「すべての場所をテーマパークに変える」。ヤマハ発動機が、新たなモビリティ向け位置情報サービス「Mobilit.E.S(モビリテス)」を発表した。

モビリテスは「移動そのものの価値を高める」を目的に、観光や街歩きをより充実させる仕組みとして開発。4月3日にはYamaha E-Ride Base(神奈川県・横浜)でメディア向け体験会も行われ、新ビジネス開発部の込宮正宏さんは「移動することが、もっと楽しく、もっと学びになる」というコンセプトに込めた狙いや背景を説明した。

ヤマハ発動機の新サービス「モビリテス」始動

「感動創造企業」を掲げるヤマハ発動機。次のステージとして着目したのが「移動そのもの」の価値向上だ。込宮さんはこれまで、時速20km未満で公道を走る電動車「グリーンスローモビリティ」事業に携わるなかで、観光地が抱える切実な課題を耳にしてきたという。現場から聞こえてくるのは、ガイド不足やインバウンド対応の難しさ、周遊させる仕組みの弱さなどを嘆く声だった。

  • ヤマハ発動機 新ビジネス開発部 込宮正宏氏

    ヤマハ発動機 新ビジネス開発部 込宮正宏氏

これらのニーズを汲み取り、エンタメの力で解決しようと誕生したのが「モビリテス」だ。「音声ガイドとエンタメ的演出で、『移動がもっと楽しくなる、学びになる』といったコンセプトで作りました」と込宮さんは語る。開発パートナーには、大手ゲーム開発や大規模ITイベントの実績を持つ沖縄のクリエイティブカンパニー「あしびかんぱにー」を迎えてシステムを構築した。

  • 例えばグリーンスローモビリティで観光地を巡り……

    例えばグリーンスローモビリティで観光地を巡り……

  • 指定エリアに入ると音声ガイドがスタート。グランモール公園では「みなとみらいを南北につなぐ都市の軸となっている場所です。
季節の花やイベントが開かれ、人々が行き交います」といった音声ガイドが流れた

    指定エリアに入ると音声ガイドがスタート。グランモール公園では「みなとみらいを南北につなぐ都市の軸となっている場所です。
季節の花やイベントが開かれ、人々が行き交います」といった音声ガイドが流れた

モビリテスの最大の特徴は、GPSの位置情報を活かし、現実そのものをエンタメ空間に変える点にある。込宮さんは「各地にいろんな情報を埋め込むことで、音声だけではなくて、ARやプロジェクションマッピング、照明演出など、外部と機器を連動して体験を提供することができます」と、既存のガイドサービスとの違いを強調する。

  • 音声ガイドが流れるスポット一覧はマップで確認可能

    音声ガイドが流れるスポット一覧はマップで確認可能

ロールプレイングゲームのような体験も

また、そのゲーム性の高さも特筆すべき点だ。例えば、特定のスポットを訪れた際、1回目と2回目で流れる内容を変えたり、指定した場所を通過した場合にのみに次のストーリーが解放されたりといった作り込みが可能で、「課題やクエストをこなしていくことで体験が変わる、リアルなロールプレイングゲームのようなシステムとなっています」と込宮さんは解説する。

その日の天候や時間に合わせて演出を変える機能も備えている。「観光地などでは雨などが降るとネガティブになってしまいますが、雨が降ったからこそ楽しいところを案内してくれたり、春であれば桜が見えるスポットを案内できるようなシステムになっています」(込宮さん)。

  • モビリテスの編集画面。対象エリアをピンで囲うことで、指定した音声ガイドが流れるよう設定できる

    モビリテスの編集画面。対象エリアをピンで囲うことで、指定した音声ガイドが流れるよう設定できる

「使いやすさ」にもこだわり

モビリテスは基本的に「BtoB」向けのサービスだが、運用側の“使いやすさ”についても多くの配慮がなされているという。ブラウザ上で動作する専用の編集ツールは完全なノーコード仕様。込宮さんは「ブログやCMSを触ってきたような方であれば、問題なく運用できるような直感的な作りになっています」とその手軽さをアピールする。従来の音声ガイドサービスのように、「一度納品されたあとは修正が困難」といった運用上のボトルネックもない。

  • 当日の天気によって音声ガイドなどを自動で変更できる設定も用意

    当日の天気によって音声ガイドなどを自動で変更できる設定も用意

また、モビリテスは専用アプリのインストールが不要。自身のスマートフォンのブラウザでQRコードを読み取るだけですぐに利用できるなど、エンドユーザーの使い勝手のよさにも徹底的にこだわっている。

  • 安全に配慮し、運転者と同乗者(もしくは歩行者)ではアプリの利用方法も変わる。運転者の場合、時速6km以上になると画面は自動でブラックアウトする仕組み

    安全に配慮し、運転者と同乗者(もしくは歩行者)ではアプリの利用方法も変わる。運転者の場合、時速6km以上になると画面は自動でブラックアウトする仕組み

「アプリの容量を圧迫することや、自分の情報が取られていないかといったセンシティブな懸念を払拭するために、ブラウザで使用するウェブアプリというかたちをとっています」と込宮さん。通信環境の悪い場所でも動作が止まらないよう、最初に全てのデータを一括ダウンロードする仕様も採用しているという。

退屈な「移動時間」を変える

北海道の奥尻島ではすでに社会実装がスタートしており、自然の名勝や島の文化、食をシームレスに紹介する「奥尻島、ギフトトリップ」が始動。込宮さんは今後の展望について、「日本の強みであるキャラクターの音声とか、エンターテインメントのノウハウをどんどん拡大していく」とし、テーマパークやゴルフ場、地方自治体との協業を加速させる意向を示した。

観光中の移動時間は、これまであまり価値が見い出しにくい部分でもあった。が、ヤマハ発動機の「モビリテス」は、その移動そのものを体験に変える。観光のあり方に新しい選択肢を提示する取り組みとして、今後の展開が注目される。