで練習しろよ』といった声がSNSに届くこともありましたが、そういう会ったこともない人たちの声よりも、私自身が実際に目にしている子どもたちの姿や笑顔、そして自分がどうしたいかが大事なんじゃないでしょうか。
子どもたちの支援は引退してからでもできますが、現役時代というのは、ある意味その価値が最大化されている状況で、たくさんの人に影響を与えられる可能性があると思うんです。たとえば、先程お話ししたような、普段はみんなと一緒にサッカーをしない子が自然に参加してくれたとか、特に子どもの場合は、触れあうことでいろんなことを感じてもらえるような気がしています」
そうした子どもたちの反応や変化によって、小池選手自身がスポーツの価値やアスリートの価値に気づくことが多いという。そして、その気づきが人としての厚みになり、サッカー選手としてのパワーに繋がっているのだそうだ。
小池選手は、この10年の間に何度か所属チームが変わっている。選手としての環境や生活も大きく変わる中、それでもF-connectの活動を続けてきたその根本には、子どもたちの喜ぶ姿、笑顔を見たいという気持ちがあるという。「子どもたちを招待したら絶対に試合に出たいじゃないですか。それが僕自身のモチベーションにもなっているんです」と語る小池氏のプレーには、これまで出会ってきた子どもたちのたくさんの夢や希望、思いが乗っているような気がした。
PROFILE 小池純輝
COEDO KAWAGOE F.C所属の現役サッカー選手。一般社団法人F-connect代表理事、一般社団法人日本プロサッカー選手会元理事、一般社団法人日本CPサッカー協会元理事。
高校を卒業後、坂戸ディプロマッツから浦和レッズのユースを経て、2006年にトップチームに昇格。その後、ザスパ草津、水戸ホーリーホック、東京ヴェルディなどを経て、2026年よりCOEDO KAWAGOE F.Cに所属。
F-connect:https://f-connect.org/
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:一般社団法人F-connect