
横須賀線には、鉄道ファンならずともワクワクする歴史あるトンネルが集中する区間があるのをご存知ですか?横須賀線の東逗子駅から衣笠駅の区間には明治・大正・昭和の面影を残すレンガ造りのトンネルや、戦時中に軍事目的で造られた長大トンネルなど、8つのトンネルがあります。また、並行する国道16号にも開通時と拡張時、異なる時期に造られた隧道が並行して8つ連なっています。今回は田浦駅から横須賀駅まで、歴史あるトンネルをめぐるルートをご紹介します。トンネル以外にも全国的にも超レアなスポットなど、見どころ満載の散策へ出かけましょう!
田浦トンネルと七釜(しっかま)トンネルに挟まれたホームからスタート - JR田浦駅
いつもの『ひと駅散歩』は改札を出てからがスタートですが、JR田浦駅はホームそのものがすでに観光スポットです!実はここ、ホームの両端を遮るようにトンネルが迫る独特な構造をしています。そのため、長い11両編成の列車がやってくるとホームに収まりきりません。先頭車両がトンネルの中に突っ込んだ状態で停車し、その車両のドアが開かない『ドアカット』が行われる珍しい駅として知られています。※画像は4両編成の列車。ホームに収まるためドアカットはありません。
まずは横須賀方面のホームの端から。七釜トンネルは3世代のトンネルが並びます。真ん中にある石造りの下り線は明治の開通時、レンガ造りの右側上り線は複線化した大正、コンクリート造りの左側は昭和の戦時中に造られた引き込み線。このトンネルは日本遺産「鎮守府 横須賀・呉・佐世保・舞鶴 ~日本近代化の躍動を体感できるまち~」の構成資産にもなっています。
下り線に到着した11両編成の列車はホームからはみ出します。先頭車両がトンネルの中に停車し、先頭車両と2両目前寄りのドアは開きません。
※横須賀線は11両編成と増結した15両編成の印象ですが、すべての増結車両は逗子で切り離しが行われます。末端の逗子~久里浜に15両編成はやってきません。『長い』11両編成と、逗子で解結された増結車両を使った『短い』4両編成が昼間の時間帯に運行しています。ドアカットを見たい場合は時刻表と編成をご確認ください。
逗子方面側のホーム端にはある田浦トンネル。どちらも同じ印象ですが、七釜トンネルと同様に右の下り線は明治、左の上り線は大正期に造られたもの。
上り線も11両編成の先頭車両がトンネルの中へ。ここでも同様にドアカットが行われます。
じっくり観察してみると、建設当時の坑門にあった支え壁の一部が今も残っているのを発見しました。
こちらは下り線・明治期のトンネル内部。一見するとレンガ造りかと思われますが、実は電化工事に伴って側壁の大部分がコンクリート造りに改築されているのです。
一方、複線化と同時に電化された大正期に造られたトンネル。足元には列車の停止線が確認できます。
ホームを後にし、最近無人化となった田浦駅の改札を左側に進みます。駅名標がなく、駅っぽくない駅舎です。
駅舎から少し離れたバスロータリーの場所に駅名標がありました!
