ある日突然発症する脳卒中。命に関わることもある重い病気ですが、必ずしも激しい症状が続くとは限りません。中には、短時間で症状が消えてしまうケースもあります。こうした「軽く見られがちなサイン」の中に、重大な病気の前触れが隠れていることがあります。

短時間で回復する“脳卒中”がある

  • ※画像はイメージです

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脳卒中といえば「突然症状が出て重篤な状態になる」というイメージがある人も多いでしょう。しかし実際には、症状が一時的に現れて短時間で回復するケースもあります。

これは「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれ、本格的な脳卒中が起こる前に、一時的に脳の血流が低下することで症状が現れる状態です。

数分〜1時間以内で消えることが多い症状

一過性脳虚血発作の症状は、脳卒中と同様に突然現れます。

・体の片側にまひが起こる(片腕が上がらない、顔の片側が下がるなど)
・ろれつが回らない、言葉が出ない
・歩きにくくなる、ふらつく
・時間や場所が分からなくなる、反応が鈍くなる
・片側の目が見えなくなる、視野が欠ける

これらの症状は24時間以内に消失するのが特徴で、多くは数分〜1時間程度で回復します。

症状はすべて同時に現れるとは限らず、ひとつだけの場合もあります。そのため、軽い異変として見過ごされてしまうことも少なくありません。

なぜ“治る”ように見えるのか

一過性脳虚血発作は、脳の血流が一時的に低下することで起こります。血栓の移動や自然な溶解などによって血流が再開すると、症状は消失します。

ただし、これは「完全に治った」というわけではありません。血管内で血栓ができやすい状態は続いており、再び血流が途絶えれば脳梗塞を発症する可能性があります。

「軽症」に見えるから受診が遅れる

症状が一時的に回復すると、受診を後回しにしてしまうケースは少なくありません。

本人が様子を見る

本人が症状を自覚しても、「一時的なものだろう」「気のせいかもしれない」と考えて様子を見てしまうことがあります。

症状が消えれば普段通りに動けるようになるため、そのまま仕事や日常生活に戻ってしまう人も少なくありません。

周囲も止めない

周囲の人が異変に気づいても、症状がすぐに消えてしまうため、受診を強く勧めないことがあります。

「もう治っているのではないか」「大げさにしなくてもいいのでは」と判断され、そのまま見過ごされてしまうこともあります。

実は“本番”の前触れであることも

一過性脳虚血発作は、脳卒中の前触れと考えられています。

症状が消えても、90日以内に15~20%の人が脳卒中を発症したという報告があります。さらに、その半数は2日以内に発症しており、発症直後ほどリスクが高いことが知られています。

また、別の報告では、脳卒中を発症した人のうち約30%が24時間以内に発症していたとされています。

このように、一過性脳虚血発作は「一時的な異常」ではなく、緊急性の高いサインと考える必要があります。

受診の目安は“症状が消えたかどうか”ではない

症状が短時間で消えたとしても、受診を後回しにしてよい状態ではありません。

できるだけ早く医療機関を受診し、原因の評価と必要な治療を受けることが重要です。一過性脳虚血発作の段階で適切な対応ができれば、脳梗塞の発症を防げる可能性があります。

症状が一度でも現れた場合は、時間を置かずに脳神経外科や脳神経内科など、専門的な診療が可能な医療機関を受診してください。

症状が消えても「様子見」は危険

脳卒中が疑われる症状は、数分~1時間程度で消えてしまうことがあります。しかし、症状がなくなったからといって安心できるわけではありません。

一過性脳虚血発作は、本格的な脳卒中の前触れであることが多く、短期間のうちに再発するリスクがあります。

軽く考えず、「一度でも症状があったら受診する」という意識が重要です。早めの受診が、命や後遺症のリスクを大きく下げることにつながります。

脳卒中の前兆について、脳神経内科の専門医に聞いてみました。

一過性脳虚血発作(TIA)は、麻痺や言語障害などの症状が現れるものの、24時間以内(多くは数分から数十分)に完全に消失する状態を指します。脳卒中の中でも脳梗塞と深く関連し、脳の血管が狭窄または閉塞して脳細胞が不可逆的な壊死に至るか、その前に再開通して壊死を免れるかの違いに過ぎません。そのため、急性期治療や再発予防策は原則として脳梗塞に準じて行われます。

TIAは脳梗塞の警告であり、脳梗塞に移行するリスクが極めて高いことが知られています。一度脳梗塞により壊死した細胞は再生せず、後遺症として残存する可能性が高くなります。特に高齢者、高血圧、糖尿病などの動脈硬化リスクを持つ方は注意を要します。

適切な診断と治療により脳梗塞への移行は防げますので、例え症状がすぐに消えたとしても、迷わず直ちに専門医療機関を受診してください。

金井 雅裕(かない まさひろ)先生

一宮西病院 脳神経内科副部長/脳卒中センター副センター長
資格:日本神経学会 神経内科専門医、日本内科学会 総合内科専門医、日本脳卒中学会 脳卒中専門医