「このまま賃貸の家賃を払い続けるのと、家を購入するのとでは、どちらが得なのか......」「NISAやiDeCoを始めてみたはいいものの、この運用で合っているか不安」など、お金に関する漠然とした不安を抱えている人は少なくないはず。
今回は、「老後2,000万円問題」や「物価高」が続く現代において、資産運用やお金の悩みに寄り添うFP・中村哲規氏の著書『お金より先に"生き方"の話をしよう~後悔しないためのライフプランニング』(クロスメディア・パブリッシング)より、年収650万円・40代独身女性の相談事例についてお届けします。
お金の不安に向き合う前に、まずは人生設計から見直す。その視点で課題を整理し、不安を解消していったプロセスを紹介します。
賃貸を続けるなら老後資金はいくら必要? 年収650万円・40代独身女性が掴んだ老後の安心
【40代独身】
・43歳・年収650万円
・金融資産:1,000万円
・ご相談:賃貸住まい・老後も1人で暮らすことの不安
【ご相談】老後1人で生きていくのにお金は足りる?
今回ご紹介するのは、都内の賃貸マンションにお住まいの独身女性、香織さん(43歳)の事例です。
香織さんはIT企業でシステムエンジニアとして活躍されており、年収は650万円。手取り月収は34万円、さらに年間手取り80万円のボーナスもあり、経済的に自立した落ち着いた生活を送っていらっしゃいます。
NISAやiDeCoも始めており、現在の貯蓄と投資の合計額は約1,000万円と、堅実な家計に見えます。ご相談のきっかけは、40代に入って急に膨らんだ「漠然とした不安」でした。友人が次々とマンションを購入していく中、「私はこのまま賃貸で家賃を払い続けていいの?」「老後、1人で生きていくのにお金は足りるの?」という迷いが消えません。
【現状分析】賃貸派のリスクと「おひとりさま」の不安
一見余裕があるように見える香織さんの家計ですが、データを分析すると、将来に向けて早めに整理しておきたいポイントが見えてきました。現在、都内の1LDKにお住まいで、家賃は更新料を含めて月実質13万円です。現在の収入があれば支払いに問題はありません。 しかし、人生100年時代を想定してシミュレーションを行うと、思わぬ結果が出ました。現状のまま賃貸に住み続けると、65歳以降の年金生活で家賃負担が重くのしかかり、95歳時点で資産がマイナスになる計算でした。一生賃貸に住む場合、老後の家賃のために、持ち家の人よりも数千万円単位で多くの現金を準備する必要があるケースもあります。その点を踏まえた準備が今後の課題となっていました。
また、iDeCoで480万円というまとまった資産をつくれていましたが、その中身は債券を中心とした商品が大半を占めていました。43歳という年齢は、まだ資産形成の時間を生かしやすい時期です。そのため、やや保守的な配分となっていた点は、今後の資産形成という観点で見直しの余地がありました。
一方で、保障面にも確認しておきたい点がありました。香織さんは医療保険には加入していましたが、入院費が出るだけのものでした。独身世帯では、病気やケガで長期間働けなくなったときに、家計を支える別の柱がないことが大きなリスクになります。長期療養で収入が減っても、家賃や生活費の支払いは続きます。シミュレーションの時点では、もしいま、就業不能状態になると、3年で貯蓄が底を突くことがわかりました。
【解決策】数字をもとにした将来設計
1人でも安心して老後を迎えるために、主に次の5つを整理していきました。
(1)「老後資金の必要額」を数字で確認する
最初に行ったのは、「老後にいくら必要か」を曖昧なままにしないことです。香織さんの家計データをもとに、65~100歳までの35年間にかかる生活費から、公的年金として見込まれる収入を差し引いて試算したところ、老後資金としては約6,600万円をひとつの目安に準備していく必要があることがわかりました。ただしこれは、65歳の時点で一度に6,600万円を持っていなければならないという意味ではなく、65歳以降の生活を見据えた将来必要額の目安です。
こうして必要額の全体像が見えることで、住まいや働き方、今後どの程度のペースで資産形成を進めていくべきかを考えやすくなりました。
