今秋は『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系)、『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)、『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)など豪華キャストの話題作がそろうが、注目の主演俳優として忘れてはいけないのが『終幕のロンドーもう二度と、会えないあなたにー』(カンテレ・フジ系)の草なぎ剛。

今作では、妻を亡くして一人で息子を育てながら、遺品整理人として遺族に寄り添う姿が感動を誘っている。

特筆すべきは主演・草なぎ剛とカンテレのタッグが10作目であること(単発ドラマ1作含む)。97年の連ドラ初主演作『いいひと。』から、00年代の『僕シリーズ』三部作、10年代から20年代の『戦争シリーズ』三部作、2025年の今作など、30年弱にわたって関係性を継続してきたことにあらためて驚かされる。

なかでも、草なぎが数々の演出家や脚本家から絶賛を受ける名優となったきっかけといえば、03年の『僕の生きる道』で間違いないだろう。どんな作品で、草なぎにとってどんなきっかけとなったのか。ドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。

  • 『僕の生きる道』制作 関西テレビ/共同テレビ

    『僕の生きる道』制作 関西テレビ/共同テレビ

回を追うごとにやせる壮絶な役作り

草なぎは97年に『いいひと。』で主演を務めることになったとき、「最初で最後」と自虐気味に語っていたが、当時は本気で「そうかもしれない」と感じる視聴者が少なくなかった。強烈なカリスマ性を放つSMAPの中で、草なぎのイメージはいい人。「このドラマ以上に合う役柄はない」と思われ、その後もイメージは変わらず普通のいい人を演じることが多かった。

しかし、『僕の生きる道』で演じた中村秀雄は決して普通のいい人ではなかった。陽輪学園の生物教師である秀雄は、淡々と授業をこなす無気力なタイプで、生徒の悪態も見て見ぬフリ。当然ながら生徒からも同僚からも慕われておらず、序盤の秀雄は主人公とは思えないほど魅力のない人間だった。

しかし、秀雄はある日、余命1年の宣告を受けたことで状況が一変する。葛藤や臨死体験などを経て「いかに1年を生き抜くか」を考え、悔いのないように生きることを決意。これまで生きてきた28年間を上回る充実した余命1年を過ごすべく歩きはじめていく。

今なお鮮明に思い起こされるのは草なぎの壮絶な役作り。回を追うごとに痩せ細りながら、その眼差しには生気が宿り、生徒たちを力強く導いていく主人公の姿が視聴者を引きつけた。草なぎは自ら壮絶な減量に挑み、チーフ演出の星護らを驚かせたことは業界内で有名な話だ。

それまでダメ男だった秀雄が生徒たちを導き、夢だった合唱も、最愛の人との関係も深めていく物語に無理がなかったのは、草なぎの醸し出すオーラがすさまじかったからだろう。言葉では説明できないレベルの迫力を感じさせられるため、未見の人にはおすすめしておきたい。

ともあれ、当作がそれまで「普通のいい人」の役が多かった草なぎの演技力が業界中に認められるきっかけとなったのは確かだ。