スポット名JR田浦駅住所神奈川県横須賀市田浦町1丁目アクセスJR横須賀線「田浦駅」田浦トンネルを踏切から - 田浦踏切
まずは駅のホームから見た田浦トンネルの逗子方面側が見えるスポットに向かいます。田浦駅ロータリーを背にして最初の国道16号を右に進み、田浦隧道を抜けます。※これから横須賀駅に向かう間にいくつか通る国道隧道は、道路拡張化に伴いすべて2つの隧道(横須賀方面と横浜方面)が連なります。場所によっては2つの隧道が少し離れているのも拡張化の歴史を感じます。
隧道を抜け、田浦郵便局の角を右へ曲がります。
車は通れない小さな踏切・田浦踏切に到着です。
先ほど駅から見た、田浦トンネルの反対側です。タイミングよく、JR田浦駅に停車している『短い』4両編成を見ることができました。
スポット名田浦踏切住所神奈川県横須賀市田浦町2丁目アクセスJR田浦駅から徒歩約5分全国でも超激レア!線路が十字に交わる - ダイヤモンドクロッシング
さらに先に進みましょう。田浦踏切を渡って突き当りを右へ、道なりに進みます。
この辺りは旧海軍軍需部倉庫だった場所。歴史ある倉庫群を眺めながら進んでいきます。
先ほど後にした田浦駅のもうひとつの入口を横目に…。
歴史と潮風を感じながら…。
突然現れた線路跡!田浦駅から続くかつて旧海軍の物資を運んだ専用線の跡で、戦後は米軍と周辺の倉庫が1998(平成10)年まで使用されていました。
線路はしばらく続きます。
ここで終わりかと思いましたが…。
まだ続いていました。しかもここ、ダイヤモンドクロッシング(線路が平面で交差する場所)が2つ連なっています。全国でもほんの数か所しか存在しないダイヤモンドクロッシングが2つもある希少なスポットです。
スポット名海上自衛隊S-4 貨物線跡(ダイヤモンドクロッシング)住所神奈川県横須賀市田浦港町無番地アクセスJR田浦駅から徒歩約8分、京急本線安針塚駅から徒歩約18分軌道と車道が同居していた希少なトンネル - 比与宇(ひよう)トンネル
ダイヤモンドクロッシングから少し進むと道路に吸い込まれるような角度で線路がなくなります。
線路が続いていたであろう場所には比与宇トンネルがあります。
一見すると普通のトンネルですが、戦前までは田浦駅からの軍事用引き込み線が通っていました。『線路と一般道路が共用されていた』という、全国でもとても珍しい歴史を持っています。ここをただ通り抜けるだけでも情緒がありますが、実はこのトンネル、とんでもない『真の姿』を隠し持っていたのです……(その秘密は次のスポットで!)。
スポット名比与宇トンネル住所神奈川県横須賀市田浦港町1407アクセスJR田浦駅から徒歩約10分、京急本線安針塚駅から徒歩約15分塞がれた謎の隧道?! - 横須賀海軍軍需本部地区地下弾薬庫跡
比与宇トンネルを抜けると、塞がれたトンネルらしきものを発見!
筆者は先ほどの比与宇トンネルをただ通過しましたが、トンネル内部に別方向へ抜ける穴の跡があるのだそうです。この穴、海軍軍需部比与宇弾薬庫への入口で、全長約2.3kmのトンネルによって構築された巨大な地下弾薬庫が広がっていました。戦時中はトンネルの中に火薬や弾薬を積んだ貨物列車が停車し、そこから地下弾薬庫の中へ収納していたのです。この塞がれたトンネルらしきものは開口部のひとつなのだそうです。
スポット名横須賀海軍軍需本部地区地下弾薬庫跡住所神奈川県横須賀市長浦町1丁目アクセスJR田浦駅から徒歩約15分、京急本線安針塚駅から徒歩約12分長浦トンネルと田の浦トンネルを踏切から - 田の浦踏切
さらに進むとこの日一番の大きな踏切・田の浦踏切に辿り着きました。逗子方面に向かう列車がトンネルから出てきて…。
目の前を通過し、次のトンネルに吸い込まれていきました。
逗子方面にある長浦トンネルは、七釜トンネルの次にあるトンネルです。少し距離がありますが、レンガ造りなのが分かりますね。
