これまで数多く誕生してきた名機たち。それら人気機種には、デザイン面で共通する部分があると大森氏は捉えている。

「すべてのデザインが、“遊技中の体験に奉仕している”という点が共通していると思います。やはり、デザインは単純な“化粧”ではない。それぞれには意味があって、機能性を持ち合わせています」

色彩、発光、ロゴ──細部に込めた“導線”の設計が、スムーズかつ唯一無二の遊技体験を支えている。

「良い機種ほど、見た瞬間に世界観が伝わる。そして、遊技中には情報が迷子にならずに、当たるまでの過程が強く記憶に残る。こうした没入感に繋がるサポートを徹底してできているのが、人気機種の証しだと思います」

成長し続けるための“大きな資質”とは

「パチスロとは何か」──。その本質を問う声に対して、大森氏は仕事と向き合いながら自問自答し続けている。

「時代が進んでいくと、確実に筐体は進化します。そうなるとグラフィックの掲載点数は必要最低限に精査されて削られていく可能性が高い。そんな中でも、“化粧パネル”は絶対に必要だと思っています」

そして、彼の中で最も強く残るのは、やはりリールへの思いだった。

「パチスロをビデオゲームでやったときと、実際に目の前で回転するリールで打つのとでは、全く異なる遊技体験になります。私が好きなのは、“本物”を回して止めるパチスロ。時代は進んでも、そのような“リールを残したパチスロ”は残っていってほしい。これは、一プレイヤーとしての願いでもあります」

これからグラフィックデザイナーを目指す人に向けて伝えたいこと。大森氏は謙遜しながらも、自身の足跡とも重ね合わせながら引き締まった表情で言葉を紡ぐ。

「『好きこそ物の上手なれ』です。デザインが好き、絵を描くのが好き、パチスロが好き。そのどれか1つでも当てはまるなら、それはパチスロのグラフィックデザイナーとして成長し続ける大きな資質だと思います」

好きなことだから乗り越えることができた

かつてYouTubeの「好きなことで、生きていく」キャンペーンが展開され、世間をにぎわせた時代があった。HIKAKIN、はじめしゃちょーといったYouTuberの成功者たちのメッセージは鮮烈で、子どもたちの「なりたい職業ランキング」でも上位に食い込むなど大きな影響を与えた。それから十数年の時を経て、彼らがときに苦しみながら「好きなこと」を成立させてきたことは、多くの人の知るところだろう。「好きなこと」からグラフィックデザイナーにたどり着いた大森氏も、それを実感した一人だった。

「好きなことをやるのは、実は苦しいことでもあるんですよね。好きなものの理想に現実がなかなか追いつかないこともあるので。それでもなんとかくじけずやって来られたのは……やっぱりそれが自分にとって“好きなこと”だから。それがあったからこそ、自分の中でうまいこと乗り越えて来られたのだと思います。好きなことであれば、たいていのことは何とかなる!」

“好きなこと”が引き寄せたパチスロ鉄拳2ndという大役は、最新作「スマスロ鉄拳6」まで受け継がれている大人気シリーズとなった。しかし、得たものは達成感だけでない。重いバトンを繋ぎながら、後任者が走り抜けていく姿を目の当たりにしたことは、大森氏にとって大きな財産だ。

「私はパチスロ鉄拳2ndのあとにパチスロ鉄拳5を担当したのですが、その間のパチスロ鉄拳3rdは、この業界でも三本の指に入ると思えるほどのすごいデザイナーが担当しました。本当に3rdはビックリするぐらい進化をしたんですよ! あらためてその方の偉大さを感じました……様々な要素を兼ね備え、より良い形の大進化を遂げたのです」

「その方はパチスロよりもデザインを好んで情熱を注いでいらっしゃる方ですが、何かの情熱があれば、未経験の世界でもそこまでの存在になることができるのだと、これからこの業界を目指す人にもぜひ伝えたいです」

大森氏が語るグラフィックデザイナーの世界は、決して“見た目の派手さ”を競う仕事ではない。そこには、機能性と演出の融合、そしてユーザー体験への一途で徹底した想像力と、緻密な計算が細部にわたって宿っている。

人気機種は、決して偶然には生まれない――“鉄拳”のごとく固く拳を握り締め、大森氏は今日もまた、新たな機種に情熱を注ぎ続ける。