今年俳優デビュー40周年を迎える鈴木保奈美。1986年のデビュー以降、数々のドラマや映画、舞台に出演。第一線で活躍し続けつつ、近年はインスタグラムでも仕事やプライベートの近況を発信して注目を集めている。4月5日からNHK BSプレミアム4KとBSで放送されるプレミアムドラマ『対決』(毎週日曜22:00~)では医大の理事・神林晴海役を演じる鈴木に、同ドラマや長く続けてきた俳優業への思い、SNSへの向き合い方など話を聞いた。
『対決』で演じる“自問自答をずっと続けている人”
同ドラマは、月村了衛氏の同名小説(光文社)が原作。幸せを願い、理不尽に立ち向かう女性たちを描く社会派エンターテインメントだ。ある医大が入試の採点過程で女子の点数を意図的に下げているという噂を耳にした新聞記者の檜葉菊乃(松本若菜)は、医大の理事・神林晴海(鈴木)に目をつける。追及をかわす神林だが、檜葉は粘り強く核心へと迫っていく。脚本は渡邉真子氏、演出は池田千尋氏、小菅規照氏が担当する。
医大の理事・神林は、ジェンダー差別やハラスメント撤廃が唱えられる中で、なお残る矛盾やゆがみに憤りを感じているが、大学組織を守る立場として、松本若菜演じる主人公の檜葉と対峙する人物。原作を読んだ当初は、クールで信念に一直線な女性をイメージしていたが、徐々にその認識は変わっていき、「常に悩んでいて、正しさを探している人、自問自答をずっと続けている人」だと考えるようになったと鈴木。そんな神林の一面に共感する部分もあった。
「すべての人に納得してもらえる答えやすべての人が幸せになれる答えは、なかなかないと思うんです。でも、絶対に選択しなければいけない時はあって、それは誰もが直面すること。神林がそこでウジウジと悩み、1人で悶々としてしまうところには共感します」
演じる神林は、医大の事務局で学内改革に取り組み、異例の抜てきで理事になった女性だ。鈴木は、昨年配信されたABEMAオリジナルドラマ『スキャンダルイブ』では芸能事務所の社長役を演じており、大きな責任を伴うポジションの役柄が続く。「それは年齢のせいですね」と笑いつつ、自身も、現場で下の世代へ何かを与えなければならない責任を感じているという。
「本作には、神林晴海の恩師・小山内源壱役で石坂浩二さんが出演されるのですが、その存在から私はものすごい熱量を受け取って、『すてきだな』と思いました。おかげで私も頑張れたし、そんなふうに存在してくださることに感動したんですよね。だから『あ、自分もそろそろ年齢的に、若い方に何かそういう熱量を届けられる側にならなくちゃ、そういう責任を感じなくては』とは思っています。まだまだできていないのですが(笑)」
対峙する檜葉役の松本については「こういう言い方はよく聞こえないかもしれないけど……」と前置きしたうえで、「いい意味で“ど根性な人”だなと思いました」と印象を明かす。「外見から、繊細で華奢なイメージがあるかもしれないですけど、太い芯が“どん”とある方で、かっこいいなと思いました」とその魅力を語る。
「本当にできんのか、お前?」続けてきた自問自答
ドラマのタイトルは『対決』。長いキャリアを持つ鈴木は、果たしてこれまでの俳優人生でどのような“対決”をしてきたのだろうか。そう尋ねると、ふっと笑顔を浮かべて「対決、あったかな……」とつぶやき、しばし沈黙したのち、「やっぱり、自分との対決、ですね」と口にする。
「『明日のこのシーン、お前できるのか』『お前、これだけのセリフを覚えられるのか』という、自分との対決が大きいかな。今回もそうですし。オファーをいただいて、原作を読んで『わ、やってみたい。やらせてください』と言いつつ、『本当にできんのか、お前?』と(笑)。そんな自問自答は、常にしています」
1986年にデビューし、俳優として40周年を迎える鈴木。子育てで一時活動を休止していたことから、自らは「むしろ長く続けてこられた方々を尊敬している立場です」と控えめに語るが、自分との“対決”を繰り返して40年、第一線で活躍してきたことは揺るぎない事実だ。そんな鈴木が、働くうえで大事にしてきた思いは何か。そう聞くと、「やっぱり、シンプルにこのお仕事が好きなんだと思います。それだけだと思います」ときっぱりと語る。
「思うようにできなかったり、できなくて悔しかったり、反省したり、睡眠時間がなかったり、屋外での撮影は寒かったり暑かったり……いろいろ大変なこともありますけど。それでも『やりたい』と続けてこられて逃げようと思わなかったのは、やっぱりただシンプルに好きなんだろうな、と思います。たとえば翌日に本番を控えている時、『逃げちゃいたい』とは思わないんですよね。だめだったとしても、だめだと判定してもらいたい気持ちもあって。……結局、好きなんですよね。どんなに落ち込んでも『二度とやるもんか』とは思わず、結果的に今まで続けているので、『そっか、好きなんだなあ』と後から納得しています」
インスタグラムに込めた“ある思い”
6年前からはインスタグラムも始めた。俳優は出演作などを視聴者に宣伝する機会がないと感じていたとき、当時共演していた常盤貴子から勧められたのがきっかけだった。今は出演作の宣伝はもちろんだが、強風に吹かれているという設定のボサボサな髪型や、恒例となっている読んだ本の紹介、大学共通テストの結果など、さまざまな内容で近況を報告している。そこには、鈴木が視聴者に届けたい“ある思い”があった。
「どんなイメージで見られてもいいんですが、『いや、こんなこともできますよ』ということも時々お知らせしたら面白いんじゃないかなって。こうしてきれいな衣装を着させてもらってヘアメイクしてもらって、俳優です、なんてやっているけど、雲の上みたいなところにふんぞりかえっているわけではなく、普通にご飯を食べて、普通に生きている人間なんですよ、と思っていただけたら。ドラマや舞台を見ていただく時に『同じ人間だよね』『同じ59歳だよね』と思っていただけたら、より作品を楽しんでいただけるんじゃないかな、という気持ちもあって。今は昭和の昔と違って、どんどん情報は出回るし、どんなに隠してもどうせ素性はバレるので(笑)。それなら、そこも含めて共感していただいて楽しんでもらうのも、我々の仕事の一部かなと思っています」
そう思いを語る鈴木。最後に今後のビジョンを尋ねると、「全然、展望は持っていない人間なんです」と言い、こう続けた。
「自分が持つ展望なんて、たかが知れていると思っているので。それよりは、いろいろな方に声をかけていただけるように、私が思いつかないような面白い、新しいことに誘っていただけるように、一つひとつ、目の前のことに全力投球して……あとは体力。何があっても応えられるように準備をしていこう、と常に思っています」
■プロフィール
鈴木保奈美
1966年8月14日生まれ、東京都出身。1986年に俳優デビュー。1991年に主演したフジテレビの月9ドラマ『東京ラブストーリー』がきっかけで大ブレイクし、その後も1992年の『愛という名のもとに』、1994年の『この世の果て』、1995年の『恋人よ』など、主演したフジテレビドラマがいずれもヒットした。近年でも、NHKの連続テレビ小説『ちむどんどん』(22)、TBS系『SUITS/スーツ』(18・20)、テレビ朝日系『プライベートバンカー』(25)、フジテレビ系『人事の人見』(25)、ABEMA『スキャンダルイブ』(25)など幅広い作品に出演している。舞台『汗が目に入っただけ』4月3日より上演。