横須賀方面にあるのが田の浦トンネル。こちらはレンガ造りなのがはっきり見えます。
スポット名田の浦踏切住所神奈川県横須賀市長浦町アクセスJR田浦駅から徒歩約12分、京急本線安針塚駅から徒歩約7分田の浦トンネルと吉倉トンネルを踏切から - 吉倉踏切
田の浦トンネルの横須賀方面側の口が見えるスポットに向かいます。国道16号との交差点は直進すると京急本線安針塚駅。こちらを左へ曲がり、新吉浦隧道を進みます。隧道を出てすぐ、派出所の角を左へ進むと…。
先ほどの田浦踏切と同じくらい小さい踏切・吉倉踏切に到着。
逗子方面には先ほどの田の浦トンネル、その先の長浦トンネルまで見渡すことができます。
横須賀方面はカーブしているため見えにくいですが、吉倉トンネルも確認できます。
スポット名吉倉踏切住所神奈川県横須賀市吉倉町1丁目アクセスJR横須賀駅から徒歩約15分、京急本線安針塚駅から徒歩約12分演奏会や個展に利用できるレンタルサロン - グローサーシュタイン
国道16号に戻り、さらに先に進みます。新逸見(しんへみ)隧道を抜ければゴールの横須賀駅まであと少し。セブンイレブンがある大きな交差点を右折すると京急本線逸見(へみ)駅があります。逸見駅上りホームの横浜側先端からは、4つ連なるトンネルを見ることができます。余力があれば足をのばしてみてはいかがでしょうか。
この交差点で信号待ちをしていると、道路の向こう側、以前から気になっていたスポットに人影を見つけました!
こちらは、逸見在住のピアニスト・柴田乃里子さんがオーナーを務めるグローサーシュタイン アートギャラリー&ピアノサロン。グランドピアノがあり、演奏会や個展に利用できる素敵なレンタルスペースです。以前から気になっていた特徴的な鍵盤のオブジェは、なんと老朽化して使えなくなった本物のハーモニウムの鍵盤で作られているそうです。
この日は、柴田さんと逸見在住の声楽家・中山美希さんが主催するArt & Concertが開催されており、終演直後のタイミングでお話を伺うことができました。
ステージを終えられたばかりの、逸見在住のオーボエ奏者・丹治友実さん、ファゴット奏者・中村匡宏さん、ピアニスト・長田翔一さん。そのバックには、葉山在住の“自称絵描き”さんが描いた、ヨーロッパの美しい風景画が広がっていました。このArt & Concertは、毎月第2土曜日に開催されています(2026年5月取材時点)。音楽もアートも、集まるアーティストは毎回さまざま。「その日、その時、その瞬間」にしか生まれない、一期一会のアートと音楽のコラボレーションを、あなたも体感してみませんか。
スポット名グローサーシュタイン営業時間10:00〜20:00定休日不定休住所神奈川県横須賀市東逸見町1丁目23−5アクセスJR横須賀駅から徒歩約5分、京急本線逸見駅から徒歩約5分公式HPInstagram開通時は地図に示されなかった長大トンネル - 横須賀トンネル
さらに国道16号を先に進むと左手にJR横須賀駅が見えます。まだ見ておきたいスポットがあるのでもう少し歩きます。道路の向こう側の、時計台のある個性的な建物が気になりますがまずはトンネルを!横須賀隧道を進みます。
横須賀隧道を抜けた先にある、一見何もなさそうな場所ですが…。
ここにも鉄道トンネルがあります。1944(昭和19)年に軍の要請で横須賀から久里浜まで延伸された際につくられた、2km越えの長大な横須賀トンネルの入口です。
軍事上重要な路線だったため、施設や鉄道を偽装・削除した戦時改描で開業当時は地図に載っていなかった歴史があります。
スポット名横須賀トンネル住所神奈川県横須賀市汐入町1丁目アクセスJR横須賀駅から徒歩約5分、京急本線汐入駅から徒歩約10分階段をのぼりきった先にある横須賀港のビュースポット - 一国坂
国道16号を横断します!でも横断歩道が近くにない…。よく見たら隧道の上に歩道がありました。
