脳卒中は突然重い発作が起こる病気というイメージがありますが、必ずしもそうとは限りません。意識があり、歩けている状態でも脳卒中が起きていることがあります。見逃されやすい初期症状と、その危険性について解説します。

倒れない脳卒中がある

  • ※画像はイメージです

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脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで起こる病気です。突然発症し、後遺症が残ったり命に関わったりすることもあります。

しかし、すべてのケースで意識を失ったり歩けなくなったりするわけではありません。血管の障害が起きた部位によって症状の現れ方は異なり、軽い症状にとどまることもあります。

意識ははっきりしていることもある

脳卒中でも、意識が保たれているケースは少なくありません。会話ができたり、歩いたりできることもあります。

そのため、本人も周囲も「大丈夫そう」と判断してしまい、脳卒中に気づきにくくなることがあります。

それでも脳の一部は障害を受けている

症状が軽くても、脳卒中が起きていることに変わりはありません。

血管の詰まりや出血の影響が限定的な場合、症状が軽く見えることがありますが、脳の一部は確実にダメージを受けています。また、血管の状態は不安定であり、今後さらに大きな発作が起こる可能性もあります。

見逃されやすい“日常の異変”4つ

日常生活の中で起こる、見逃されやすい脳卒中のサインを紹介します。

1. 片手だけ物をよく落とす

脳卒中では片側の手足に力が入りにくくなる「片麻痺」が起こることがあります。軽い場合は、物を落としやすくなる、箸が使いにくい、文字が書きにくいといった変化として現れます。

こうした症状は片側だけに起こることが多いのが特徴です。

2. 歩き方が少しおかしい

片足に軽い麻痺があると、歩き方に違和感が出ます。

まっすぐ歩けない、片側に寄る、足を引きずる、段差につまずきやすいなどの変化が見られます。

3. 言葉が出にくい・言い間違いが増える

言語機能に関わる脳の障害により、言葉が出にくくなることがあります。

相手の話は理解できるが話せない場合や、話せているように見えても内容がかみ合わない場合など、さまざまなパターンがあります。

4. 視野が欠ける・物が二重に見える

脳卒中では、視野の一部が欠けることがあります。これは片目ではなく、両目で見たときに片側の視野が欠けるのが特徴です。

また、物が二重に見える「複視」が起こることもあります。脳が原因の場合、両目で見たときに症状が現れます。

なぜ“様子見”になってしまうのか

これらの症状は、疲れや加齢、睡眠不足などでも起こり得るため、深刻に受け止められにくい傾向があります。

本人だけでなく周囲も「少し様子を見よう」と判断してしまい、受診が遅れる原因になります。

判断基準は“歩けるかどうか”ではない

脳卒中かどうかを判断する際、「歩けるかどうか」は基準にはなりません。

片側だけの異変や、突然の症状は重要なサインです。たとえ一時的に回復しても、あとから大きな発作が起こる可能性があります。

「回復したから大丈夫」とは考えず、症状が一度でも現れた場合は受診を検討してください。

軽い症状でも受診をためらわないことが重要

脳卒中は、最初の症状が軽い場合でも見過ごしてはいけない病気です。

一般にイメージされるような重い症状が出ないこともあり、「歩ける」「話せる」といった状態でも安心はできません。

早期に治療を開始することが、命や後遺症のリスクを大きく左右します。脳卒中ではなかったとしても、これまでにない異変を感じた場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

脳卒中と歩行の関係について、脳神経内科の専門医に聞いてみました。

脳卒中は、障害された脳の部位やその範囲によって症状が大きく異なります。

例えば、頻度の高い基底核付近の脳卒中では、足よりも手や顔面に強い麻痺が出やすい傾向があります。そのため、全体として症状が軽い場合には、足の違和感に気づかず、少し手が使いにくいだけと見過ごされてしまうことも少なくありません。また、大脳皮質の狭い範囲に梗塞が起きた場合、上肢のみ、あるいは下肢のみといった極めて局所的な症状が出現することもあります。

さらに、運動麻痺を伴わない脳卒中も存在します。特に視床などの感覚神経路が障害されると、顔や手足のしびれのみが現れ、筋力低下を全く認めないケースも珍しくありません。

どのようなタイプの脳卒中であっても、発症直後から数日間は病変が拡大し、症状が急速に悪化する恐れがあるため、一刻も早い受診が必要です。診断の最大の鍵は症状が突然現れたかどうかにあります。急に出現した手足や顔の麻痺、あるいは半身のしびれを感じた際は、直ちに医療機関を受診して精査を受けることを強く推奨します。

金井 雅裕(かない まさひろ)先生

一宮西病院 脳神経内科副部長/脳卒中センター副センター長
資格:日本神経学会 神経内科専門医、日本内科学会 総合内科専門医、日本脳卒中学会 脳卒中専門医