春の健康診断シーズン。健康診断で「要経過観察」と書かれても、、「とりあえず様子見」と放置していませんか? 藤保クリニック院長で糖尿病専門医の飯島 康弘先生は、「健康診断は試験ではありません」と指摘します。本記事では、血糖・脂質・肝機能などの数値をどう受け止めるべきか、見落とされがちなポイントを解説します。
健診の数値、放置してませんか? ——「要経過観察」の罠。血糖・脂質・肝機能、「放置していい数値」はない
毎年春になると、企業の健康診断がスタートします。外来にも「健診の結果を持ってきました」という患者さんが増える季節です。
そのとき私がいつも感じるのは、みなさん健診の結果に一喜一憂しすぎている、ということです。
「先生、A判定でした!」と安心しきっている方。「C判定が出ました……もう手遅れですか?」と深刻な顔の方。どちらも気持ちはわかりますが、どちらも少しずれています。
健康診断は「試験」ではない
健康診断は試験ではありません。合格・不合格を決める場でもなければ、A判定をもらって安心するための場でもない。あなたの体が「今、どういう状態にあるか」を知るための、いわば定期点検です。車検と同じだと思ってください。
「要経過観察」は、放置していいという意味ではない
健診結果で最も誤解されやすいのが、「要経過観察」という判定です。
外来で印象に残っているのは、ある40代の男性患者さんの言葉です。「先生、要経過観察って書いてあったので、そのまま様子を見てたんです。3年くらい」。結果を見ると、空腹時血糖は毎年じわじわ上がり、HbA1cは6.5%を超えていました。3年間の「様子見」の間に、糖尿病の診断基準に達していたのです。
この方が悪いのではありません。「要経過観察」という言葉が、あたかも「今は何もしなくていい」と読めてしまう仕組みに問題があります。実際には、「要経過観察=次の健診まで放置していい」ではなく、「今すぐ治療は不要だが、生活習慣を見直し、数値の推移を追う必要がある」という意味です。
つまり、経過を観察するのはあなた自身であり、できれば医療者と一緒にやるのが理想です。
過信する人、怯える人。どちらも損をしている
健診結果の受け止め方には、大きく2つのパターンがあります。
ひとつは「過信する人」。A判定やB判定で「問題なし」と思い込み、それ以降の生活を何も変えない。しかし、健診は年に一度のスナップショットにすぎません。撮影日にたまたま数値が良かっただけで、364日の生活習慣が健康とは限らない。外来では、「去年はA判定だったのに、今年いきなり糖尿病と言われました」という方を本当によく見ます。数値は急に悪くなったのではなく、去年の時点で境界線のすぐ手前にいた可能性が高いのです。
もうひとつは「怯える人」。C判定やD判定が出た瞬間に、ネットで最悪のケースを検索し、「自分はもうダメだ」と落ち込んでしまう。しかし、健診で異常値が見つかったということは、体が「今なら間に合うよ」とサインを出してくれたということです。見つかったこと自体は、むしろ幸運です。
過信も、過度な不安も、どちらも正しい行動から遠ざけてしまいます。
受けただけで、まず立派
ここで一つ、大事なことをお伝えしたいのですが、健康診断を受けたこと自体が、もうすでに立派な一歩です。
実は、健診を受けていない人は想像以上に多いです。厚生労働省が公表した2023年度の特定健診(40〜74歳対象)の実施状況によると、全体の受診率は59.9%。つまり、約4割の方が受けていません。
しかも保険の種類によって大きな差があります。大企業の健保組合や公務員の共済組合では受診率が80%前後ですが、自営業・フリーランス・非正規雇用の方が多い市町村国保では約37〜40%にとどまります。国保の方は、受けていない人のほうが多いのが現実です。
この差の最大の理由は「会社が勝手に予約してくれるかどうか」です。被用者保険の方は、会社が健診を手配してくれるので、何もしなくても受ける流れに乗れます。でも国保の方は、自分で予約し、自分で足を運ばなければならない。この一手間が、受診率に直結しています。
だからこそ、健診を受けたこと自体がすでに立派な一歩です。「受ける」という行動を取れた時点で、自分の健康に向き合おうとしている証拠です。そこは自分を認めてあげてください。
そのうえで、次に大切なのは「結果を正しく受け止めること」です。
次回予告:HbA1c 5.6——「境界線上の人たち」のリアル
次回からは、健診で実際に見つかりやすい数値を具体的に取り上げていきます。
第2回は「血糖値」編です。空腹時血糖やHbA1cの数値が「正常」と「異常」の間にいる人たち——いわゆる境界型の方が、外来では最も多く、そして最も見逃されやすいのが現実です。少しマニアックな話も交えながら、データの読み方をわかりやすくお伝えします。
健診の結果を、「怖いもの」から「使えるもの」に変えていく。この連載が、そのきっかけになれば嬉しいです。
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