エンタメ・推し活領域のシードスタートアップを対象とした短期集中型のアクセラレーションプログラム「SEA Program」。SBIネオメディアらが主催するこのプログラムで、並み居る競合の中からグランプリを獲得したのが「CrestLab(クレストラボ)」だ。
クレストラボはAIを活用したアニメ制作支援サービス「ANICRA(アニクラ)」やAIアニメ制作エージェント「RAPID STUDIO(ラピッドスタジオ)」を展開。深刻な人手不足に悩むアニメ業界に新たな制作インフラを提供している。
代表取締役CEOの坂東裕太さんは今、AIを通じてどのような未来を描こうとしているのか。アニメ制作の最前線のリアルについて話をうかがった。
クリエイターの情熱を形にする「アニメ制作インフラ」
ーーまず、「クレストラボ」とはどのような会社なのか、改めて教えてください。
坂東 私たちは、AIを活用して新しいアニメ制作の基盤、いわば「制作インフラ」を作っている会社です。主にアニメスタジオの方々をサポートするDXプロダクトの開発を行っています。
特徴的なのは、ただツールを提供するだけでなく、私たち自身がスタジオの制作現場に深く入り込む点です。ワークフローの一部としてスタッフの一員のように伴走しながら、現場の課題を解決するための研究開発を進めています。
ーー「アニクラ」と「ラピッドスタジオ」という2つのサービスがありますが、それぞれの違いを教えてください。
坂東 「アニクラ」は主にアニメスタジオ向けのプロダクトです。テレビシリーズや劇場版を制作されているプロの現場で制作を高速化し、作業工数を減らすためのサポートツールで、アニメーターの方々の生産性を高めることが目的です。
一方の「ラピッドスタジオ」は、監督や演出家、または小規模な制作チームに向けたエージェントツールです。少人数でもアニメ制作を完結できるよう、AIが脚本作りをサポートしたり、絵コンテを自動生成したり、動画化までを一気に仕上げられたりする仕組みです。
ーーそもそもなぜ、坂東さんはこのアニメ制作という領域で起業しようと思われたのですか?
坂東 実は、私自身がもともと漫画を描いていた人間で、投稿や持ち込みをずっと続けていたんです。漫画家にはなれませんでしたが、クリエイターの活動環境を変えたい、作品をより多くの人に届けたいという思いは強く持っていました。
漫画家にとって、自作の映像化は一つの大きな目標です。AIを活用することで、クリエイターが描いた作品の映像化をサポートし、キャリアの可能性を広げる仕組みが作れるのではないかと考えたのが、創業のきっかけですね。
アニメ業界が直面する「需要と供給のミスマッチ」
ーー現在、アニメ業界ではなぜAIの導入がこれほどまでに必要とされているのでしょう。
坂東 最も大きいのは人手不足の問題ですね。現在、アニメの需要は世界的に高まっていますが、その需要に対応できるスタジオやクリエイターの数が圧倒的に足りていません。特に深刻なのが、キャラクターデザインの整合性をチェックする「作監修正」などを担えるクリエイターの不足です。
最近は視聴者の目も肥え、アニメでもいわゆる「神作画」が求められる時代になっています。にも関わらず、慢性的にクリエイターが足りていないという課題は依然として残ったままなんです。
ーー制作期間の長期化も問題になっていますね。
坂東 それも大きな課題です。スタジオのラインが数年先まで埋まっていて、そもそも新作がなかなか作れない状況があります。AIによって制作サイクルが早まれば、スタジオの収益性も上がりますし、視聴者も2期、3期といった続きを早く見ることができます。
アニメーターの方々は「100点のものを作りたい」という想いを持っています。が、納期とリソースの制約で、どうしても妥協せざるを得ないカットが出てしまうんです。AIが反復作業を肩代わりすることで、人間がこだわるべき部分に100%の力を注げる。そんな環境を作りたいなと考えています。
ーー具体的には、制作フローのどの工程をAI化しているのでしょうか。
坂東 主には「中割り」と「レイアウト」です。「中割り」とは、動きのキーとなる原画と原画の間を埋める絵を描く工程です。現在は多くのスタジオが海外に外注している部分ですが、ここをAIで高速化することで、自社内でコントロールしやすくします。
「レイアウト」については、絵コンテから画面構成を決める際、ラフな下書きからキャラクターの清書された状態をAIで即出力する機能を開発しています。結果、後続の原画工程の負担を大幅に減らすことができます。
我々のツールを使っていただくことで、従来の工程にかかっていた工数が約7割削減されたという声もいただいていますし、アニメーターひとりあたりの生産量で言うと、約3倍に向上したケースもあります。
クリエイターとAIの「共生」が拓く新しい価値
ーー「AIがクリエイターの仕事を奪う」という懸念についてはどうお考えですか。
坂東 私たちが提供しているのは、あくまでクリエイターの“武器”としてのプロダクトです。現在、AIが担っているのは「人手が足りなくて海外に外注していた工程」などで、人間の仕事を奪うのではなく、足りない力を補い、サポートすることが目的なんです。実際、現場からも「AIがなかったらこの作品は完成していなかった」と言っていただけるほど、ポジティブに受け入れられています。
ーー若手アニメーターの教育機会が奪われる、という指摘もありますが……。
坂東 それは当初、私も懸念していました。が、実際は逆でした。現場の若手の方が積極的にAIを使いこなし、出力されたものの中から「良い構図」を選ぶ審美眼を養っています。また、AIによって時間が生まれたことで、先輩が後輩に技術を教える余裕ができたという効果も出ているようです。
ーーAI時代のクリエイターには、どのような価値が求められるようになるとお考えですか。
坂東 すでにアニメ業界で活躍されている人や、これから活躍を目指す人は、より一層輝く時代になると思います。私たちのビジョンは「クリエイターの創造性を加速させる」こと。AIを使うことで、これまでコスト面で断念していた表現や企画に挑戦できるようになる。
また、クリエイターが作画や演出など、それぞれの専門性をより深く磨ける環境も作っていきたいと考えています。トップアニメーターとして技術を極める道もあれば、監督や演出家として作品全体を手がける道もある。AIによって、そうした多様なキャリアや表現の可能性を広げていきたいですね。
SEA Programグランプリ受賞と、その先の未来
ーーSEA Programでのグランプリ受賞、おめでとうございます。審査員の反応はいかがでしたか。
坂東 ありがとうございます。審査員にはアニメスタジオの運営をされている方など、現場に精通した方々がいらっしゃったので、非常に鋭い質問をいただきました。私たちが現場で直面し、解決してきた課題についても共感していただけたことが、受賞につながったのだと思います。
私たちの強みは、ただのAI開発会社ではなく、アニメ業界の負を解決したいという熱量と、現場の期待値に応えるための開発体制にあります。当初はAIの品質的な部分で現場の要求に応えられない時期もありましたが、スタジオに入り込み、現場目線でのチューニングや研究を重ねたことで改善し、そこが評価されたのだと思います。
ーー最後に、クレストラボとしての今後の目標を教えてください。
坂東 まずはプロダクトを磨き上げ、アニメ業界にとってなくてはならないインフラとして確立させることです。そしてその基盤を活かし、自社でもAIを活用した最先端のアニメーション作品を作っていきたいと考えています。
かつてピクサーが新しい技術でアニメの歴史を変えたように、私たちも新たな表現を届けたいと思っています。やがては海外にもプロダクトを展開し、日本が誇るアニメというIPの価値をさらに広げていくつもりです。数ヶ月後には海外展開や自社発の作品制作など、より具体的な一歩を踏み出したいと思っていますので、ぜひ期待していてください。












