2027年4月1日付で廃止を予定している津軽線蟹田~三厩間の代替交通として、JR東日本と沿線2町、青森県タクシー協会など6者は1月7日、「NPO法人(特定非営利活動法人)いまべつ外ヶ浜交通」の設立を青森県に申請した。現在、JR東日本が運営する乗合タクシー「わんタク」と、外ヶ浜町、今別町が運行している町営バスを統合し、蟹田~三厩間の沿線地域・沿岸地域を結ぶ計画で、公共交通の課題をまとめて解決するという。
JR津軽線は2022年8月の大雨被害により、第一今別橋りょうと枝沢橋りょうが損壊したほか、大平~津軽二股間で盛土の流出など12カ所、津軽浜名駅~三厩駅間で1カ所の被害があり、蟹田~三厩間の旅客列車が不通となった。その前月に実証実験が始まったデマンド型乗合タクシー「わんタク」と「つがるん」も一部区間の休止と迂回に追い込まれた。JR東日本は当初、鉄道復旧を検討したが、河川や山林工事の関係機関との調整に時間がかかり、降雪期の融雪水による河川の増水、地盤の緩みを考慮すると、復旧のめどが立たなかった。
JR東日本は同年12月、蟹田~三厩間についてバスと乗合タクシーによる代替交通を提案した。その後、約2年半にわたる協議の結果、2025年にJR東日本盛岡支社、青森県、今別町、外ヶ浜町が2027年4月1日付の鉄道事業廃止で合意。代替交通の検討が始まり、結果として「デマンド型乗合タクシーと町営バスの統合」に至った。運行開始は2027年4月からの予定。少なくとも18年以上の運行継続をめざす。これに関して、「沿線でこれから生まれるこどもたちが成人(18歳)するまでの交通を保証する」という見方もできる。
地元紙の「Web東奥」電子版によると、JR東日本はNPO法人に18年分の運行経費として約33億円を出資するほか、準備期間である約2年間の必要経費も負担するという。
蟹田~三厩間は被災前から運行本数が少なく、外ヶ浜町や今別町が町営バスで並行ルートを運行していた。被災後は代行バスに加えて、JR東日本が実証実験中だった「わんタク」を代替交通手段として運行継続した。その結果、沿線地域は3者による公共交通が重複した。それ以前に、町営バスは町内の運行を原則としているため、2つの町を行き来する場合、町境でバスの乗換えが必要となり、不便だった。こうした問題を文字通り「交通整理」し、地域にふさわしい「新しい公共交通」をつくる。それが「いまべつ外ヶ浜交通」の課題となる。
JR東日本などが運行する「わんタク」はデマンド型の乗合タクシー。利用者の要求(デマンド)に応じて乗降でき、利用者が重複する区間は相乗りになる。「わんタク」の「わん」は地元の言葉「わんど(私たち)の」に由来する。「わんタク」は定期運行型の「わんタク定時便」と、随時呼び出せる「わんタクフリー便」がある。
「わんタク定時便」はルートと運行時刻を固定している。津軽線と併走しつつ、蟹田駅から龍飛岬灯台まで4往復を運行。乗降所を設定しつつ、ルート上であればどこでも降車できる。ただし、乗降所以外での乗車は予約が必要となる。「わんタクフリー便」はフリー乗降エリアのどこでも乗降可能だが、利用する際に予約が必要。「わんタク定期便」は前月から1週間前まで、電話またはインターネットで予約を受け付ける。「わんタクフリー便」の予約は1週間前から60分前まで受け付け、料金は中学生以上が1回500円。小学生以下、高齢者、運転免許返納者などが1回300円となっている。
外ヶ浜町循環バス(町営バス)は蟹田地区と陸奥湾沿いの平舘地区、三厩地区で運行。外ヶ浜町は今別町を挟んで飛び地となっている自治体のため、蟹田側と三厩側でそれぞれバスを運行している。料金は1人1乗車100円。2つの地区をまたがる場合は200円となる。
今別町巡回バス(町営バス)は、今別駅を中心に奥津軽いまべつ駅方面、三厩駅方面、平舘回転所方面などを運行している。平舘回転所は旧青森市営バス元宇田回転所であり、ここで原則として外ヶ浜町循環バスの平舘~蟹田方面に接続する。料金は1人1回200円。乗り換えても目的地まで200円。町内の医療機関に通院する人は、診察券を提示すると100円に。高校生以下、福祉乗車証を提示した人は無料となる。
