あらゆる乗り物の祭典として賑々しく始まった「ジャパンモビリティショー2025」(モビショ―、会期は11月9日まで)。ブースを構えるヤマハ発動機は、どんな未来を提示しようとしているのか。社長が登場したプレスカンファレンスに参加し、会場を取材してきた。
世界初公開の「MOTOROiD:Λ」がパフォーマンスを披露
初音ミクとアーティストのコラボでスタートしたヤマハ発動機のプレスカンファレンス。登壇したヤマハ発動機社長の設楽元文さんは、初音ミクを起用した意図をこう説明した。
「モノづくりの音から始まる人とモビリティの物語。互いに寄り添いながら響き合い、やがて感じて動き出す。そうした感動の根源を、ブランドを共にするヤマハ株式会社の立体音響技術を用いて紹介しました」
続けて、今年で創立70周年を迎えたヤマハの創業者・川上源一にも言及。「人や社会に生活を楽しむことを広げたい」という強い信念を持つ人物であり、「当社の歩みは製品やサービスを通じてその実現に取り組んできた70年」だったと総括した。
ヤマハは現在、カーボンニュートラルの実現に向けて全方位で取り組みを加速させている。例えば、自社工場ではカーボンニュートラルの達成目標を前倒しし、製品への対応についてはマルチパスウェイで研究開発を進めているという。
これらの取り組みの一端は、ヤマハブースの「PROTO BEV」「PROTO HEV」「PROTO PHEV」「H2 Buddy Porter Concept」や自動車用電動駆動ユニット「e-Axle」などで確認できるとした。
また、ヒトとマシンの新たな関係を探る概念検証を目的に発足した「MOTOROiD」プロジェクトが新章に突入。今回、ヤマハブースのステージ上では、AI技術で学習し、自ら成長するモビリティ「MOTOROiD:Λ」がパフォーマンスを披露した。
設楽さんは「彼(MOTOROiD:Λ)ができることは、まだ3歳のお子さん程度かもしれません。しかし、ライダーと共に経験を重ね、学習していくことで、やがては社会性や協調性をも身につけて、心まで通いあうパートナーに成長していくことでしょう」と期待を寄せる。
最後に設楽さんは、「ヤマハは楽しむ意欲、挑戦する勇気、成長する喜びといった活力を常に人や社会に発信する存在であり続ける」とし、プレスカンファレンスを締めくくった。
内燃機関で培ったDNAをパワートレインに注入
設楽さんがプレスカンファレンスで触れたマルチパスウェイの研究開発による製品への対応。その中で、自動車用電動駆動ユニット「e-Axle」なるワードが出た。これは、ヤマハが自動車メーカーへの供給を目的に開発を進めるEVパワートレインのことだ。
実は、ヤマハの自動車エンジン開発の歴史は長く、1959年のヤマハ技術研究所設立にまで遡る。名車「トヨタ2000GT」の1,988cc水冷直列6気筒DOHCエンジンも、当時の「クラウン」が搭載していた直列6気筒エンジンにヤマハが開発したツインカムヘッドを載せて高性能化したものだった。
このように、長らく自動車用内燃機関の開発で培ってきたヤマハのDNAを、EVパワートレインに落とし込んだのがエレクトリックエンジンの「αlive EE」だ。
軽量かつコンパクトなところが「αlive EE」の特徴。それを実現できた要因は、モーター、インバーター、ギアボックスをひとつにまとめる「機電一体化」という技術の採用だ。
例えば、インバーターを別の場所に置いてしまうと、それに伴い高圧配線を取り回さなければいけなくなる。高圧配線は銅でできているため、けっこうな重量物だ。機電一体化による3in1構造であれば使用する銅線が減り、空間を広く使える。効率の観点から見たメリットは大きいという。
EVパワートレインは量産供給を目指して本格的に開発しているとのこと。その本気度がうかがえるのが冷却システムだ。
冷却は油冷方式だが、最高回転数1万5,000rpmという領域を高い出力のまま使い続けるには熱的にハードルが残る。そこで、どのような向き、どのような形でオイルをかければコイルを満遍なく冷やす効果が得られるのかを、解析と可視化によって実機評価して成立させているという。
仮に「αlive EE」の供給が実現した場合、どのくらいの価格帯のクルマに納めることになるのか。担当者に尋ねると、「相手があることなので」と前置きした上で、「大量生産はあまり狙っておらず、少量生産も視野に入っています。そうすると、搭載されるクルマの価格帯も、ある程度は上位のクラスになってくるのかなと想定しています」とのことだった。