上まで行けば横須賀港の眺望を楽しめそうなので、行けるところまで行ってみます。
以前『汐入駅~逸見駅ひと駅散歩』の取材で立ち寄った一国坂に辿り着きました。JR横須賀駅と横須賀港を見渡すことができる、静かな絶景スポットです。かつては軍艦山とも呼ばれ、源実朝が桜見物に訪れたといわれています。ちょうど軍港めぐりの船が帰還するところに遭遇しました。
スポット名一国坂住所神奈川県横須賀市汐入町1丁目アクセスJR横須賀駅から徒歩約7分、京急本線汐入駅から徒歩約12分JR横須賀駅と長大トンネルを結ぶ短いトンネル - 逸見(へみ)トンネル
のぼってきた道を下っていくと、一国坂で見た軍港めぐりの船を再び見ることができました。
そして、横須賀線の逸見トンネルを眺められるスポットもあります。
スポット名逸見トンネル住所神奈川県横須賀市汐入町1丁目アクセスJR横須賀駅から徒歩約3分、京急本線汐入駅から徒歩約10分隧道の横に佇む時計台がシンボルの老舗時計店 - 太安堂本店
歩道を下りきったら、ゴールに向けて新横須賀隧道へ進みます。
トンネルを抜けた先には、先ほど横須賀隧道の手前で眺望に入った、時計台のある個性的な建物があります。
1901(明治34)年に創業された老舗時計店・太安堂(たいあんどう)本店。ヨーロッパの建造物をオマージュしたという、美しい時計台が強く印象に残る佇まいです。
創業時は逸見の大きな交差点沿いに店を構えていましたが、国道16号の拡張工事に伴い、移転を余儀なくされたとのこと。しかし、タイミングよく現在の土地との不思議な巡り合わせがあり移転。「時計台が見えたら、もうすぐ横須賀市街!」と親しまれる街のランドマークになりました。
店内にはスイス製の高級時計から実用クォーツ時計まで、店主・栗﨑賢一さんが選び抜いた名品が並びます。「自分に合う時計ってどれだろう?」そんな悩みにも親身になって相談に乗ってもらえる、温かい雰囲気の素敵なお店です。
スポット名太安堂本店営業時間10:00〜19:00定休日月曜日・火曜日住所神奈川県横須賀市東逸見町1丁目1アクセスJR横須賀駅から徒歩約1分、京急本線逸見駅から徒歩約10分公式HP公式サイト
逸見トンネルが見えるホームがゴール - JR横須賀駅
太安堂本店を後にし、右手に見えるゴールのJR横須賀駅へ。横須賀踏切からは一国坂からおりてきた際に眺めた逸見トンネルの反対側を見ることができます。
短いトンネル内部にはポイントがあり、ここから先は完全な単線となります。横須賀トンネルの入口がしっかりと確認することができます。
踏切の反対側はJR横須賀駅のホームとかつての貨物引き込み線が広がります。
JR横須賀駅に到着。この駅は全国的にも珍しい、階段のない駅です。かつての終着駅であった面影を垣間見ることができます。
ホームからの逸見トンネルも見逃せません。線路は2本ありますが、右側は現在使用されていない引き込み線。横須賀駅発着の列車以外は、逗子方面も久里浜方面もすべてこの左側の線路を行き交うのです。
スポット名JR横須賀駅住所神奈川県横須賀市東逸見町1丁目アクセスJR横須賀線「横須賀駅」まとめ
なに気なく通り過ぎてしまうトンネルや踏切。レンガ造りのトンネルや、かつて軍事用として使われた引き込み線の跡や旧海軍倉庫群など、いくつもの時代を駆け抜けたディープだけど貴重な遺産がわずかひと駅の区間の中に凝縮されていました。鉄道ファンはもちろん、歴史が好きな方や、いつもと違う横須賀を散策してみたい方にもぴったりのルートです。また、この散歩ルートは京急本線の安針塚駅から逸見駅のひと駅にも相当します。本文では両駅への案内も入れていますので、京急線とうまく組み合わせてアクセスするのもおすすめです。カメラを片手に、ノスタルジックなトンネルめぐりへ出かけてみませんか。
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