「いまべつ外ヶ浜交通」の運行時刻・料金等はこれから検討し、発表するという。乗合タクシー、それぞれの町営バスは運賃も運行区間も異なる。バス路線をどのように再編していくだろうか。唯一、陸奥湾沿岸の外ヶ浜町、今別町のルートが統合されて、乗換え不要になることだけは安心材料といえるかもしれない。
これは筆者の予想だが、「わんタク定期便」のルートを増やし、「わんタクフリー便」のフリー乗降エリアも維持する。つまり、広大な「わんタク」ルートができ上がり、そこに町営バスの路線が組み込まれることになるだろう。
そうなると、いままでの町営バスの料金は値上げになってしまうかもしれないが、値上げも納得の便利さが提供されるはず。その鍵は「オンデマンド配車サービス」にある。1日にわずかな本数の定期運行バスを待つよりも、乗りたいときに来る乗合タクシーのほうが便利。高齢者が大きな荷物を持っていても、乗合タクシーの運転手が手伝ってくれるだろう。
広域なAIオンデマンド交通のモデルケース
津軽地区の「わんタク」は、2021年8月の週末とお盆期間に実施した実証実験がルーツとなっている。東北新幹線「はやぶさ1号」の予約状況から奥津軽いまべつ駅の降車客数を把握し、乗合タクシーの利用人数を予測して最適な配車を行う。従来は奥津軽いまべつ駅で下車した後、津軽線で三厩駅まで行って外ヶ浜町営バスの2回乗継ぎだが、実証実験では東京駅から乗継ぎ1回で本州最北端に到達できた。復路は「はやぶさ34号」に接続した。
この実証実験に、JR東日本盛岡支社、JR東日本スタートアップ、電脳交通、奥津軽観光(タクシー会社)が参加した。翌年(2022年)は規模を広げ、7月1日から9月30日までの毎日、フリーエリア型の「わんタク」を運行した。その発展型が2023年の実証実験で、「わんタク定時便」と「わんタクフリー便」を設定。2023年に実証実験を行う中、大雨災害に見舞われた。「わんタク」は津軽線代行バスとともに、地域の交通機関として運行を継続した。
この実証実験において、オンデマンド交通システムの鍵を持つ会社が「株式会社電脳交通」である。本社は徳島市にある。同社社長の近藤洋祐氏は、親から赤字のタクシー会社を引き継いだが、コンピューターを使った配車システムで車両とドライバーの効率アップに成功。業績を回復した。その配車システムを他社に提供するため、電脳交通を創業した。
地方のタクシー会社は零細企業が多く、配車係はドライバーや事務方、場合によっては社長が担うこともある。ドライバーが担当すれば稼働車は減るし、電話応対があるため、本来の業務は配車業務の隙間時間に行わなければならない。そこで、電脳交通はクラウド型タクシー配車システムを開発・提供。タクシー利用者は電話またはインターネットで予約するが、電話応対も配車システムも徳島の本社で行う。配車専門の従業員を雇わなくても、車両を効率的に配車できる。このシステムがヒットし、契約数を伸ばしていった。
こうしたオンデマンドサービスにより、自治体の公共交通サービスはかなり効率化された。バスの運行本数はそれぞれの路線で1日に数本程度。これでは利用者の行動がバスの時刻に縛られ、不自由になる。一方、AIを使ったオンデマンドサービスを使えば、需要を予測して待機しつつ、利用者の都合で配車し、バスを運用できる。利用者はもうバスを待たなくていい。
業務の効率化にも貢献する。たとえば、ある自治体が3方面のバス路線を持ち、それぞれに2台のバスをあてていたとする。路線バスを廃止し、AIオンデマンドバスに切り替えると、じつはバス4台で1日の需要をまかなえてしまった。自治体は2台分の保守コストを削減でき、利用者はバスを待たなくて済むようになった。こうした事例が地方自治体で増えている。
その意味で、「いまべつ外ヶ浜交通」は地方における公共交通の新たなモデルケースになると考えられる。「わんタク定期便」の沿線、「わんタクフリー便」の対象エリアには、龍飛岬以外の観光スポットもある。地域の人々だけでなく観光客にも使いやすい交通のありかたを示せば、全国に波及すると思われる。
今後、自治体が運営するバスもAIオンデマンドバスに切り替わるだろう。自治体によっては赤字ローカル線に支援金を拠出するより、AIオンデマンドバスに切り替えたほうが低コストで、住民サービスの向上になる。マイカー利用より公共交通を選ぶ人が増えるだろう。理想的な形として、AIオンデマンドバスがローカル線の駅を拠点に展開すれば、鉄道への集客につながるかもしれない。