(2)「購入」と「賃貸」を生涯コストで比較する
次に、香織さんが最も悩んでいた住まいについて、購入と賃貸を同じ条件で比較しました。
・現在の賃貸を続けた場合の100歳までのコスト:約9,000万円
・購入した場合の100歳までのコスト:約7800万円(都内・駅近の中古マンションを約4200万円で購入する前提。また、住宅ローンの返済額に加え、管理費・修繕積立金、固定資産税、購入時の諸費用、完済後にかかる住居費まで含めて計算)
このケースでは、購入のほうが100歳までに約1,200万円安くなる見込みとなりました。さらに、ローン完済後の住居費は、管理費・修繕積立金・固定資産税を月換算した月約5万円まで下がる見通しでした。家賃負担がなくなるぶん、老後の家計を軽くしやすい点が特徴です。
もっとも、賃貸という選択が必ずしも不利というわけではありません。試算上、65歳時点で見込まれる資産は約5,200万円で、賃貸を続ける場合に必要な目安である約6,600万円までは、約1,400万円の差がありました。
つまり、この不足分を今後の資産形成で準備できれば、賃貸を続けるという選択肢も十分に成り立つことがわかりました。
(3)収支を見直し、黒字をつくる
将来に向けた準備を進める上で、まず着実に取り組めるのが、毎月の黒字を増やすことです。香織さんの家計は、手取り月収34万円に対して月支出34.8万円と、わずかに赤字で、賞与で補填する形になっていました。そこで、固定費から順に、無理のない範囲で支出を見直しました。
通信費、交際費、生活費、イベント費などを整理した結果、年間約25万円の改善余地が見えてきました。この改善分をそのまま使うのではなく、将来に向けた積立や運用に回していくことで、家計の土台を整えていきました。
(4)運用を見直し、資産形成の効率を高める
老後資金を準備していく上では、ただ積み立てるだけでなく、いまある資産をどう運用していくかも大切です。
香織さんのiDeCoには480万円の資産がありましたが、その大半は債券を中心とした守り寄りの商品に配分されていました。43歳という年齢を考えると、まだ資産形成の時間を生かしやすい時期です。そこで、積立額は変えず、運用の中身を見直しました。
見直し後は、先進国株式を中心に、国内株式やバランス型も組み合わせた分散配分へ変更し、将来に向けて成長性も取り入れた形に整えました。大きくリスクを取りすぎるのではなく、老後資金準備という目的に合わせて、守りに寄っていた配分を少しずつ見直していくイメージです。
(5)万が一に備え、必要な保障を整理する
最後に、働けなくなった場合や病気・ケガに備える保障も整理しました。医療保険は入院費や治療費には役立ちますが、働けない期間の生活費まではカバーできません。シミュレーションでは、43歳で就業不能になった場合、約3年で貯蓄が底をつく可能性があることがわかりました。
そこで、まず優先して整えたのが就業不能保障です。就業不能時に月15万円を受け取れる保障を追加し、家賃や生活費を支えられる形を整えました。保険料は月3,500円程度で、固定費見直しの範囲内で吸収できる水準です。特に香織さんのように、家計を支える収入が自分ひとりに集約している場合は、医療保障だけでなく、就業不能時の備えまで含めて整理することが重要でした。
【結果とその後】漠然とした不安から、具体的な行動へ
香織さんが最も印象に残ったのは、シミュレーションで「現状のままだと将来の資金が厳しくなる局面がある」ことを、数字で見た瞬間だったそうです。一方で、必要額と対策がわかると、行動は早くなります。住まいは「購入が有利になりやすい」という事実を踏まえつつ、賃貸継続でも成立する条件(不足額の準備)がわかったことで、焦りが整理されました。現在は物件探しを進めながら、固定費削減による貯蓄ペースの向上と、運用・保障の見直しを同時に進めています。
1人で暮らしていく将来に不安があっても、必要な備えを数字で確認し、貯め方・増やし方・守り方を整理していくことで、見通しを持ちながら準備を進めていくことは可能です。今回のケースでも、不安を言葉のままにせず、具体的な数字と行動に置き換えたことで、次の一歩が踏み出しやすくなりました。





