辛いカレー、美味しいですよね。その日の気分や体調によって、カレーの辛さを自分で選べるお店も増えています。お笑い芸人であり、ラジオパーソナリティーとしても知られるオテンキののり氏が、ラジオの企画で訪れた「辛いカレーを出すお店」も、辛さの調整が可能だったそう。そこで新人ディレクターAくんが選んだのは、なんと辛さ3000倍カレー。この3000倍カレー体験、のり氏にとっては死んでも忘れられない体験になったようです。
今回はのり氏の著書『死んでも忘れられない話』(ワニブックス)より「辛さ3000倍カレーを食べた日」のエピソードをお届けします。
「辛さ3000倍カレーを食べた日」の巻
「辛さ3000倍カレー」ゾッとする言葉だ。
今から12年前、2012年11月15日。
自分がパーソナリティを務める文化放送『レコメン!』でリスナーに向けて「のり先輩が紹介してみた」的な企画で、色々なお店を紹介するコーナーがあった。「辛いカレーを出すお店」「失礼な店員がいるお店」「ハンバーガーの自動販売機でボタンを押すと自動販売機の中から手渡しされるお店」などだった。
私が期待していた「いやらしいお店」の紹介ではなかった。
「辛いカレーを出すお店」
辛いものは苦手である。新人ディレクターのA君とお店に向かう。
店主と打ち合わせを終えたA君は、私の元に戻るなり恐ろしいことを言った。
A君「のりさん、すいません。予算の都合で、3000倍までしか出来ないんですが、大丈夫ですか?」
どんな日本語だ!
「なんで3000倍なんだよ!」って私が怒ると思うかね!?
何に対する謝罪と心配だ!
あの孫悟空ですらフリーザ戦で界王拳20倍だぞ!
アンパンマンだって元気100倍だ。3000倍って!
緊張と不安と憂鬱の感情の波が、フラッグフットボールかのように入れ替わり立ち替わり私を襲ってきた。大雨の中、歯医者さんで順番を待っていたら、彼女からの別れ話のメールが来たような気分だ。
辛さ3000倍カレーに挑戦することになるとは……。
私はきっと前世で、神様にお供えした食べ物を食べてしまったか、解いてはいけない封印を解いてしまったのだろう。その罪を今世で償わなくてはならない時が来たのだ。
そうでなければ、3000倍カレーを食べることなんて人生でそうそうないであろう。
背中を丸め小さくなっている私に、店主の「お待たせしました」が突き刺さる。
「待ってねえよ!」と思わず言いそうになるほどの恐怖。
初対面した3000倍カレーは赤かった。別に照れている訳ではない。
見るからに辛そうだ……。
「えーい! どうにでもなれ!」
一口、恐る恐る口に運ぶ。
出て来た言葉は、まさかの「旨っ」。
驚きだった! メチャクチャ旨い!
A君「のりさん、どうですか?」
私「いや、美味しい。ビビって損した。これだったら、食べられ……ギャーーーー!!」
舌の上で何かが燃えている。火事だ! 毛穴から汗が吹き出した! スプリンクラーが発動した。
私「ちょ、ちょっとコレなんですか!?」
店主「3000倍カレーです」
私「知ってるわ!! これは放火ですよ。あ〜ヤバい! 実家の全焼を思い出す」
ゲラゲラと笑う2人。実に楽しそうだ。
食べる度に「君にはラジオの才能がない」と辛口ギャグをA君にぶつけ、「口の中が焦げ臭くなってきた」と言ってはリアクションをとっていた。私が「もうそろそろ良いんじゃないかな〜」と思っていた時、店主もそれを感じたのか、「やっぱりこういうロケって食べ切らずに終わるもんですよね?」と悲しそうな顔をした。
私の心に火が付いた。
どれだけ火を付ける1日だ!
私「他は知らないですけど、私は食べますよ。美味しいですから」
出された物を残すのは性に合わない。そんなことをしたらデブ失格だ。
旨いと言ったからには責任を持たなくてはいけない。
A君「のりさん無理しないほうが……」
いやいや、お前が言うな!
本当の戦いが始まった。
ギャーギャー言いながら半分くらい食べたが「やっぱりダメかなぁ〜」と諦めかけたその時、店に貼っていた「完食成功」の貼り紙の中に、私の前任者パーソナリティの名前があった!
また私の心に火が付いた。大火事だ! 何故か?
「前任者も同じ番組でここに来て挑戦して成功している。絶対に負けられない!」ではなく「彼氏が元カノと来ていた店に、初めて来た感じで来た」に近い嫉妬だ。
今、考えればどうでも良いことだが、担当を変わって1年目の私には大きな問題だった。
しかも向こうは500倍。
「フッ……話にならぬわ」
そこからの私は『鬼滅の刃』で言うところの、兄弟子の「獪岳」が鬼になった責任をとり「元鳴柱の桑島慈悟郎(爺ちゃん)」が亡くなった手紙を読んだ「善逸」のように変わった。
刀をスプーンに持ち替え「霹靂一閃」の電光石火で口に運ぶ。
本来なら煉獄さんのように「旨い! 旨い! 旨い!」と食べたいところだがそんな余裕はない。
A君も「大丈夫ですか?」と水をジャブジャブ注いでくれる。
後にドラマを見て知ったが、水を飲めば飲むほど辛さは増すらしい。
実にA君らしい。あの野郎!!
しかし、もう私の舌は辛さを感じなくなっていた。
「カレーライス・ハイ」になった。その力を借りて私は完食した。
口の周り、食道、お腹の中まで熱かった。
店主の「完食おめでとうございます。凄いですね!」。
嬉しかった。
私「いや、美味しかったから食べられました」
これは本心だった。
「3000倍カレー完食! オテンキのり」の張り紙。
張り紙に余白があったので、3000倍カレーを食べてダジャレを思いついた。
「あめはあめ〜。カレーはかれぇじゃないんかい!」と渾身のボケを伝えた。
後日、出来上がった貼り紙を見て後悔をした。
カレーライス・ハイは恐ろしい。
もっと恐ろしいのは、「便座は友達」と言わんばかりにトイレから出られなかった。
ケツから「太陽の欠片が出てるのか?」と思うほどケツが熱かった。
もっともっと恐ろしいのは、オシッコの時にも先っちょが熱く痛い。
恐るべき3000倍カレー。
トイレに行くたびに「アチチ、アッチ燃えてるんだろうか?」と郷ひろみさんもびっくりの『GOLD FINGERʼ99』状態になる。
もっともっともっと恐ろしいのは、その日の夜、生放送だったこと。内臓という内臓がぐったりしているのがわかった。しかしカレーライス・ハイのおかげで楽しい放送となった……はず。
初めてトイレから生放送をお送りした。
なかなかな番組である。
みなさんも辛い食べ物を食べる時はお気をつけて。
焦らず2999倍くらいから初めてみて下さい。(テヘ)
オテンキのり:ラジオ番組のパーソナリティーを中心に幅広い活動を展開中。2001年にお笑いトリオ「オテンキ」を結成。浅草で人力車夫のバイト経験有。

